中国往事

全42集/2008年

 三部作、全100集の第一部だそうだ(第二部以降の製作はこれから)。原作は劉恒の長編小説「蒼河白日夢」、清朝末期から中華人民共和国までの約百年にわたる二つの家族の歴史を描いているらしい。本作は、1907年(光緒33年)から3年ほどの出来事を描く。
 主な舞台となるのは江南の蒼河県、楡鎮の曹家。曹家のあるじ曹如器(張国立)は、家業はすべて長男に任せて、部屋に据え付けた大きな鍋で薬を煎じ続けている。漢方薬はもちろんのこと、胎盤だの、牢内の蜘蛛だの、処女の汗だの、ありとあらゆるものが鍋に投じられる。妻の曹金氏(朱茵)は、過去のある過ちを悔い、ひたすら仏間に籠もって念仏の日々。長男の曹光満(趙立新)は家と経営するいくつもの店を一人で切り盛りし、何やら疲れ気味、父親にも頭が上がらない。妻の曹栄氏(白慶琳)と二人の妾や愛人など、家庭内も波乱含み。欧州留学から帰宅した次男の曹光漢(朱雨辰)は、家中の何もかもが気に入らず、常にイライラしている。その妹の曹光婷(張錚)はお転婆を通り越して、言動が常にエキセントリック。以上、曹家の人々は立派な外見とは裏腹に、みなどこか壊れて、矛盾だらけで、身勝手で、時には冷酷だ。
 家族ではないが、曹光漢が帰国時に伴ってきたスウェーデン人の技師のルカス(Martin Wallström)がいる。中国語もできず、ひとり異質な存在。
 さらに二人の重要人物が曹家に加わる。曹光漢の妻となった鄭玉楠(宋佳)は、自ら望んで嫁いできたが、夫は妻に指一本触れようとしないうえ家に寄り付かず、彼が何を考えているのか何をしているのか誰も理解できない。そのため曹家で孤独をかこつ彼女は、やがてルカスと惹かれ合う。もう一人、曹光満のなじみの妓女だった晩月(呉越)は、曹家待望の男児を産んだため、本人は乗り気ではなかったが曹家に入り、光満の三番目の妾となる。二人は出自から曹家でのあり方から結末まで見事に対照的。
 さらに、桑鎮の鄭家の当主で、玉楠の兄である鄭玉松(張志堅)。曹家と鄭家は代々いがみあってきたが、光漢と玉楠の縁組をきっかけに関係を修復した。しかし玉松は家も財産も妻子もありながら、清朝を倒す活動をする秘密結社の一員となっており、自ら破滅へと向かっていく。
 こういった人々織り成す物語の目撃者となるのが、曹家の召使いの少年、耳朶(侯祥)である。実は耳朶は、曹金氏が曹家の雇い人と一度だけ過ちを犯した結果生まれた子であり、曹夫婦の暗い秘密となっている。曹如器は何度も耳朶を殺そうとするがなぜか成功せず、その一方で耳朶を可愛がり、愛憎こもごもの感情を耳朶にぶつける。はしこく人好きのする耳朶に誰もが目をかけ、かつ利用し、耳朶は曹家のあらゆる秘密を目にし耳にするのだった。ドラマはこの耳朶の目を通して描かれていく。
 ドラマは始終、陰鬱な雰囲気。街も屋敷の中も、いつでも床や地面が雨が降ったの後のように濡れているのが、じめじめ感を助長する。その中で、ある者は旧時代の淀みを象徴するようであり、ある者はそれに絡め取られ、あるいは逃れようとして自滅する。ラスト近くでは残された人々の関係にも変化があり、果たして新時代へ向けてどのような歩みをしてゆくのか、第二部への導入と思われる場面もあり、彼らのその後が気になる。
 俳優陣では、曹如器を演じる張国立がすごい。複雑怪奇な性格や喜怒哀楽をこれ以上はないというくらい適切に表現している。もう惚れ惚れする。そして、それをも凌ぐ存在感を放つのが耳朶だ。ドラマの冒頭では16歳という設定だが、これを演じる侯祥という子役、演技がうますぎる。いったい何者なのか、そして一体全体いくつなのか? と、ドラマを見ながら気になって仕方なかった。そこでネット検索してみたところ、……驚愕の事実が判明した。なんと1986年生まれ、20歳をすぎている!! どうりで演技がうまいはずだ。しかし身長はともかく、20歳すぎてこの子供顔は何? こんなにビックリしたのは久しぶりだ!! とにかくこのドラマの成否の鍵は張国立と侯祥の二人にあり、100%以上の成功を収めていることは間違いない。
 監督は「走向共和」「大明王朝」の張黎。凝った映像と隠喩に満ちた分かりにくい演出、重厚な作風は相変わらずだ。どっしりとした、豪華だけど暗いお屋敷や、衣装や小道具なども手が込んでいる。脚本の趙立新は俳優でもあり曹光満を演じているが、この人はスウェーデンでも俳優活動をしているらしく、二人のスウェーデン人俳優を引っ張ってきたのは彼の力によるらしい。スウェーデン人の役をスウェーデン人が演じていて、英語、スウェーデン語をちゃんと使い分けているところも、手抜きがなくてよい。カメラマンの一人に日本人(辻智彦)がいる。
 本作は、2009年のソウルドラマアワードで大賞を受賞した。どの程度のバリューをもった賞なのかは知らないが、韓流ドラマの本拠地で、その対極にあるようなこのドラマが評価されたのに感心した。(2010年7月)

あらすじ
 曹光満の二人の妾が同時に出産するが、どちらも女児だったため、屋敷は暗い雰囲気に包まれる。曹如器は耳朶に命じて胎盤をひそかに取ってこさせ、薬にする。曹光漢が留学先の欧州から、スウェーデン人技師のルカスを伴って帰宅し、マッチ工場を造ろうとする。曹金氏は光漢の嫁に、桑鎮の鄭玉楠に白羽の矢を立てるが、曹家と鄭家は代々いがみ合う仲だった。父母の命令で曹光満は鄭家の当主で玉楠の兄・鄭玉松と会い、両家のわだかまりを解くことに成功。玉楠は曹家に輿入れするが、光漢は妻を顧みず、マッチの製造に没頭、しかもうまくいかずにイラつくばかり。光満の子をみごもっていた侍女の瓏繍が突然流産し、原因をめぐって曹家は疑心暗鬼の渦となる。時をおかず光満のなじみの妓女・晩月が出産、曹家に待望の男児が生まれる。晩月はそのまま曹家に入るが、そのため妻妾たちの間に波風が立つ。やがて光漢は家を飛び出すが、玉楠は光漢が残した資料を見て、光漢が本気でマッチを造っていたのではないと気付く。……

キャスト&人物紹介
曹如器:張国立
  楡鎮の曹家の当主。字は瑞清。科挙の落第組だが、学問はあるらしく、絵も得意。今はすべてを長男に任せて、日がな部屋に据付けてある大きな鍋であやしげな薬を作っては飲む。俗事には関わらないようにみせかけて、実は家中のことを何でもお見通し。十数年前の妻の不貞と耳朶の存在のためずっと苦しみ続けているが、今でも妻を愛し、彼女の心を取り戻すのが願い。耳朶を殺そうとしたり、耳朶なしでは居られないと思ったり、善良だったり、意地悪だったり、優しかったり、ずるかったり、可愛かったり、妖怪じみてたり。

鄭玉楠:宋佳(小宋佳)
  桑鎮の鄭家の娘、曹光漢に嫁いでからは、曹家の二少奶奶。省の女学校を卒業して英語もペラペラで、光漢を除けば曹家で唯一ルカスと対等に会話が出来る。見るからに聡明で強そうな女性だったが、夫に顧みられず、曹家にも馴染めず、やがて同じく曹家で孤独をかこつルカスと親しくなり一線を越えてしまう。二代続いて同じ悲劇が曹家を襲うのだった。「レッドクリフ」の驪姫の時は全然わからなかったが、美人で存在感があって良い。

曹金氏:朱  茵
  曹如器の妻(後妻)。名は金小珍。格上の家から嫁入りしてきて、曹家の繁栄に貢献した。息子の曹光漢を溺愛している。かつて雇い人との間に耳朶を産んだが、本人にも知らせていない。罪滅ぼしのため常に仏間に籠もって信仰生活を送っており、いざという時だけ表に出てくる。しかし念仏三昧の割には他人に対して慈悲深くない、身勝手な人に思える。家中が暗いのは、彼女のせいも大きいような。

路卡斯(ルカス):馬丁・沃爾斯特魯姆(Martin Wallström)
  フルネームは路卡斯・奥斯卡爾松(ルカス・オスカルソン)。スウェーデン人の技師。曹光漢のマッチ工場の立ち上げの手伝いのため、3ヶ月の約束で曹家にやって来るが、工場はなかなかうまくいかず、その他の事情も重なって、ずるずると居続けるハメに。曹家の人々に好意を持っているが、中国語がほとんどできないため、光漢と玉楠以外の人とはろくに話もできない。曹家への途上、偶然見かけた鄭玉楠にたぶん一目惚れ。

曹光満:趙立新
  曹家の大少爺。曹如器の先妻が産んだ長男。曹家の実権を握っているようで、父親には頭が上がらない。頭は切れるしなかなかのやり手で、美人妻と妾たちに囲まれているにもかかわらず、不思議とひ弱さを感じさせるところ、衰退に向かう曹家や旧中国を象徴しているのか? 趙立新は脚本家でもあり、本作の脚本も担当。

曹光漢:朱雨辰
  曹家の二少爺。曹金氏が産んだ曹如器の次男。欧州に留学し、辮髪を切って帰ってきた(その頭で街を歩き回っても平気なのかねえ?)現状に不満だが、何をすべきか何をしたいのかが自分でも分からないといったふう。最初、マッチ工場を立ち上げるために大騒ぎするが、家を飛び出していつの間にか爆弾作りを始め、やがて曹家の存亡に関わる大事件を起こす。女がダメらしいが、ゲイでもないようだし、極度のマザコンなのか?

晩  月:呉  越
  三姨太。翠雨楼の妓女だったが、曹光満の待望の息子を産み、正式に三番目の妾となる。大人しくはかなげな外見と違って、意外にしたたかで強い。曹光満に愛されているという自信からか。原作にはない、ドラマオリジナルの人物らしい。

耳  朶:侯  祥
  ドラマ開始の時点で16歳。自分の出生の秘密については全く知らない。年に似合わず大人びて有能なため皆から目をかけられていて、特に曹如器の無理難題を何でもこなす。夜になると屋根に登って屋敷の人々の覗き見をするのが趣味だが、曹如器もそれを放任し見たことすべてを報告するように命じる。鄭玉楠にひそかに憧れている。侯祥は、「新版紅楼夢」では賈環を演じている。20歳すぎて賈環だなんて!!

鄭玉松:張志堅
  桑鎮の鄭家の当主で、鄭玉楠の兄。ひそかに藍巾会という反清の地下組織に入っている。清朝がもうダメだというのがはっきり見えているにしても、何不自由のない生活なのに、妻子もいるのに、しかも妹の玉楠を可愛がっているくせに光漢を仲間に引っ張り込む。かといって、藍巾会に忠誠心を持つわけでもない、かなり危うい人。

馬神甫:莱納徳・斯文松(Lennart Rolf Svensson)
  スウェーデン人の神父。本名は馬格紐斯・埃里克松(マグヌス・エリクソン)。中国には長いらしく、中国語がペラペラで、中国の風習や文化にも理解が深い。信者もけっこういるようだ。曹家は彼の教会に月に一度、食糧を援助している。

曹  猛:宋  凱
  蒼河県の千総(官職名、武官)。藍巾会の摘発に力を注ぎ、鄭玉松と丁々発止とやり合う。

曹栄氏:白慶琳
  曹光満の妻。子はいない。夫に尽し、すべてに忍従といった雰囲気だが、何を考えているのか、じっとりと恐い。父親は身分のある役人。

炳  叔:馬小寧
  曹家の管家。耳朶を育ててきた。

炳  嬸:沈  暢
  炳叔の妻。曹家の女中頭のようだ。

三  秋:周  菲
  大姨太。曹光満の最初の妾。おとなしく性格も丸いようだったが。

小魚児:楊婷婷
  二姨太。曹光満の二番目の妾。性格も言葉もきつい。

曹光婷:張  錚
  曹如器と曹金氏の娘。光満と光漢の妹。出産現場を見てショックを受け、嫁に行くのを極端に嫌がるようになる。幼い頃から仲良しだったらしい耳朶のことが好き。父親違いの姉弟だとはもちろん知らない。

瓏  繍:楊  沫
  曹栄氏に幼い頃から仕え、嫁入りについてきた侍女。曹光満の手がついて身篭るが。

五鈴児:邱  楓
  鄭玉楠に幼い頃から仕えてきた侍女、曹家にもついてくる。耳朶のことが好き。皆におデブちゃん呼ばわりされているが、全然太ってないよ。

関徳実:李玉山
  鄭家の管家。その名の通り誠実に鄭家に仕え、主人の秘密も守ってきたが。

青蔓児:王  爽
  最初は曹金氏の侍女。同じく召使いの二奎とデキてる上にアヘンを吸っている現場を目にした耳朶の「密告」により殺された。と思ったら、実は翠雨楼に身売りされていた。耳朶は良心の呵責に苦しむことになる。

二  奎:侯  勇
  こちらは許され、曹家に忠誠を誓い、取り立てられる。なんだか理不尽。


スタッフ
出品人:王同元、趙依芳、張国立
原  著:劉恒「蒼河白日夢」
総監製:楼忠福、周莉、韓国強、楊国釣、李暁楓、張蘇洲、趙樹清、陳君聡、李浩、盛林鎮
総策劃:程蔚東、陳輝、陳強、陳梁、陳志栄、黄翔、祝麗華、鄒暁利、張勇、肖融、王少春、李小国、程聖徳、張偉英
監製:倪政偉、何心、楊文紅、徐龍河、楊揚、張少輝、呉華、余海燕、李霓、趙暁暁、劉艶娥
策  劃:石衛平、曾立寧、王群力、徐華、楊亜瓊、金欒群、劉毅、鄧昌明、于婉琴、安琪、白雲亭、満雲、金騫、単金良、祝政
編  劇:趙立新
文学統籌:盛和煜
剪輯指導:劉淼淼
美術指導:趙海
作  曲:趙季平、趙麟
主題歌詞:易茗
録  音:安巍
製片主任:張国強、何文、周炳祥
製片人:馬宝華
導  演:張黎
撮  影:崔衛東、辻智彦、謝澤

主題歌
片尾歌「中国往事」  作詞:易茗/作曲:趙麟/演唱:譚晶

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