唐の太宗の即位から死までを描く超大作。隋末からの戦乱で疲弊し突厥の脅威に晒され弱体化した国をいかに建て直し、「貞観の治」と呼ばれる黄金時代を築くにいたったのか。その名君ぶりと、彼を支えた名臣たち、皇太子の座をめぐる争い、太宗の愛娘・安康公主の恋などが描かれる。全体の構成をものすごく大雑把に分けると、前半は対突厥戦、中盤は内政、後半は後継者争いの仕上げ。
さすが全82集もの長さだけあって、見所(とつっこみどころ)がてんこ盛りで実に贅沢な作り。出だしから普通のドラマならクライマックスになりそうな派手なシーンをガンガンと畳み掛けてくる。おいしそうなキャラが惜しげもなく死んでいき、面白くなりそうなエピソードもあっさり強制終了。それでもドラマはびくともせずに、悠々と進んでいく。
個人的には何といっても、ベテラン俳優らが繰り広げる熱いオヤジバトルが楽しい。大河ドラマの宿命で、太宗をはじめ主要人物が最初から実際以上に老けているため、よけいそのイメージが強い。太宗は即位当時29歳のはずだが、演じているのは唐国強で無理な若作りもしていないため、すでに晩年の貫禄。李勣も前半はまだ30歳すぎだが演じているのが張山なので、周囲から若造扱いされると違和感がある(しぶくてかっこいいけど)。それはともかく、太宗(唐国強)、杜如晦(陳宝国)、侯君集(杜志国)、長孫無忌(曹培昌)、岑文本(王絵春)、房玄齢(劉毓浜)、魏徴(董子武)、李靖(畢海峰)、李勣(張山)といった一筋縄ではいかない面々が顔を揃えると、もう「オヤジ祭!」と呼びたい気分だ。この個性もさまざまないい年したおっさんたちが、一様に太宗の知遇に感動し満面を涙で濡らすさまは何だかシュール、じゃなくて素直に感動しておこう。権謀術数のあれこれがあっても、彼らが太宗への忠義という点で一致し、お互いを認め合っているせいか、ドラマが陰湿にならない。
もちろんオヤジだけでなく若いキャラもいるのでご安心を。特に女性陣は美女揃い。しかし、若い男はなぜみな長髪を垂らしているのか。うっとうしいし、皆さんあまり似合っていない。女性はなぜか年をとらない。のはいいとして、たとえ脇役でも何年もたったら衣装を変えてあげて……。
登場人物の年齢が分かりにくいのと連動するわけでもないが、年月の推移がわかりにくく、「えっ、まだそれだけしか経ってないの?」「計算が合わなくないか?」「いきなりどんだけ月日が過ぎたんだ?」などと思うことたびたび。いちいち確認はしていないが、たぶん矛盾だらけの気がする。
やはり晩年の展開は速く、高句麗遠征の失敗など太宗に都合の悪い話はスルー。そして後を継いだ高宗がたいした名君になるようだが、そうなのか。前半は長孫無忌の、後半は武后の言いなりになるイメージしかなかったが。
ラストに高宗の口から語られるあからさまな国威発揚メッセージにはちょっと興ざめ。そこまで露骨な言葉にしなくても、ドラマを見ていればもう充分に分かるだろうに。監督の呉子牛は、昔は作家性の強い個性的な映画を撮っていたと思うのだが、なんでこんな俗っぽい大衆受けを狙ったドラマを作るようになっちゃったのだろう。面白いから、こっちのほうが私は好きだが。
全編を通してスケールが大きく、ゴージャスで、サービス満点、時には大雑把。全82集、退屈することなくお腹いっぱい堪能できました。(2008年1月)
キャスト&人物紹介
唐太宗:唐国強 李世民。唐の第2代皇帝。598年~649年(在位626年~649年)。
安 康:張瀾瀾 太宗の愛娘。母は淑妃。トップヒロインですごくきれいだが、あまり面白くない。史実では第14女。
李 恪:聶 遠 太宗の三男。母は楊妃。武略にすぐれ自負心が強く、皇太子の座を狙う。?年~653年。
杜如晦:陳宝国 初登場時すでに病身で、すぐに退場。585年~630年。
羅 藝:張鉄林 ?年~627年。燕郡王に封じられていたが、太宗即位と同時に謀反。
侯君集:杜志国 太宗に早くから仕えた宿将。皇太子妃となった娘のために、皇太子を守ろうとする。?年~643年。
長孫無忌:曹培昌 長孫皇后の兄。最初のうちは太宗と二人きりになるとタメ口をきいていた。?年~659年。
岑文本:王絵春 李恪の師で、その皇位継承のために密かに心を砕くが。
房玄齢:劉毓浜 「房謀杜断」と杜如晦と並び称される智謀の士。性格はたぶん一番まるい。578年~648年。
魏 徴:董子武 諫言と弾劾をしまくってみんなの嫌われ者に。580年~643年。
長孫皇后:韓再芬 長男の皇太子の地位を守るため心を砕く。母を亡くした安康公主を実の娘のように愛する。600年~636年。
李承乾:万弘傑 太宗の長男。母は長孫皇后。皇太子となるが、能力不足と父や弟たちからのプレッシャーでヘロヘロに。619年~645年。
封徳彝:孫飛虎 古いタイプの老宰相。ドラマ序盤でお亡くなりに。
竇 義:譚非翎 長安の商人で大富豪。義子の慕一寛が安康公主と恋仲になっていまい、困惑。
碩利可汗:塗 門 突厥の首領。前半の太宗の宿敵。?年~634年。
李 勣:張 山 若き名将。立ち回りがうますぎ。594?年~669年。
突利可汗:洪宇宙 突厥の実力者。碩利可汗の脅威に耐えかね、太宗と同盟を結ぶ。
海 棠:饒敏莉 侯君集のひとり娘。皇太子妃となり、慣れない権謀術数の渦に飛び込むことに。
李 泰:王東輝 太宗の四男。母は長孫皇后。文にすぐれ、やはり皇太子の座を狙う。618年~652年。
李 治:馬浴柯 太宗の九男。母は長孫皇后。後の高宗。一見無欲で大人しいが、意外に賢い。628年~683年(在位649年~683年)。
李 佑:温 浩 太宗の六男。影はうすいが陰険。
阿史那雲:白慶林 突利可汗の娘。李恪の恋人。
李 靖:畢海峰 不敗の名将。侯君集や李勣の兵法の師でもある。571年~649年。
慕一寛:張丹峰 竇義の義子。安康公主の恋人だが、二人のエピソードは少々しつこくうざかった。
独孤謀:王家赫 武門の名門の息子。安康公主に片思い。
馬 周:司 源 澤州で助教をしていたが、長安に出て太宗に見出され抜擢される。601年~648年。
閔国器:宗峰岩 馬周が長安で知り合った友人。奔放不羈な性格。太宗の目にとまり四度目で科挙に合格、官途に就くが。
鄭麗琬:祁瀟瀟 鄭仁基の娘。囲碁の名人で、智謀に長ける。
緑 袖:劉 莎 馬周の恋人。馬周が長安に去った後、思わぬ運命に。
王 徳:楊洪涛 太宗の傍に常に控える宦官。この俳優さん、こんな役ばかり。
趙士達:張鴻銘 澤州刺史。こいつの汚職がとんでもない事件に発展。
鄭仁基:張喜前 李勣の恩師。岑文本の推挙で取り立てられた能吏。
勃 帖:国永振 碩利可汗の参謀だったが、その没落と同時に夷男へ鞍替え。
張玄素:胡慶士 かつての皇太子・李建成の師だったが、請われて再び皇太子・李承乾の師となる。
樊 興:張 浩 対突厥戦で功績を挙げるも、周囲に理解されず死に追いやられる。
楊 妃:席与立 太宗の妃、李恪の母。隋の煬帝の娘。李恪の野心に心を痛める。
夷 男:李 鵬 打倒・碩利可汗のため太宗と結ぶが、後に独立し唐と敵対する。
阿史那思摩:孟和烏力吉 突厥の武将。碩利可汗の敗北後、太宗に心服し仕える。
褚遂良:牟鳳彬 出番はほんのちょっとで影も薄いが、有名人なので。
スタッフ
総顧問:李力安、劉忠徳、王彦峰
出品人:朱彤、李康生、陳建国、白羽、羅山
総監製:汪国輝、熊賢林、朱海、汪雷、熊郁
監 製:蘇政勲、陳宏、戴良才、傅金金、范安禄、李恒波、高玉虎、郝一峰、郭依全、施洋
総策劃:陳建平、陸文虎、張世良、譚湘江、馬潤生
策 劃:鄧家慧、劉雪梅、劉志、陳文、陳国慶、張旭山、王利、闞友剛、王晶、董一偉、王愛萍
歴史顧問:呉宗国、馮爾康、張国剛、辛徳勇、李斌城、施建中、黄正建、顧伯年
民族史顧問:厲声、楊聖敏、王建民
編 劇:周志方
劇作総策劃:傅思、張国剛、李斌城、黄正建、呉子牛、熊郁
責任編審:黄海涛
責任製片人:李長江、陳茂安
撮 影:葛利生、劉志、王藝
美術設計:易振州
作 曲:徐暁明
総製片人:陳建国、陳建平、朱誠、羅山
製片人:高成生、郭依全
導 演:呉子牛
主題歌
主題歌「貞観長歌」 作詞:朱海/作曲:王黎光/演唱:張瀾瀾
挿曲「千年不変的美麗」 作詞:岳小琦/作曲:丁薇/演唱:張瀾瀾
挿曲「西洲曲」 作曲:蕭白