宋蓮生坐堂

全31集/2005年

 張国立監督、主演、そして「鉄三角」。当然、汚職役人をやっつけるコメディだと思っていた。ところが、いつもと毛色が違うと始まってすぐに気づいた。わざとカリカチュア化したような演出、時々妙に凝ったカメラワーク、長々とした独白。おまけに張鉄林と王剛は脇役でしかなかった。(これには「騙された」と感じた視聴者もいたようで。実は私もだ。「鉄三角」で売らず、あとの二人はチョイ役だと分かるようにしておくべきだ!)そして何よりも、ドラマの中心がなんとラブストーリーなのだ。主人公がヒロインに恋をして、めでたくハッピーエンドを迎えるまでの物語。
 主人公の宋蓮生は、江湖を渡り歩く医者。前作「布衣天子」で演じた洪立と同じだが、この設定が気に入ったのだろうか。宋蓮生は医術の腕は確かだが、奔放不羈で一見軽薄そう。しかし、「医は仁術」を体現する姿勢といい、ここぞという時にはいつも通りの機転と正義感を見せるところといい、張国立はさすがの貫禄で、主人公の魅力がドラマを支えている。
 主人公以外の恋の当事者たちは、どうにも地に足がついていないというか、現実から浮いた頼りない若者ばかり。長沙に流れてきた宋蓮生が長沙を去ったり戻ったり、追放されてまた戻ったりを繰り返して最後は長沙に居つくのに象徴されるように、それぞれが自分の居場所を見つけていく物語のようにも見える。
 ちなみに、本作は「非典(SARS)」騒ぎの時期に企画されたのだそうで、なるほど中盤の伝染病流行のエピソードにそれが濃厚に表れていて、風刺の姿勢も健在である。
 しかし何よりも、過去の作品との最大の違いは、悪人の不在ではないだろうか。いや、もちろん悪役はいる。しかしそれは主人公を嫌って街を追い出そうとするライバル薬局だったり、嫌がらせをしてくるチンピラだったり、女を利用する汚い男だったりという程度で、和珅のような大貪官も、民を虐げる大悪党も、民を搾取する役人もいない。むしろ宋蓮生や万先生の人となり、何の見返りもなく行き倒れを助ける人、伝染病の治療や予防に協力する人々、営業停止になった店の前をこっそり掃除する店員たち、などの何気ない描写が感動的で、常に人の善意を信じているような温かい視線が伝わってくる。(2006年7月)

あらすじ
 順治10年(1653年)。長沙にやって来た医者の宋蓮生は、「無双繍荘」を経営する応無双という女性に一目惚れする。折りしも名家の娘・范茹が難産の際、長沙一の老舗薬局「聞世堂」の呉雲も手の施しようがなかったのを救ったことから、聞世堂の主人に逆恨みされる。無双繍荘の向かいの薬局「九芝堂」の主人は、宋蓮生の腕と見識を見込んで店に招く。宋蓮生は九芝堂で診察しつつ、お針子たちと親しくなるが、肝心の無双には思いが届かない。おまけに、聞世堂もいろいろちょっかいをかけてくる。

登場人物&キャスト

宋蓮生:張国立
 江湖を渡り歩いてきた医者。応無双に一目惚れして猛烈にアタック。向かいの薬局「九蓮堂」で診察をするが、「聞世堂」の主人に逆恨みされたのが元で、逮捕されたり、追放されたり何度もピンチに陥る。ところで、何歳くらいの設定なのだろうか。ヒロイン役の張庭とでは、恋人というより父娘に見える、という非難の声も。私は気にしませんが。

応無双:張 庭
 南京から戦乱を避けて長沙へやって来た。「無双繍荘」(繍荘は刺繍屋さん)の主人で、10人ほどお針子を抱える。最初は呉雲に気があり、さらに昔の恋人の岳宣と再会し……。そのうえ素直じゃないので、なかなか自分の気持ちに気づかない。張庭は「女周星馳」と呼ばれる台湾のコメディエンヌだそうだが、本作では基本的にシリアス。

洪三燕:苗 圃
 無双繍荘のお針子たちのリーダー格。元はいい家のお嬢様だったらしく、今の暮らしに我慢できない。いつも現実から逃避して、平凡でない人生を夢見ている。目の前に現われる若い男性(宋蓮生を含む)を順番に愛しているような。

二桃子:張 慧
 無双繍荘のお針子。彼女が道に投げ捨てた薬の煎じ滓が宋蓮生の足にひっかかったのが、宋蓮生と無双繍荘の因縁の始まり。

呉 雲:徐 箭
 長沙一の老舗薬局・聞世堂の跡取り。父親の期待に自分を殺して鬱屈を抱える一人っ子。自分との婚約を解消して他人と結婚してしまった范茹を一途に愛し続ける。文学青年でナルシストで、范茹の他は常にあさっての方向を見ているような。一応、いい人ではあるのだが。無双繍荘の娘たちによれば、長沙一のハンサム。

如 月:鄧 婕
 呉雲の母方の従姉。呉太医に呼ばれて長沙にやってきた。呉太医にはたぶん呉雲との結婚というもくろみがあったと思われる。店の経理を任され、呉太医に協力して打倒・九芝堂&宋蓮生に動くが、だんだん負けが込んでくる。しまいには聞世堂ののっとりを企むが。よく考えるとこのドラマ一番の悪役か? でも悪役の鄧婕も素敵です。

呉太医:楊宝亮
 聞世堂の主人、呉雲の父。頼りない一人息子に頭を痛めっぱなし。老舗の名声を守ることが何より大事で、医者としての本分を見失っている。

范 茹:李婷宜
 子供の頃から呉雲と婚約していたが、反清復明活動をしている若者と恋に落ち、婚約を破棄して結婚した。しかし夫が処刑されるのと同時に出産。難産で死にかけたところを母子ともに救ってくれた宋蓮生に次第に心が傾く。「自分が男だったら」の思いがあり、夫の死後も同志たちのために協力を続けるが。

万 澄:周伝一
 無双繍荘向かいの薬局「九芝堂」の主人。なかなかの人格者。宋蓮生の腕と人物に惚れ込み、常駐の医者として店に招く。以後はよき友人として公私ともに協力する。ちなみに九芝堂は、長沙に実際にある老舗だそうだ。

山 薬:劉 江
 九芝堂の店員。二桃子が好き。

岳 宣:王耀慶
 応無双の南京時代の恋人。南京の福王政権の武官だったと思われる。范茹の死んだ夫の仲間で、その遺志を継いで清への反抗を続けている(たぶん)。反清復明の闘士、のはずが、実はくだらないサイテー男。この男の出番ははっきり言って、うざい。ドラマからすべてカットしてしまいたい!

田友三:馮 雷
 呉雲の学友。洪三燕に一目惚れ。一つのことに夢中になると他が目に入らないのは、類友か。しかし、こいつも結局つまらない男だった。ああ、三燕が浮かばれぬ。

斉大頭:李 耕
 チンピラ。妓楼・翠花楼の主人。無双繍荘を借金のかたに取上げようとしたり、聞世堂とつるんで九芝堂に嫌がらせをしたり。

順 治:張鉄林
 宋蓮生、無双、二桃子が南京へ向かう旅の途中に出会った素性のわからない言動もおかしな男。正体はお忍びの順治帝。「大福子」と名乗ったのは、本名の福臨の一字を取ったか。それにしても、16~17歳の少年をなぜ張鉄林が演じるのだ。

范無同:王 剛
 范茹の父。難産の娘を救うため、聞世堂の主人に頭を下げるのが唯一の見せ場。出番はほんのちょっと。


スタッフ
出品人:楊偉光
総製片人:鄧婕、尹廉和
製片人:徐迅
総監製:張暁愛、湯達祥、任仲倫、周莉、厳暁琴、李錦源
監 製:張会軍、呂超
総策劃:尹廉釗、鄒暁利、呉華、陳雨人、凡岳、肖泉、鄭抗美、付岩、呉克翔、趙征
策 劃:孟憲華、石衛平、肖紅、肖融、楊小松、牟継紅
編 劇:鄒静之
撮 像:劉飆、呉水興
美 術:魏風
作 曲:章紹同
録 音:楊小松
剪 輯:楊暁英
執行導演:白秋林
製片主任:劉志雪
執行製作:馬保華
導 演:張国立

主題歌
片頭歌「十九畏薬歌」  作詞:鄒静之/作曲:章紹同、肖山/演唱:亜民
片尾歌「哥哥、你一双眼睛往哪児看」  鄒静之/作曲:章紹同/演唱:衡越

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