臙脂雪

全32集/2008年

 人気女優・范冰冰の初プロディース作品としても話題になったドラマ。ドラマはめでたくヒットし、范冰冰はただきれいなだけの女優ではないことを世間に見せつけた。もちろん自らヒロインを演じている。
 ドラマは1920年代、江南のある封建的な家庭での女性たちの悲劇を描く。こういう題材自体は珍しくないし、高視聴率を上げただけあって出来は十分よいと思う。風景や江南風の屋敷の様子など、絵的には美しく、女性たちの凝った衣装やヘアスタイルも目に楽しい。それなのに、実は心から楽しめなかった。あまりの理不尽さとえげつなさに眩暈がする。
 ヒロインの文玉禾(范冰冰)は町の旧家で燈籠工房を営む辜家に嫁ぐが、そこはとんでもない家だった。古いしきたりにがんじがらめの上、まずは兄嫁の寧黙心(張彤)からいわれのない悪意を向けられ、さんざんな目に遭わされる。夫の辜少棠(于小偉)は頼りにならず、情けをかけたはずの小間使いの阿桃(李倩)にこれまた不可解な逆恨みをされ、夫の妾に納まった彼女から踏みつけにされながらも耐え忍ぶ。最悪なのが姑の辜李氏(劉雪華)で、何より辜家が大事の彼女の言動は、理不尽の一言に尽きる。
 この辜李氏の表面上は立派な賢婦人ぶりと表裏一体のえげつなさは、見ていて実に気分が悪い。仮に弁護するなら、彼女にそうさせた封建的な家制度や男尊女卑の時代のせいなのかもしれないが、辜家のためといいつつ結局自分が大事なんだろうというのが垣間見え、たいへん不愉快。そして彼女による理不尽な支配が、辜家の女たちに負の連鎖を生じさせ、みな犠牲者でありながら加害者にもなるという、救いのない状態に。
 性格がねじ曲がった寧黙心の悪辣ぶりもさることながら、最初はごく普通の娘だった阿桃が豹変してからの毒婦っぷりは天晴れ。もう画面に登場するだけで胸糞悪くなるほど憎々しかった。文玉禾と密かに思い合い、支え続ける夏雲開(霍建華/ウォレス・フォ)の存在が、見ている私にとっても唯一の慰め。不幸に耐えたヒロインが最後には幸せを掴むはず(それを暗示する台詞がある)と信じて、私も耐えた。(2009年2月)

あらすじ
 辜家の次男が婚礼直前に亡くなるが、花嫁の白依玲は父親に顔を傷つけられ、そのまま嫁がされる。半年後、辜家の三男との縁談を嫌って家出した文玉禾は、偶然会った夏雲開のせいで逃亡に失敗。その直後、夏雲開は辜家に赴き、その管家となる。文玉禾の婚礼の日、夫となる辜少棠は妓楼に入り浸ったまま、やむなく夏雲開が花嫁を迎えにいく。文玉禾は不在の花婿の代わりに雄鶏を相手に婚礼を挙げさせられ、抗議すると罰を与えられる。それでも父親の借金と姑の哀願のために辜家にとどまることを決意した文玉禾だが、理不尽な家制度、兄嫁のいびり、遊び人の夫のせいでつらい日々を送る。一方、夏雲開は実は白依玲の恋人で、辜家に嫁いだきり消息の途絶えた彼女を探すために辜家に潜り込んだのだった。文玉禾と夏雲開は和解し、やがて心を通わせるようになるが……。

キャスト&人物紹介
文玉禾:范冰冰
  父親の借金のため、辜家に嫁いでくる。姑の辜李氏に遊び人の息子・少棠を真人間にしてくれと懇願され、尽力する。理由として「お義母さんの恩があるから」と言っているが、一体どんな恩が? うまく言いくるめられただけではないか。夏雲開に惹かれつつも、辜少棠と添い遂げる覚悟で、辜家と夫のために尽くしているのに、ああ……。

夏雲開:霍建華(ウォレス・フォ)
  元教師。辜家の二少爺に嫁いだきり消息不明の恋人・白依玲を探すため、辜家に管家として入り込む。実に有能で、すぐに辜家になくてはならない存在になる。辜家で苦労する玉禾を支え続ける。

辜李氏:劉雪華
  20年前に夫を亡くして以来、辜家を女手一つで守ってきた。しかし、息子の嫁たちに対する仕打ちはあんまりだ。同情すべき点がないとは言わないが、辜家の不幸や不祥事を招いているのは実は自分だということに、気付いてくれ。そして、実はとんでもない秘密を隠していた。

辜少棠:于小偉
  三少爺。文玉禾の夫。最初はだらしない遊び人だが意外に人は悪くなく、玉禾のおかげで心を入れ替えてみれば、ごく普通の頼りないお坊ちゃんだった。

辜守貞:韓  暁
  四小姐、辜少棠の妹。以前、学校で夏雲開の生徒だったこともあり、夏雲開に恋心を抱く。芝居好きで、こっそりと劇団に出入りし、舞台にも立つようになる。玉禾とは仲が良かったが、夏雲開の心が玉禾にあるのを知って以来、人が変わってしまう。

阿  桃:李  倩
  燈籠坊の女工だったが、寧默心の玉禾イジメに使われた挙句にクビにされたのを、玉禾が自分の小間使いとする。最初は恩を感じて玉禾によく仕えていたが、恋人の阿牛(ダメ男)に捨てられたのをなぜか玉禾のせいだと考え、恨みを抱くようになる。辜少棠の妾に納まってから、辜家はめちゃくちゃに。

寧默心:張  彤
  大少奶奶、辜家の長男の嫁。しかし夫は遠出したまま音信普通。家事全般と燈籠坊を任されてきたが、玉禾に実権を奪われると思い込み(被害妄想)、玉禾に理不尽な仕打ちを重ねる。一人息子の海児を辜家を継がせたいと望んでいる。ひそかに出入りの仕立て屋の袁望春と不倫。

裘貴三:張  磊
  青口幇(ヤクザグループらしい)の頭目。実は、辜家の先代(辜李氏の夫)の私生児。母親が辜李氏のせいで死んだため、辜家を恨み、のっとりを企む。やがて辜少棠を人質に大金を取ろうとして失敗、逮捕されるが。

袁望春:姫  他
  辜家に出入りする若い仕立て屋。寧默心の不倫相手。しかし実は守貞が好き。

白依玲:劉  瑩
  夫となる辜家の二少爺が婚礼直前に死んだにもかかわらず、貞節を守るようにと父親に顔を傷つけられて辜家に送り込まれる。辜李氏よって屋敷の隅に閉じ込められ、誰にも知られずに夫の菩提を弔う生活を強いられている。

海  児:戴逸辰
  寧默心の一人息子で、辜少棠以外では辜家唯一の男子。幸い母親に似ない良い子。

権  叔:孫万清
  辜家の先代が若い頃から仕える使用人。

方  嫂:孫夢泉
  辜李氏の腹心。もと小間使いで、若い頃、辜李氏の夫である辜家の主人に思いを寄せていたらしい。ドラマには登場しない物語がいろいろあったっぽい。

筱如夢:劉園園
  辜少棠のなじみの妓女。実は裘貴三の女で、辜家つぶし計画にいやいや加担させられている。出番は少ないけれど、名前がクレジットされてないのは何故?

スタッフ
出品人:呉宏亮、范冰冰
総監製:何日丹、周利明
総策劃:趙健、李釗
監  製:倪雪華、王大慶
製片人:張哲、穆暁光
策  劃:劉朝晨、王悦立
執行製片人:孟慶繁
編  劇:于正
文学統籌:劉芳
監製編導:智磊
美  術:崔勇
作  曲:常馨内
録  音:謝小江
製片総任:劉長生
発行人:李歓、王婷婷
導演:滕文驥

主題歌
片頭歌「臙脂」  作詞:冀楚忱/作曲:譚伊哲/演唱:范冰冰
片尾歌「卸粧」  作詞:楊傑/作曲:方炯鑌/演唱:江淑娜

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