大槐樹

全42集/2006年

 元末から明初の戦乱で荒廃し人口が激減した中国各地に、山西から大量の住民を移住させたという史実に基づくドラマ。タイトルの大槐樹とは、山西省南部の洪洞にあった巨大な槐の木で、ここに移民が集められ各地へ送り出されたため、この木が故郷・山西のシンボルとなったのだという。今でも「問我老家在何処、西洪洞大槐樹……」なる民謡が各地にあるそうだ。数年前に洪洞を訪れた際にこの話に興味をもったのと、お気に入りの楡次・常家荘園でロケしているという理由から、本作を鑑賞。
 洪武8年、明の太祖・朱元璋(鮑国安)は、地理的に戦乱の影響をあまり受けず、狭い土地に人口過密となった山西から中国各地へ住民を移動させることを決定、実行に移す。しかし、無計画で強引なやり方で民の恨みを買い、しかも移民の責任者らが立場を利用して私腹を肥やしていた。平陽(現・山西省臨汾市)出身の若き官僚・林屹(陸毅)は、故郷の人々の苦しみを知り、移民を中止するよう訴え皇帝の怒りを買う。その頃、移民事業を現地調査していた林屹の長兄・林峰が殺害される。林屹は事件を調査するうち、移民欽差の蘇佩文(張子健)らが不正や悪事を行い、それを知った林峰の殺害を指示したことを突き止める。その過程で、中原の荒廃のさまを目にし、山西の民の貧しさを見聞きした林屹は、富国強兵のために移民は必要、移民した人々も豊かになれると信じるようになり、自ら志願して移民欽差となり移民事業を統括することになる。しかし、蘇佩文の罪を暴いたために敵を作った林屹の前には多くの困難が立ちはだかり、さらには親兄弟、親族らも移民を拒み、林屹を非難するのだった。そんな彼を支え、協力するのが、晋陽公主・馬媛(陳好)。
 冒頭では、いきなり住民を拉致して強制連行し、何もなしに異郷の地に放り出す。本当にこんな無茶苦茶をしてたのか。これで「民はなぜ反抗するのだ!」と腹を立てる朱元璋、早くもヤキが回ったか。そもそも、秩序立てて計画的にことを進めようという意見が何故出てこないんだよ、おかしいじゃん! あ、あとで主人公がやるのか。……というわけで、出だしはややイラついた。林屹が移民制度改革に乗り出してからは、金銭や食糧を与え、移住先で3年間租税を免除など、人々が自発的に移民するよう制度を整え、移民の必要性と優位性を説得して回る。膨大な費用がかかるため、費用調達のために「開中法」のアイデアを出す。制度の不備に気付けば正していく。しかし移民に反対する勢力や、林屹に恨みを抱く人物らが、邪魔をしたり裏で彼を陥れようと悪事を働き、はては何度も命を狙ってくる。しかも敵は家族内にまで……。
 こうした難局を林屹が一つ一つ乗り越えていくわけだが、スリルや悲壮感があまり感じられないのが、やや物足りない。林屹は頭が良くて常に敵の裏をかくし、欽差という身分なので誰も滅多なことでは手出しできないし、皇帝に信頼されて尚方宝剣まで与えられているし、彼を愛する公主が常に協力してくれるし、ついでに実家が裕福なのでポケットマネーには不自由していないしで、何があっても大丈夫という安心感がありすぎる。それと関連するかもしれないが、この主人公、なんだかキャラが薄味。頭がよくて性格もよくて正義感が強くてイケメンで身分が高くてお金持ちで。なんか面白くないぞ。
 主人公だけでなく、ヒロインもその他の登場人物たちも、一部を除いて、皆さんもうちょっとキャラ立ちしてくれれば、と惜しまれる。ドラマ全体の演出は、ごくオーソドックス。各地の物語が平行して描かれるのだが、場面の切り替えがちょっとせわしない。
 一番気になったのは、官服の補子(官服の四角い刺繍)のデザインが何やらヘンなこと。そして、官帽の翅(後ろから左右に出ている飾り?部分)が妙に大きする。別に本物通りにする必要もないが、やや目障り。
 それにしても、一度に10万人、5年間で300万人の移民とは、規模が大きすぎて気が遠くなる。最終的に50年にわたって事業は続けられたらしい。このスケールの大きさと強引さには、さすが中国、としか言えない。よく考えると、現代でも似たことをしている。また、ドラマでは中国人の祖先の地や血縁に寄せる思いの強さもよく描かれている。(2010年10月)

舞台:常家荘園楡次老城大槐樹尋根祭祖園

あらすじ
 洪武8年、明の太祖・朱元璋は山西から中国各地への大規模な移民事業を始めるが、移民欽差・蘇佩文と成国公・馬栄は住民を拉致同然に連行し、山西には怨嗟の声が満ちる。そんな中、蘇佩文は立場を利用して不正を行い、私腹を肥やしていた。この有様を目にした林屹は移民の中止を訴え、朱元璋の怒りを買う。実はその直前、朱元璋と馬皇后(鄭爽)は、晋陽公主・馬媛の婿候補として林屹に白羽の矢を立てていた。林屹に会った馬媛は彼を気に入り、林屹が林峰殺害事件の調査や移民事業のために山西に赴けば、自分も調査と移民の監督という名目で山西にやって来て、林屹に協力するようになる。反対派の陰謀や一族からの突き上げなど困難続きの林屹だが、様々な問題を解決し、移民事業を軌道に乗せていく。やがて、淮南への移民が逃げ帰ってくるという事態が発生。問題解決のため、淮南で移民を虐げる淮南王と対決すべく、林屹は決死の覚悟で淮南へ向かう。……

キャスト&人物紹介
林  屹:陸  毅
  平陽の裕福な商人の息子、5人兄弟の3番目。状元になり、ドラマ開始の時点で四品の翰林院侍読学士、劇中で少しづつ出世。移民欽差になり、移民した人々を豊かに幸せにするために心を砕く。キャラにもう少しひねりが欲しい!

馬  媛:陳  好
  馬皇后の姪だが、朱元璋にも可愛がられて晋陽公主に封じられる。林屹に好意を持ち、林峰殺害事件の調査や移民監督のためという名目で山西にやってきて、常に林屹に協力。このツンデレのお姫様というキャラ、正直今ひとつ面白くない。

朱元璋:鮑国安
  皇帝になって8年、かなり頭が固くなったように見受けられる。いくら従兄弟だからといって、淮南王を野放しにしていたのは何故?

王文念:李  琦
  林兄弟のおじさん。林鳳閣の第二夫人の兄か? 商人だが、目先の事に囚われてがめつく、頭も悪そう。移民に反対し、そこにつけこまれて悪いやつに利用され、何かと騒ぎを起こし、林屹を困らせる。息子の王岩(王翔)は、父親に振り回されて気の毒。

鶯  児:陳  捷
  馬媛に子供の頃から仕える侍女。小柄で可愛くて気が強くてこましゃくれて口が達者という典型的な小間使いキャラ。主人に輪をかけたツンデレ娘。

黄二喜:劉瀟瀟
  林屹の召使い。どんくさそうな見た目の割に意外に有能……なのか。姉の嫁ぎ先一家、やがて両親と兄が移民する。吃音。

蘇瞬卿:方  圓
  胡漣によって林屹のもとにスパイとして送りこまれた娘。しかし林屹を愛してしまい、毒殺命令に背いてしまうという、これまた想像通りの展開。いかにも江南風の楚々とした美人だが、鬱陶しい。ヘアスタイルも惜しい。

林鳳閣:張先衡
  林屹ら5人兄弟の父。悪い人ではないのだが、何だかふらふらして今ひとつ頼りない。林屹が孝より忠を優先させるのが不満。

高  氏:康群智
  林鳳閣の妻、林峰と林屹の母。しっかり者で、林家を支えているのはたぶん彼女。もちろん林屹の味方。

二夫人:賈  婭
  林鳳閣の第二夫人。林峻、林崢、林嵊の母。高氏との仲はよろしくない。

林  峻:劉奕君
  林屹の腹違いの次兄。嫡男の林峰の死後、あからさまに林家の家督を狙う。とうぜん林屹とも仲が悪い。さまざまな悪事に加担しているが、結局は小者。妻の江氏(張月)も不愉快な女。

林  崢:楊  東
  林屹の腹違いの四弟。博打好きでだらしなく、しょっちゅう林峻に金をせびっているらしい。

林  嵊:普皓寧
  林屹の腹違いの五弟。同腹の兄二人に似ず、頭がよくて有能。林屹とも仲が良く、移民署で働き始めてからは、林屹のなくてはならない片腕となる。

朱推官:韓福利
  平陽の真面目で立派な役人。推官とは、警察みたいな役目か? 林屹も頼りにしている。

馬  成:李  鋒
  錦衣衛、馬媛の護衛。馬媛の意向もあるだろうが、林屹にたいへん協力的。占い師や小物売りに化けたりまで……。ご苦労様としか言いようがない。

蘇佩文:張子健
  最初の移民欽差。丞相・胡岩の娘婿であることもあり、山西でやりたい放題。だが林屹に罪を暴かれて、退場。これがもとで林屹は胡岩一派に狙われることになる。

陳修文:柳玉林
  最初は山西按察史、後に山西布政史。胡岩の意を受け、打倒・林屹を画策する。

鄒参議:洛  丹
  布政史衙の役人、陳修文の手先。林屹を陥れようと策を練るが失敗続き。林屹を殺そうとするのも、だんだん理由はどうでもよくて意地になってるだけのような。

胡  岩:鄧  林
  丞相。林屹の師である張智の政敵でもあり、移民に反対する。林屹のせいで娘婿の蘇佩文を失ったため逆恨みし、林屹を失脚させようと狙う。ボスキャラのはずだが、本人の出番は少なく、影が薄い。

張  智:?
  エンドロールに名前がない……「張四維:焦体怡」のことか? 内閣大学士、林屹の師。朱元璋に信頼されており、林屹を弾劾する者たちと敵対する。

馬  栄:郝一平
  成国公。馬皇后の弟、馬媛の父。山西にあって移民の移送を司る。最初は林屹と対立するが、やがて林屹を気に入り、公私のラインは引きつつも協力する。

丁  健:馮国強
  移住先の山東で地元住民にいじめられて困っていた賈父に偶然出会い、助ける。後に淮南知府として再登場、淮南王と対決する林屹に協力する。けっこういい味を出していたが、そういう人に限って出番が少ない。

曾  克:鄧  鳴
  平陽知府。蘇佩文の手下で、移民逃れを餌に富豪らから多額の賄賂を取るなどしていた。林屹を陥れようとするが失敗、蘇佩文に罪をかぶせられ始末される。

胡  漣:趙  晋
  曾克の後任の平陽知府、胡岩の甥。当然、打倒・林屹に燃えるが、もちろん失敗。罪を暴かれ処刑される。

淮南王:蘇在強/淮南王妃:董姻
  朱元璋のいとこ。淮南でやりたい放題、移民に対するひどい仕打ちに、移民たちが淮南から逃げ帰ってくるという事態を招く。自ら淮南へ乗り込んできた林屹を何度も殺そうとするが、意外に優柔不断。王妃は胡漣の姉、弟の仇討ちのため林屹を陥れようとする。

林之孝:張貴生
  林家の管家。林家の主人である林鳳閣より高氏を重んじている模様。移民署でも役目をもらい、内でも外でも林屹に協力する。

二喜姐:薛佳/賈父: 尚鉄龍
  二喜の姉とその舅。移民第一陣として山東へ連行される。林屹が移民欽差になってからうまくいくようになり、苦労しつつも、安定した暮らしを手に入れていく。

黄大喜:張俊杰/大喜爹:劉任波/大喜娘:石杰強
  二喜の兄と両親。大喜は血の気が多く、恋人を奪おうとした林峻を襲ったり、移民を拒んで騒ぎを起こしたりするが、やがて両親とともに河南に移住する。結局、彼女は見つからずじまいか……。

朱 標:楊紫茳
  皇太子。移民の総監督として、林屹を支えているはず。出番が少なくて影が薄い。

スタッフ
出品人:丁澤興、丁羽心、王明健、趙樹喜、李軍明、翟仲礼
顧  問:申維辰、高建民
藝術顧問:仲呈祥、李準、楊志今
総策劃:胡蘇平、張平
総監製:楊波、梁志祥、謝海、羅慶宇、黄翠蓮
監  製:李海淵、杜学文、劉英魁、陳玉士、段新、晋其連
総製片人:李水合、王明健
製片人:郝一平、趙建平
編  劇:蕭陽
導  演:王文盛
総撮像:張製勝
総美術:銭運選
撮  影:耿勇
作  曲:張千一
録  音:王先涛
総導演:王文傑

主題歌
片尾歌  作詞:屈塬/作曲:張千一/演唱:譚晶

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