鉄歯銅牙紀暁嵐

全40集/2000年

 シリーズ3作まで作られたヒット作。大学者で清官の紀昀(紀暁嵐)と大貪官・和珅の、乾隆帝を挟んでの智恵比べ。和珅がしかける罠の数々を紀暁嵐は頓智で切りぬける。タイトルにもある「鉄歯銅牙」とは、弁舌に長け舌鋒鋭いことを言うらしい。
 基本的には和珅を筆頭とする汚職役人どもをやっつけようというコメディで、かつての名作「宰相劉羅鍋」の主人公を紀暁嵐に変えて、軽めにアレンジしたイメージだ。紀暁嵐には「劉羅鍋」で乾隆を演じた張国立、和珅には「劉羅鍋」で和珅を演じた王剛が再び出演、乾隆には「還珠格格」の乾隆役で人気になった張鉄林。この三人の息の合ったやりとりが、最大の見所だ。機知に富んだ台詞の応酬(何しろ主人公が大学者なので、ちょっとした台詞にも教養があふれていて、見るほうにも文学的素養が要求されるような……)だけでなく、表情や仕草だけでも、実に楽しい。三人のうち誰が欠けても成り立たない至芸。とにかく三人の芸を楽しむ、これに尽きる。三人はこれ以来「鉄三角」と呼ばれ、共演を重ねている。(「鉄三角」はゴールデントリオ、のような意味。固有名詞というわけではないが、今の中国芸能界ではまずこの三人を指す。)
 紀暁嵐が正義の味方なのは当然として、悪役のはずの和珅が「劉羅鍋」と同じく愛嬌があって憎めない。お互いに相手を倒そうとしつつも、けっこう楽しくやっているようだし、劇中で和珅も言っているように、相手が本当にいなくなったら寂しいに違いない。乾隆もそんなさまを絶対に楽しん でいる。単純な善悪、正邪の対立になっていないところがいい。汚職は無くならないという諦めのようでもあるが。
 きちんと章わけされているわけではないが、ドラマは六つの物語から構成されている。個人的に興味深かったのは、「紅楼夢」をネタにした第3話。登場人物が「紅楼夢」について薀蓄をたれたり、物語とドラマがシンクロしたり、「紅楼夢」成立についての仮説あり、と紅迷にはたまらない。(2006年6月)

あらすじ
第1話(第1集~第10集の途中)
 乾隆はいまわの際の乳母から実母が民間にいると告げられ、お忍びで実母探しに雲州に赴く。そこには紀暁嵐も試験監督のために来ていた。杜小月と莫愁が、飢饉のための援助食糧が横領されていることを紀暁嵐に訴える。紀暁嵐が調べようにも、自らも甘い汁を吸っている和珅と福康安に邪魔される。乾隆は実母とめぐり会えるのか。役人と結託するナゾの商人の正体とは?

第2話(第10集途中~第15集の途中)
 乾隆の乳母に毒殺の疑いが浮上、乾隆は紀暁嵐に調査を命じる。薬を処方した御医・呂長安が逃走したため、紀暁嵐は呂の故郷、山東・臨清へ小月とともに赴く。やがて紀暁嵐は薬をめぐって皇帝の命を狙う陰謀があることに気づく。

第3話(第15集の途中~第20集)
 曹雪芹の臨終を看取ったという女が「石頭記(紅楼夢)」の原稿を紀暁嵐に預け、禁書にされたのを取り消してもらえるよう助力を願う。紀暁嵐は原稿を読んで感動するがよい智恵もうかばず思い悩み、和珅と福康安は禁書の所持を理由に紀暁嵐を失脚させようと企む。紀暁嵐はいかにして「紅楼夢」を守るのか。

第4話(第21集~第29集)
 乾隆一行はお忍びで杭州へやって来て、西湖畔で「清明上河図」を売る才色兼備の少女に出会う。おりしも甘粛で乱が起こり、和珅が派遣されるが、乾隆の真の目的は兵糧をめぐる不正の調査にあった。やがて甘粛の問題が片付いても、不正の連鎖は止まず……。

第5話(第30集~第34集の途中)
 紀暁嵐は庭園工事をめぐる不正を知らせようと、うまく乾隆をお忍びに誘い出す。行き先の曲陽には工事に反対して罪を得た御史・洪徳瑞がいた。紀暁嵐は不正を暴いて洪父娘を救おうとするが、それを察知した敵も邪魔をしてくる。

第6話(第34集の途中~第40集)
 杜小月は、科挙受験の青年・祝君豪と出会う。祝君豪はめでたく状元に、和珅の息子・豊紳殷德は榜眼になる。祝君豪と豊紳殷德は小月に恋をし、同時に縁組を申し入れてくる。一方、莫愁は乾隆の子を身ごもるが、漢人は後宮に入ることができない。紀暁嵐に責められた乾隆は莫愁を娶る決心をするが、大臣たちと太后の大反対にあう。

登場人物&キャスト

紀 昀:張国立
 字は暁嵐。ドラマで「一品」の「大学士」と言うのは、正確には従一品の協辨大学士のことか。大学者で「四庫全書」を編纂している。「天下第一才子」として名高く、清官としても知られている。愛煙家でいつでもどこでも巨大なキセルを手放さないため「紀大煙袋(煙袋=キセル)」があだ名になっている。(1724~1805)

和 珅:王 剛
 紀暁嵐の天敵、乾隆の寵臣。軍機大臣。汚職事件のほとんどにからみ、蓄財に余念がない。皇帝に対するおべんちゃらは天下一品。「宰相劉羅鍋」と同じく王剛が演じているが、父親としての顔を見せるなど人物描写により深みが増したようだ。

乾 隆:張鉄林
 名君らしい度量の広さと、紀暁嵐と和珅をうまく使い分けるしたたかさを兼ねる。けっこうタヌキなので侮れないが、情にもろくて熱血漢なところも。

杜小月:袁 立
 雲州で役者をしていたが、莫愁らとともに役人の不正を訴えるために行動する。武術もお手のもの。やがて紀暁嵐を尊敬するようになり、事件解決後は北京の紀暁嵐の屋敷で世話になる。天真爛漫で正義感が強く、無鉄砲なところもあるためトラブルも起こすが、紀暁嵐の片腕として心強い存在でもある。

莫 愁:楊麗菁
 杜小月の義姉。雲州の銭糧師爺・黄克明の許婚だったため、役人の不正を訴えようとする。許婚の死と事件解決後は杜小月とともに北京に。小月と違って聡明で思慮深い。この女優自身の声なのかどうか、なまっているんだか舌たらずなんだかの発音が耳について、ちょっと苦手だった。

福康安:向 能
 乾隆の寵臣の一人。武官。和珅といつもつるんで打倒・紀暁嵐に動く。武芸はできるようだが、智謀は和珅が頼り。

太 后:趙敏芳
 人がいいようで、いざとなると頭が固い。乾隆が頭が上がらない唯一の相手。杜小月を気に入って後宮への出入り自由とするばかりか、ついには義理の娘とした。

[第1話]

十四王爺:劉衛華
 康煕帝の第十四子、乾隆の叔父にあたる。名は胤[示題]。かつて兄の雍正と帝位を争ったため幽閉されていたが、乾隆の御世になって自由の身になった。帝位への野心を捨てきれず葛藤する。(2話まで登場)

四姑娘:潘小莉
 十四王爺の側室らしい。十四王爺の即位を望み、そのために働く。しだいに誰の敵で味方なのかナゾの動きをするが。(2話まで登場)

白娘子:韓静茹
 乾隆の実母。裕福な商家の老夫人だが、その実体は…・・・?

[第2話]

呂長安:曽 静
 山東・臨清出身の御医。本名は黄鉄崖。皇帝の乳母を毒殺した嫌疑を受けて逃走し、故郷に潜伏する。事件の鍵を握る人物であるため、黒幕に命を狙われる。

何掌櫃:義英明
 呂長安こと黄鉄崖の師弟で、薬屋を営む。逃亡してきた師兄をかくまう。和珅らの依頼で「長生不老」の薬の調合を引き受けているが、ただの薬屋ではないことがやがて明らかになる。

黄炳堂:韓大一
 黄鉄崖の一人息子。薬作りに夢中で、現在「長生不老」の丹薬作りに取り組んでいる。

香 草:霍思索
 何掌櫃の娘。黄炳堂と憎からず思い合う仲。

[第3話]

香 雲:張 克
 陳渭元の妻。夫の差金で晩年の曹雪芹に近づき、「石頭記」の手稿を手に入れた。しかし夫に背いて作品を守ろうとし、紀暁嵐を頼る。
 

陳渭元:李小雷
 香雲の夫。出版業を営む。「石頭記」を出版して大儲けしようと狙う、ろくでもない人間。

[第4話]

蘇卿憐:阮丹寧
 王亶望の養女。才色兼備で気位が高く、己の才智は紀暁嵐にも負けないと豪語するほど。義父に悪口を吹き込まれ、最初は紀暁嵐に偏見を持つ。史実では、先に王亶望の、後に和珅の妾になった呉卿憐という女性がいたそうで、このキャラのヒントになっているようだ。

王亶望:賈大中
 浙江巡撫。もと甘粛巡撫で、軍の食糧をめぐり私腹を肥やしていた。自分が疑われていると知り、罪を逃れるため策略をめぐらし、養女の蘇卿憐も利用する。

王廷賛:楊俊勇
 甘粛布政司。王亶望の不正に協力していたが、定見のない人物で、紀暁嵐にアメと鞭で脅され、案外簡単に自供する。

金大爺
 乾隆の親戚らしい。甘粛の蘭州で、和珅をさんざんな目に遭わせた人物。

[第5話]

洪 霞:呉 禎
 洪徳瑞の娘。父の罪に連座して官妓にされていたが、紀暁嵐の意を受けた杜小月の手引きで逃走し、父のいる曲陽に向かう。

洪御史:叢培信
 名は洪徳瑞。尚栄を告発したがかえって陥れられ、曲陽の石切り場に送られ労働させられている。それでもあきらめずに不正の証拠を残そうとする。

尚 栄:舒耀瑄
 直隷総督。皇室の庭園工事で汚職を行っている。自分を告発しようとした洪徳瑞を陥れるが、皇帝が曲陽にやって来ると知り……。

[第6話]

祝君豪:王 坤
 科挙受験に上京してきた世間知らずでお人よしでくそマジメな青年。自分の財布をすった陶三姑を義理の母とする。めでたく状元(科挙の首席合格者)になり杜小月と結婚しようとするが、和珅に邪魔される。

豊紳殷德:李 義
 和珅の息子、父親に似ないマジメな好青年。文武両道で、榜眼(科挙の第二席合格者)になる。杜小月に恋し父親の反対にも耳をかさない。さすがの和珅も可愛い息子のために紀暁嵐に頭を下げるのだったが。

陶三姑:孫夢泉
 お調子ものでずうずうしいスリのおばさん。孫夢泉はかつて「紅楼夢」の李紈を演じた女優さん。「紅楼夢」と180度違うオーバーでコミカルな演技は楽しいけれど、あまりの違いにちょっとショックでもあった。


スタッフ
出品人:劉継南、劉迪一、朱咏雷
総監製:韓俊峰、陸瑩、陳海
監 製:司徒源杰、潘洪業、呉孝明、李培森
総製片人:辺暁軍
総策劃:張璋、鄭万隆
策 劃:劉之毅、孫毅
編 劇:陳文貴、鄭万隆、鄒静之、王振潜、王琛、史航、顧言
撮 像:余丁、賈琦
美 術:王新国
導 演:劉家成
製作人:張璋

主題歌
片頭歌  作詞:陳説/作曲:王立新/演唱:金学峰
片尾歌  作詞:鄒静之/作曲:丁纓/演唱:戴嬈

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