貞観之治

全50集/2006年

 「貞観長歌」とほぼ同時期に製作され放送された、同じく唐の太宗が主人公のドラマ。どちらを先に見るかで印象が180度変わるだろうことは百も承知だが、どうしても比較したくなる。
 「貞観長歌」は太宗の即位から始まるが、こちらは高祖の武徳年間から始まり、竇建德、王世充らとの戦いが続いている。そして兄弟間の争いが描かれ、玄武門の変が前半のクライマックス。
 「貞観長歌」ではみな刺繍いっぱいのゴージャスな絹の衣装を着ていたが、こちらは主に木綿(?)の質素な無地の衣装。特に前半は、「唐」と聞いて思い浮かべるイメージよりも、むしろ六朝の名残を感じる。しかし少しづつ衣装が上等に、かつ「唐」っぽいデザインに変わっていくあたり芸が細かい。
 建物や家具調度も全く違う。こちらにはまだ椅子もベッドもなく、常に床に敷物をしいて座り、床に布団を敷いて寝ている。衣装とも合わせて、二つのドラマが同じ時代とはとても見えない。
 主要人物たちも、それぞれ両ドラマで全くキャラが違う。ちなみに廷臣たちのうち、こちらで一番目立っていたのは魏徴(金士傑)。長孫無忌(馬少驊)はなにやら屈折した地味なキャラ。長孫皇后(苗圃)は、古典的立ち居振る舞いがさまになっていないのが残念だが、聡明でしっかり者で魅力的だ。突厥は「貞観長歌」に比べるとかなり卑小な感じで、碩利可汗も突利可汗もずいぶん小者っぽいのは何だか。
 肝心の太宗(馬躍)は、「貞観長歌」では徹頭徹尾立派な皇帝だったが、こちらはずっと普通の人っぽい。わざわざ諫言歓迎のポーズをとったり、しかしやがて魏徴の言うことを素直にきかなくなったり、名君になろうと無理して努力していたんだなーと。騎馬の場面がほとんど吹き替えだったのが惜しい。
 その他、照明に凝っていて、影の効果を多用した演出がいい(画面が暗いとの批判もあり)。たびたび「貞観何年」と字幕が出て、「貞観長歌」と比べて時の流れを把握しやすい。
 気になったこともいくつかあるが、そのうちの一つ。突厥を打倒した太宗のもとに西域諸国が朝貢してきて、太宗に「天可汗」の称号を贈る場面、さまざまな民族が一堂に会して踊り、多民族の融和と平和を演出……「中央電視台の晩会じゃあるまいし」と思わずつっこんでしまった。ちょうどタイムリーだったもので、余計なことをいろいろ考えてしまった。
 気になったことその二。王羲之の「蘭亭序」が政治と文化の継承の象徴ということなのか、重要なアイテムとして登場した。「蘭亭序」を所有者から騙し取る話もずいぶん丁寧に描かれている。それはいいのだが、「蘭亭序」を墓の中に持っていったのは太宗の暴挙だと思うのだが、そのへんは中国ではどう考えられているのか。
 ラストは、「貞観長歌」では高宗が名君になりそうだったが、こちらでは長孫無忌時代の始まり。
 全体的に「貞観長歌」がいかにも受けを狙った派手で分かりやすい演出だったのに比べ、こちらはぐっと地味に淡々とドラマが進み、より史実寄りの作りだ。「貞観長歌」が黄金なら、こちらはいぶし銀。両者、同じ人物、同じ事件も描き方がまるで違うため、見比べると楽しい。
 張学友(ジャッキー・チョン)が主題歌を歌っているのも個人的にツボ。メロディーだけでは分からないけれど、歌詞を確認すると、とてもジャッキーの歌と思えない。(2008年4月)

キャスト&人物紹介
唐太宗:馬  躍   李世民。唐の第2代皇帝。李渊の次男。598年~649年(在位626年~649年)。
長孫皇后:苗  圃  内助の功を発揮。政治に口出ししないとしつつ、言いたいことは言っている。600年~636年。
魏  徴:金士傑   この人が死んだ時、太宗は実はほっとしたに違いない。580年~643年。
長孫無忌:馬少驊  長孫皇后の兄。妹が外戚を重用するなと主張したため、なかなか出世できなかった。?年~659年。
房玄齢:孫  寧   「房謀杜断」と杜如晦と並び称される智謀の士、なんだけど、だんだんと慎重居士に。578年~648年。
李  渊:馬精武   唐の高祖。皇帝として悪くはないけど、ややゆるい。565年 ~635年(在位618年~626年)。
裴  寂:戈治均   隋臣だったが、李淵の挙兵に従い、唐建国の功臣となる。李淵の信頼が厚い。(569年~629年)。
李建成:陸剣民   李渊の長男。皇太子だが、玄武門の変で弟に殺される。589年~626年。
李元吉:沈孟生   李渊の四男。次兄を憎み、長兄に協力。その実ひそかに皇太子の座を狙う。603年~626年。
杜如晦:朱  雷   「貞観長歌」よりずっと出番が多い。585年~630年。
尉遅敬徳:德力格爾   建国の武将の中で、最も太宗と親しい。585年~658年。
張婕妤:斉千郡   もと隋の晋陽宮にいた宮女。李淵の最も寵愛する妃。世民嫌いで建成に協力する。
李承乾:呂  行   太宗と長孫皇后の長男。皇太子となる。幼い頃の玄武門の変の記憶がトラウマになっていた模様。619年~645年。
李  泰:王東方   太宗の四男。母は長孫皇后。皇太子の座を狙うため、文芸活動にいそしむ。618年~652年。
侯君集:王  戎   「貞観長歌」と違ってあまり目立たない。?年~643年。
褚遂良:劉偉明   李治の字を「帝王の字」だと評したのは鑑定ミスでは? 596年~658年。
武才人:張  笛   太宗晩年の寵妃。後の武則天。自分から李治の気をひき、皇太子の座奪取のためのアドバイスも。
李世勣:李  屹   「貞観長歌」と違って出番は少ない。594?年~669年。
李  靖:呉  堅   トラをペットにし、崑崙奴を連れている。奥さんの紅拂女(趙婉亦)も登場。571年~649年。
高陽公主:陶  蓉  太宗の愛娘。ワガママ馬鹿娘。房遺愛に嫁ぎ、玄奘の弟子・辯機との不倫事件を起こす。?年~653年。
文成公主:孫逸飛  出番は極少。太宗が吐蕃に嫁ぐよう説得するあたり、いたいけな少女をだまくらかしているとしか。623年~680年。
楊  妃:李嘉一   元吉の妃だったが、のちに太宗の妃に。「貞観長歌」の楊妃とは別人。
玄  奘:樊暁陽   出番は少ないが、出発と帰国後の太宗との関わりが少々。602年~664年。
碩  利:韓  東   突厥の首領。たいした敵には見えない。?年~634年。
突  利:厳宏智   突厥の実力者。碩利以上の、見るからに小者。
房遺愛:葉  鵬   房玄齢の次男。李泰を次期皇帝と見て、取り入る。?年~653年。
李  治:胡文豹   太宗の九男。母は長孫皇后。後の高宗。いい子には違いないんだろうけどね。628年~683年(在位649年~683年)。
馬  周:王新民   太宗に取り立てられた後は目立たない。601年~648年。

スタッフ
出品人:楊偉光、楊歩亭、黎瑞剛、陳潤生
総製片人:韓三平
総策劃:沈向軍、史東明
総監製:劉徳鴻、陳梁、姜涛、陳文
監  製:羅立平、魯書潮
策  劃:林潮翔、尹廉釗、王海帆
編  劇:阿城、孟憲実
制片人:宋振山
撮影指導:智磊
美術設計:項海明
作  曲:王黎光
剪輯指導:周新霞
録  音:関鍵、張暁楠
製片主任:孫穎
演  唱:張学友
導  演:張建亜

主題歌
片頭歌曲「理想国」   作詞:潘源泉/作曲:王黎光/演唱:張学友
片尾歌曲「時間的証明」  作詞:潘源良/作曲:王黎光/演唱:張学友、白鷺

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