清朝後期、巨万の富を築いた山西商人(注1)・祁子俊の栄光と悲劇を描いた大河ドラマ。辮髪姿もうるわしい黄暁明が、祁子俊の十代後半から20年近くにわたる半生を熱演。しかし気軽に黄暁明を鑑賞するつもりに反して、とんでもなく重く肩の凝るドラマだった。
「龍票」とは清の太祖・ヌルハチが明との戦いの時、内地の商人から軍需品を購入する際に使用した手形のこと。偶然これを手に入れた(といっても四万両も出した)祁子俊はこの「龍票」のおかげで活路を開き、その後もうまく利用していく。
時代は道光末期から咸豊を経て同治初めまで。アヘン戦争以来、清朝が斜陽を迎え、太平天国の乱(1850~64)、アロー号戦争(1856年)などが続く内憂外患の時代だ。祁子俊は世情を利用し、さらに役人や権力者に取り入って商売を広げ、若くして山西経済界のトップにのし上がる。人並みはずれた才覚と行動力の賜物だが、一方で常識人から見ると眉をひそめたくなるようなことも平気でするし、犯罪にも手を染める。それと対比されるのが、祁子俊の舅で、商売にも「義」を重んじ、世のため人ためを第一義とする人格者・関近儒。さらに地位を利用して金儲けに走る役人ども、商人から金を吸い取ろうとする清朝政府などが描かれ、経済界から見た清朝の衰亡といった趣もある。清朝政府を体現する人物として祁子俊とかかわりあうのが恭親王・奕訢で、お互い利用し利用される二人の駆け引きはドラマの見所。
正直、清朝経済の知識がないとよくわからない箇所がいくつかあったうえ、たぬき親父どものよく言えば虚虚実実の、悪く言えばウソくさい会話が延々と続いたりするので、ストーリーを把握するためには台詞を一言も聞き漏らさないよう(字幕を読み落さないよう、が正しい)、一瞬も気が抜けない。さらに祁子俊のギャンブラーっぷりと、恭親王との戦い(?)にハラハラさせられ通し。おかげでますます肩に力が入ってしまい、ちょっと疲れた。それでも最終回、祁子俊と恭親王がついに本音をぶつけ合うクライマックスから、息子がかつての祁子俊と同じく辺境にキャラバン隊を引いて進むラストまでを見終わった時には、感動に打ちのめされた。
しぶい内容のせいか視聴率もぱっとしなかったようだが、いいドラマなのにもったいない。明教徒(黄暁明ファンのこと)の間でもあまり話題にならないのは、さらにもったいない。私はこれできっぱり明教に入信したというのに。(2006年5月)
注1:「晋商」という(晋は山西の古称)。山西は鉄と塩の産地で商売が盛んだったが、清代には金融業を主とし、全国の金融を独占するほどだった。
舞台:常家荘園、
楡次老城、
三多堂(曹家大院)、
祁県
あらすじ
山西・祁県の票号(注2)「義誠信」のあるじ祁伯群の次男・祁子俊は、父の命令で北京支店に修業に来ているはずが、金にあかせて遊んでばかり。ある日、琉璃廠の骨董店でお忍びの奕訢と玉麟格格から偶然「龍票」を手に入れる。同じ頃、戸部(注3)を管轄する瑞王と戸部尚書・黄玉昆の不正が元で、巻き添えをくった義誠信は営業停止に、祁子俊の父と兄が死んでしまう。降ってわいた災難に祁子俊は家業再興を誓う。祁子俊は舅の関近儒のもとで働き始め、やがて太平天国の乱の混乱に乗じて「義誠信」の再起をはかり、役人にわたりをつけ次第に店を大きくしていく。さらには太平天国とも取引する一方、清朝政府相手にもうまく立ち回り、全国屈指の富豪となり官職も得る。しかし、次々にふりかかる難題をクリアするうちに、そのためにかえって進むか死かの綱渡りに陥ってしまう。
注2:「票号」は銀行のような金融業で、中国初の票号「日昇昌」は1823年にまさに山西省の平遥に誕生している。私はこのドラマのおかげで「銭荘」と「票号」が違うことを知ったが、違いが分からないまま。「票号」開業には政府の認可が必要らしい。
注3:財政、経済などを司る。
登場人物&キャスト
![]() | 祁子俊:黄暁明 |
![]() | 恭親王:修 慶 |
![]() | 関素梅:孫 寧 |
![]() | 潤 玉:秦 嵐 |
![]() | 玉麟格格:呉 婷 |
![]() | 席慕筠:蒋 欣 |
![]() | 楊松林:舒耀暄 |
![]() | 関近儒:高蘭村 |
![]() | 瑞王爺:薛中鋭 |
![]() | 黄玉昆:樊志起 |
![]() | 蘇文瑞:張志堅 |
![]() | 祁夫人:朱 琳 |
![]() | 宝 珠:孫姿伊 |
![]() | 関家驥:翟羽佳 |
![]() ![]() | 祁世禎 |
![]() | ※おまけ画像。 |
スタッフ
総監製:胡国華、閻憲奇
出品人:游建鳴、林礎蒲
総策劃:呉兆龍、游建鳴
編 劇:王躍文、呉兆龍、李躍森
参与劇本策劃:陳郁龍、曲直、于淑蓮、周山湖、王学偉、張国華
総導演:龔藝群
導 演:桑樺、羅蘭
撮 影:桑樺、呉隆甚、褚宝忠
総美術:張愛民
造型設計:陳嘉儀
照 明:康建英
道 具:王松坡
録 音:張 敏
剪 輯:張文、劉瑞洵
劇中音楽作曲:郭鼎文、郭楽童
片頭片尾詞曲:韓葆、王暁峰
執行製片人:王学偉
監 制:劉熾良、麦汝祥
総製片人:游建鳴、胡勁民
主題歌
片頭歌「掙脱」 作詞:韓葆/作曲:王暁峰/演唱:汪正正
片尾歌「月色如傷」 作詞:韓葆/作曲:王暁峰/演唱:徐洋