五月槐花香

全32集/2004年

 解放前の北平(北京)の琉璃廠を舞台に繰り広げられる人情ドラマ。鉄三角(張国立、張鉄林、王剛)が皇帝ものでなくコメディでもなく、市井の、しかし骨董市場という特異な業種にある人々をシリアスに演じて、地味ながらも味わい深い。主演、監督は張国立。プロデュースは馮小剛。
 本作のおかげでまず知ったのは、骨董の売り買いは騙し合いだということ。もしかしたら常識なのかもしれないし、なんとなくそんなものだろうと思わなくもなかったが、このドラマを見て以来、骨董に手を出すのは目利きか愚か者のどちらかだと確信した。私は骨董などとはこれまで縁がなく、これからも無いのは幸いだ。素人に安物を高く売りつけたり、名品を安く買い叩いたりというのは当たり前のことなのだろうが、業界人同士でも騙し合い罠を仕掛け合う。博物館所蔵品ももう安心できない。
 主人公・佟奉全(張国立)はそんなゴタゴタに巻き込まれ、幸福と不幸を行ったりきたり。鄒静之による練り上げられた脚本は、あざなえる縄のごとく人物や出来事が絡みあい、人生の哀歓を描いて余すところがない。主演の張国立ほか、零落した満州貴族・范五爺を演じる張鉄林、琉璃廠で一目置かれる骨董店主・藍一貴を演じる王剛の看板役者三人は、相変わらず冴えた演技で魅せる。
 佟奉全とかかわる二人のヒロインもそれぞれいい。聡明さと愚かさを併せ持つ茹二奶奶(鄧婕)は、人生の転変(不幸の半分は自分で招いている)を経て、ようやく心身の平安を得るが。悲劇のヒロインから汚れ役までいろんな演技が見られたので、鄧婕ファンとしては大満足。そして特筆したいのは、もう一人の若きヒロイン・莫荷だ。演じる苗圃が素晴らしい。ベテラン名優たちに囲まれて、演技といい存在感といい、一歩も引けをとらない。恋する乙女の表情、そして佟奉全とのすれ違いドラマには泣ける。共産党員になった後半は、かつての輝きがくすんでしまったようで残念だったが。ついでながら、彼女が着ていたスカートの軍服、あんなの本当にあったのかなあというのが本作最大の疑問。
 「解放」後の展開を見ていて、ああ文革になったらどんなことになるのか想像するのも怖い、とドキドキしていたのだが、ドラマはそれより手前で何とかぎりぎりハッピーエンド(というには苦しいか)で収めてくれたのでほっとした。
 北京らしい味わいを生かし、四季の移り変わりを物語とうまく絡めた演出もいい。もちろん骨董についての薀蓄や専門用語も披露される。オープニング・ソングも気に入った。「半掩紗窗 半等情郎 半夜点起半炉香 半輪明月照半房……」とひたすら「半」の字を重ねた歌詞が、常に何かしら不足を感じそれを求め続ける登場人物たちを象徴しているようで、これまた味わい深い。(2007年6月)

あらすじ
   琉璃廠で骨董店を構えていた佟奉全は、ある事件をきっかけに店をたたむ。個人で細々と商売をしていた時、范五爺と出会い、その「妹」莫荷と相思相愛になる。やがて懇意にしている骨董店主の好意で、佟奉全は再び店を預かる身となるが、茹二奶奶の磁器の売却を請け負ったところ、彼女の財産を狙う索巴の差し金で売り上げを奪われて刑務所入り、店も奪われる。茹二奶奶は佟奉全を救い出した代わりに、自分への借金を返済するまで屋敷に住み込みで働き磁器を売るよう要求、佟奉全はやむなく従う。また、范五爺に莫荷をネタにボロ絵を名画に仕立てるよう持ちかけられた佟奉全は、これもやむなく従ってしまう。范五爺はこの絵を藍一貴に売ることに成功する。ある時、佟奉全は山西に出かけ、国宝級の商代の青銅器を手に入れる。……

登場人物&キャスト
佟奉全:張国立
 河北の雄県出身。若い頃から琉璃廠の骨董店で働き、目利きとなり、自分の店を構えていた。文物の修復及び偽物作り(これは使い方次第で紙一重ですね)の腕は一流で、それがかえって不幸のもとに。善人には違いないが、不運を跳ね返す力もなければホネもなく、状況に流されてしまう哀れな小人物。

范世栄(范五爺):張鉄林
 もと満州貴族のもと大金持ち。同文館(中国初の外国語学校)を卒業したが、民国になって家産を食い潰し、琉璃廠を訪れる外国人のガイド(?)をして糊口をしのぐ。莫荷を妹として面倒を見ている、ではなく、面倒を見てもらっている。貧乏のどん底でもかつての栄耀栄華をひきずった言動が可笑しくも哀れ。長髪が少々キモい張鉄林は、それを含めていつになくいい演技だ。

藍一貴:王 剛
 河北の青県出身。「天和軒」の主人。幼い頃に琉璃廠にやってきて、徒弟修業をする。目利きとして知られ、特に絵画では半分しか見ずに鑑定できることから藍半張の異名をとる。聡明で自信家だが、狭量で陰険。常に他人が利益を得るのをねたむ。王剛は全身からいやらしさがにじみ出ていていい感じだ。

茹二奶奶(茹秋蘭):鄧 婕
 ある満州貴族の次男の童養媳だったが、床入り前に夫が死亡。以来15年、後家を通し、婚家で踏みつけにされていた。やがて舅の死によって、屋敷と多数の値打ちものの磁器と、何より自由を手に入れるが。青春時代を不幸のうちにムダに過ごしたことがトラウマになり、かえって新たな不幸を自ら招いてしまう。

莫 荷:苗 圃
 范世栄の「妹」。実は范世栄の乳母の遠い親戚。両親と早く死に別れ、范家を頼ってきたが、すでに范家は没落していた。タバコを売って生計を立て、范世栄の身の回りの世話をしている、というよりほとんど養っている状態。しかし、貧しさに負けずはつらつとして、一本筋が通っている彼女は、掃き溜めの鶴とでも言おうか、ドラマの花だ。

馮 媽:張少華
 茹二奶奶に仕え、ずっと苦労をともにしてきたばあや。

索 巴:媽 雷
 茹二奶奶の甥。茹二奶奶の持つ磁器を巻き上げようと企むろくでなし。顔を見るのも不愉快だった。

王 財:華 子
 藍一貴の徒弟だったが、索巴とつるむ。やっぱりろくでなしという形容しか思いつかない。

禄大人(禄徳維希):卡爾羅
 たぶん英国人。中国通で骨董通だが、とんでもないヤローであった。これを演じるやたらと中国語がうまい卡爾羅氏は、ユーゴスラビア(現セルビア)出身。有名な相声演員の弟子で、外国人として初めて春節聯歓晩会に出演し、その後も映画やドラマに出演、ビジネスでも成功しているというちょっと有名な人らしい。

孟小楼:王 冰
 京劇の小生役者で、索巴の差し金で茹二奶奶に近づく。茹二奶奶は相手が金目当てと分かっていながら、本気になってしまう。

生 子:(小)王培文/(中)廉 冠/(大)王 磊
 莫荷の向かいの部屋に住む少年。

スタッフ
出品人:尹廉和、彭少剣、徐雲、王偉
総監製:奚建華、張暁愛、韓国強、施泉明、楊文虎、周紹成、李暁楓、胡大楚、段建武、李錦源、王春莉、薛文遅
監  製:馮小剛
総策劃:鄭頴、孟憲華、張晶輝、陳正明、李暁国、何涛、張翼、徐華藝、楊晨光、劉震雲
策  劃:張少輝、田魯民、張暁捷、孫海波、寧麗珍、珍新梁、楊兵、呉忠文
製片人:鄧婕
編  劇:鄒静之
撮  像:劉颷
美  術:魏風
作  曲:徐沛東
録  音:李立晶
剪  輯:楊暁英
執行導演:白秋林
文玩顧問:馬未都
製片主任:劉志雪
導  演:張国立

主題歌
片頭曲「半等情郎」  作詞:鄒静之/作曲:徐沛東/演唱:徐沛東
片尾曲「五月槐花香」  作詞:鄒静之/作曲:徐沛東/演唱:宋祖英

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