喬家大院

全45集/2005年

 清末の実在の商人・喬致庸の生涯を描いたドラマ。2006年、中国で最高のヒットを記録している。
 張藝謀の映画「紅夢(原題:大紅燈籠高高掛)」のロケ地となって一躍有名になった喬家大院。タイトルもそのものずばりのこのドラマ、いかにもウケを狙ったようで最初は食指が動かなかった。しかし大ヒット、しかも個人的に興味のある晋商ものとあっては、やはり見ないわけにはいかなかった。
 見ての感想は、面白いし良いドラマだけど、期待が大きすぎたかなあというのが正直なところ。「龍票」「白銀谷」といった先行作品とつい比べてしまう私も悪いが。倒産しかかった家業を立て直すのは「龍票」でも見たな。意にそまぬ結婚、ああまたか。旧習の改革、これもいい加減見慣れてきた。南方の納税の代行を請け負うのは「龍票」でもやってた。ライバルが汚い手を使うあたり「白銀谷」を思い出した。主人公は必ず一度は牢にぶちこまれる(晋商ではないが、『銭王』もだ)。外国資本に負けるな中国の資産を守れ(『銭王』でも『紅頂商人胡雪岩』でもやってた)。なんだかデジャヴだらけ。
 決してそれが悪いわけではない。同じ時代、似たテーマなのでどうしてもパターンが決まってくるのは仕方ないし、充分面白い。何より他作品を見ていなければ全く気にならないことばかりだ。
 ただ、何か物足りない。商売ものと思うと、後半主人公は半隠居状態になってしまうし(それが悲劇でもあるが)、タイトルから「大宅門」や「白銀谷」のような家族内での葛藤ドラマを想像したが、期待と違った。モンゴルから福建、広東までを舞台にし、映像からは壮大なイメージを受けるものの、物語自体にスケールの大きさが今ひとつ感じられないのは何故だろう。
 もちろん商人ドラマの定石として、目先の利益より信義を重んじよ(そうすれば儲けは後からついてくる)、商売は世のため人のためお国のために、同業者とは共存共栄、といった教訓が十二分に盛り込まれ、実に分かりやすい。他にも現代社会に通じる問題意識はあちこちに感じられる。
 しかし、主人公がしたたかに権力と斬り結んだ「龍票」、時代の変化ひいては清朝崩壊をも見通した「白銀谷」に比べると、「喬家大院」の迫力不足は否めない。「白銀谷」と「喬家大院」の西太后との対面の場面を見比べると両者の違いは明らかだ。少々問題があろうとお上(つまり共産党政府)にはおとなしく従えということか。喬致庸は権力者に裏切られ、清朝政府にガタが来ているのを目にしながらも、あくまで官のためイコール人民のため、なのだ。うん、このへんが物足りなかった最大の原因だ。
 それにしても、同じ晋商ものでも「喬家大院」だけがヒットした理由は何なのだろうか。分かりやすさ、重すぎないことだろうか。(「龍票」も「白銀谷」も暗く重かった。)馬伊俐、蒋勤勤、娟子のヒロイン陣がそれぞれ良かったのも大きいか。
 以上、いろいろ難癖をつけてしまったが、もしかしたら、主演の陳建斌が私の好みじゃないというだけの理由からかもしれない。ブサイクなのはまあ許すとして、もうちょっと色気か迫力か愛嬌のどれかがほしい。(あくまで私の好みの問題です。)なお他の出演者では雷恪生が素晴らしかった。
 時に繊細、時に壮大かつ流麗な映像も素晴らしい。この撮影を手がけた有名カメラマンの池小寧氏が、私が本作を鑑賞しはじめたとたん、2007年7月11日に亡くなってしまった。まだ52歳。(「紅楼夢」の撮影もこの人のはずだったのに……!)ご冥福をお祈りいたします。(2007年9月)

舞台:常家荘園楡次老城三多堂(曹家大院)渠家大院喬家大院協同慶銭荘祁県太谷

あらすじ
 祁県の喬家の次男・喬致庸は郷試のため太原へ赴くが、試験の最中、兄の訃報が届く。喬致庸は兄の包頭での投機の失敗により破産の危機に瀕した家業を継ぐはめに。さらに恋人・江雪瑛との仲を裂かれ、金銭的援助を求めるために陸玉菡を娶ることになる。しかしその甲斐あって家業を建て直し、やがて次第に商売を広げていく。さらに票号業に参入しようとするが……。

登場人物&キャスト
喬致庸:陳建斌
 科挙を受けるが、兄の死によりやむなく家業を継ぐ。破産の危機を乗り切った後は、店を改革し、さまざまな困難を克服しつつ商売を広げていく。やがて票号の経営を始め「匯通天下(為替を全国に流通させる)」を理想とする。ドラマを見ている時はフィクションだと思っていたが、実在の人だった。1818生~1907没。

曹月枝:娟 子
 喬致庸の兄・喬致広の妻。幼い時に両親を亡くした喬致庸にとって年の離れた兄夫婦は親も同然、兄嫁は母親同然である。夫の「弟に学問を続けさせろ」という遺言を枉げて喬致庸に家業を継がせ、喬致庸と江雪瑛の仲を知りながら資産家の娘・陸玉菡との縁組をまとめてしまう。

江雪瑛:馬伊俐
 喬致庸の母方の従妹で幼馴染。許婚も同然の仲だったが喬家に裏切られ、やがて「喬家や陸家より金持ちの」楡次の何家に嫁ぐ。間もなく夫に先立たれ、舅の死後、何家のあるじとなる。ドラマでは後半生がすっぽり抜けていたのが気になる~。

陸玉菡:蒋勤勤
 陸大可の娘。太原で偶然見かけた喬致庸に片思い。やがて思いが叶って喬致庸に嫁ぐ。夫が金に困るとあの手この手で父親から金を引き出し、内助の功を発揮。

陸大可:雷恪生
 太谷の商人。陸玉菡の父。玉器店を営む資産家で「山西一のケチ」として有名。しかし、愛娘を思う気持ちに勝てず、倒産寸前の喬家との縁組を承知し、その後も婿を援助し続ける。

孫茂才:倪大宏
 太原での試験の際、喬致庸と知り合った貧乏読書人。喬家の危機を知り、自ら喬致庸を訪ね参謀となる。その後、二人三脚で商売を成功させていくが……。

曹掌櫃:徐正運
 喬家の主の片腕として働く掌櫃(番頭)。真面目で人がよい。喬家とともにドラマの最初から最後までいる。案外影の主役かも?

邱天駿:傅学成
 喬家の商売仇・仇家のあるじ。包頭での喬致広との投機合戦の相手、やがて喬致庸に敗北するが、その時の喬致庸の態度に心服する。

崔鳴十:姜 峰
 邱家の大掌櫃。先代の大掌櫃だった兄・崔鳴九が喬致庸との争いの結果逮捕されたため、喬致庸を恨み、喬家を潰そうと暗躍する。

劉黒七:朱徳承
 山賊。崔鳴九の差し金で喬家を襲うが。後に太平天国に参加する。

戴二閭:于承恵
 劉黒七に狙われた喬家を守るため、喬致庸が苦労して担ぎ出した鏢局のあるじ。戴二閭は実在の有名な鏢師らしい。

馬 荀:張洪睿
 喬家の包頭の店の古株の伙計(店員)だった。喬致庸に見込まれて包頭の掌櫃に抜擢され、期待通りの働きをする。

鉄信石:宋 凱
 行き倒れのところを陸玉菡に救われ、馬夫として働く。陸玉菡について喬家にやってきた。武術ができ、何か秘密がありそう。

潘為厳:陸剣民
 清朝政府に睨まれ表立って活動ができなくなった喬致庸が、商売のすべてを任すためにスカウトした大掌櫃。

スタッフ
出品人:朱彤、徐沛欣
総策劃:申維辰、王正前、汪国輝
策  劃:沈呂遂、李蘇平、尚金華、曹煜、王学峰、張曲波、王雲飛、温和
総監製:博思、梁志祥、郭涛
監  製:李友忠、劉貴珍、李光明、卜天月、梁凱成、丁立功
総顧問:喬燕和
顧  問:胡育先、陳湜、武殿奇、馮文萍
編  劇:朱秀海
責任編審:黄海涛
責任製片人:林威、彭娜
総撮影:池小寧
美  術:毛懐清
作  曲:趙季平
友情出演:王絵春、呂中、呂暁禾、于承恵、謝鋼、陸剣民
総製片人:孟凡耀
総導演:胡玫

主題歌
片尾歌「遠情」  作詞:易茗/作曲:趙季平/独唱:譚晶

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