白銀谷

全45集/2004年

 票号(銀行のような金融業者。『龍票』も参照ください。)が集まり栄えていることから「白銀谷」と呼ばれる山西省の町・太谷。清朝末期、激動へと向う時代を背景に、票号「天成元」を経営する太谷・康家の盛衰が壮大なスケールで描かれる。
 物語の冒頭、欧州帰りで開明的な娘・杜筠清(寧静)が、思わぬ成り行きで封建的な康家の老主人に嫁ぐ。外来者の視点から大家族の内情が描かれていく様は、「紅楼夢」で林黛玉が賈府に入るあたりの描写を想起させる。ああ、先日の陳暁旭さん死去のショックを引きずっているため、どうしても連想が……。そうでなくとも大家族の盛衰、多くの登場人物の織り成す群像劇には、いやでも「紅楼夢」を思い出してしまう。もっとも、ヒロイン・杜筠清は林黛玉と違ってエネルギーに満ちて物語をかき回し、その他の主要人物は「紅楼夢」と正反対におやじだらけだ。
 封建的な家庭になじめない杜筠清の出現によって、康家の古さや綻びが炙り出されていく。その康家では次期当主の座をめぐって父子兄弟の暗闘があり、天成元では改革派と伝統派が入り乱れて店員同士が争い、対外的には商売敵との戦いがあり、さらに男女の愛憎などが複雑に絡み合い、ドラマは展開していく。
 ストーリーからすると、主人公と言えるのは康三爺(侯勇)と杜筠清だろうが、物語の中心にあり圧倒的な存在感でドラマ全体を支配するのは、康家のあるじ・康笏南(杜雨露)だ。専制的な一族の長である康笏南は数十年にわたって卓越した経営者であり、年をとっても少しも衰えてはいないものの、さすがに時代に遅れつつあり、変革を求める息子の三爺らと対立しつつある。しかし、それを自分でも認識し、世の中が変化することを誰よりも早く察知しているのがすごい。
 こういう商人ドラマでは、主人公が高い理念を持った経営者であるのが常だが、本作でもそれが説得力を持って描かれる。「民の利益のために努力せよ。民に利益が無ければ国に利益は無く、国に利益が無ければ民心は落ち着かず、民心が落ち着かなければ国は安定せず、国が安定しなければ商売繁盛はありえない」。康笏南が語るこの言葉に、現代の経営者の皆さんも是非耳を傾けていただきたい。あるじだけではない。北京の天成元を潰そうとする敵が仕掛けた罠を、北京分号を預かる邱泰基(劉威)らはいかにして乗り切ったか。そして焼き討ちに遭った店から必死に持ち出した顧客の帳簿を守って危険をかいくぐりながら太谷に戻る店員たちの奮闘ぶり。天成元を支える人々の仕事にかけるプライドと店の信用を守ろうとする姿には胸が熱くなる。
 とはいえ、混迷する世相と軌を一にして、商売もがたついていく。ラストは決して明るくはないが、一筋の光明と言えるのは、争いの外にいた康家の若者たちだ。杜筠清の影響で新しい道の存在を知った汝梅や六爺夫婦は、日本に留学する。やがて帰国した六爺夫婦に子が生まれる、つまり康家の新世代の誕生を告げてドラマは幕を閉じる。その未来には嵐が待ち受けているが、彼らは恐れることなく困難に立ち向かっていくだろうと思えるのが救いだ。
 ドラマ全体を通して、地味ながらも物語に起伏があり、息をつかせぬ展開だ。何より、ベテラン実力派俳優がずらりと揃って演技の火花を散らし、それが後半ますます凄みを増してくる。あまり気にしていなかった脇役が突然大きな存在感を持ってきたりするので、注意深く見たほうがいい。また、「龍票」と同じお屋敷でロケしたらしい康家の邸宅が素晴らしく、時々人物よりも背景に目を奪われそうになった。(2007年5月)


舞台:常家荘園楡次老城三多堂(曹家大院)協同慶銭荘太谷

あらすじ
   光緒24年、駐フランス領事・杜長萱は、北京で誤って人を殺してしたことから、一人娘の杜筠清を連れて亡き妻の実家である山西・太谷の大商家・秦家を頼る。途中で出会った康三爺と杜筠清は惹かれ合うが、秦家と康家は代々の商売敵だった。秦家は杜筠清に縁組を申し出るが、紆余曲折の末、杜筠清は康三爺の父・康笏南に嫁ぐ。康家のしきたりに反発する杜筠清は次々にトラブルを起こし、次期当主の座をめぐる人々の思惑も絡んで、康家には不穏な空気が流れる。そして秦家は康家を潰そうとさまざまな罠を仕掛けてくる。……

登場人物&キャスト
康笏南:杜雨露
 康家と票号「天成元」の老主人。にじみ出る迫力と貫禄はただ事ではなく、いい年した息子たちが父親の前ではすっかり萎縮してしまう。何度も妻を亡くし、杜筠清は五番目の妻。やがて意外な秘密が明らかに。

杜筠清:寧 静
 幼い頃からフランスで過ごしたため、外国語が堪能で(ドラマの中では披露してくれない)、欧風の教養と思想を身につけ、自己主張が強い。寧静のメイクがケバすぎるのが、このドラマ唯一の欠点。

康三爺:侯 勇
 康笏南の三男。騎馬、飲酒、舞剣、吹簫が得意のため四絶公子とよばれる風流人。妻が他界し、一人娘の汝梅がいる。杜筠清と愛し合うが、彼女が父に嫁ぐのを阻止できなかったことが運命を変える。

邱泰基:劉 威
 最初は天成元・北京分号の掌櫃だったが、失敗によって降格される。康三爺を信頼し、次期当主にと望んでいる。仕事熱心と店への忠義は人一倍だが、横柄な性格が禍いして敵も多い。

康四爺:趙 君
 康笏南の四男。康三爺の同腹の弟。これまで優れた兄と弟の陰に隠れて目立たなかった。五爺の死後、次期当主の座を狙って暗躍する腹黒い小人。

四 嫂:劉莉莉
 康四爺の妻。何もかもが気に入らないといった風で、常に文句や嫌味を甲高い声でわめいている。美人なのに……。夫との間に幼い息子がひとり。

孫大掌櫃(孫北溟):譚非翎
 康笏南の信頼厚い大番頭。邱泰基を嫌って大事を任せられないと信じているが、かといって彼を引きずり落とすため汚い手段を使おうとはせず、康四爺の挑発や小細工に対しても泰然と構えて乗らない懐の大きさも合わせ持つ。

康六爺(康重龍):李 超
 康笏南の六男。ドラマの冒頭で母の孟夫人が突然死去。母の遺志により科挙の勉強を続けている。次第に杜筠清に傾倒する。

秦大少(秦敬平):王偉軍
 康家のライバル・秦家の当主の長男。老いた父に代わり、家業を取り仕切る。康家つぶしに必死で、そのためには汚い手も使う。

老 亭:王響偉
 康笏南の側近。

何挙人:牛 犇
 康六爺の教師。康家の商売にも一家言ある。

邱夫人:梁 静
 邱泰基の妻。夫の留守を守り、寂しさに耐えかねている。

豪 姫:林 静
 杜筠清を失い失意の康三爺が包頭にいた時期知り合った、モンゴル族の酒場の女主人。康三爺に思いを寄せる。

汝 梅:夏亭寅子
 康三爺の一人娘。杜筠清になつく。活発で初々しくて、ドラマの清涼剤。

康五爺:于 軍
 康笏南の五男。父親に一番愛されていたが、才能を恃んで独断専行のきらいがあり、それが命取りになった。

秦老太爺:李春甫
 秦家の老主人。すでに家業は長男に任せているが、子供の頃から康笏南とライバル。

秦二少(秦敬貴):傅程鵬
 秦老太爺の次男。杜筠清に振られる。遊び人を装っているが。

康大爺:劉偉明
 康笏南の長男。耳が悪く、商売にも関わらないため、長男であるにもかかわらず影が薄い。仏教に傾倒しおだやかな人柄で、杜筠清にも好意的。しかし、おとなしいだけの人物でないことが後に分かる。

大 嫂:方暁莉
 康大爺の妻。常に夫にひっそりと付き従っているが、実は芯のしっかりした女性。

杜長萱:満貫軍
 杜筠清の父。駐フランス領事だったが、殺人に免職と不幸な事件が重なり、娘を連れて亡き妻の実家である秦家を頼るが。

康 旺:張新華
 康三爺の片腕。

スタッフ
出品人:王金栄、姚暁東、馬潤生、王智強
総監製:江懐延、周莉、梁志祥、崔強、趙景春、劉杰
総策劃:凡兵、江懐延、於敏、董育中、李吉瑞、万克、陳新民、周紹成、柏松、韋冰
総製片人:春香永
劇本総監:胡偉躍
編  劇:鄧原
監  製:蕭泉、程春麗、王仁海、高桂琴、張暁建
策  劃:陳輝、湯軍慶、石衛平、劉郡、満秀彦、安琪、許輝、張海英、孫雷、張潤元、張少輝、程健、荘学軍、宋凌雲
製片人:韓昆峰、宇茂、王建明、傅英
導  演:蘇舟

主題歌
片頭歌  演唱:金学峰
片尾歌  演唱:姚貝娜
  作詞:江懐延/作曲:魏杰軍/演奏:中国交響楽団

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