万暦首輔張居正

全43集/2007年

 万暦初期の10年間、政治改革を推し進め、赤字財政を立て直した鉄腕宰相・張居正。本作は、隆慶帝の崩御直前から、張居正の死後、万暦帝が親政を進めていくまでを描く。「大明王朝1566」の続編製作の話が立ち消えになったらしい今、代わりに続編のつもりで見ることができなくもない。ただし「大明~」のほうが明らかに格が上。監督が「白銀谷」の蘇舟ということで期待したが、「白銀谷」に比べるとやや雑か。
 ドラマは隆慶6年(1572年)から始まる。「大明~」のラストで崩御した嘉靖帝の跡を継いで即位した隆慶帝(巫剛)は、「大明~」での期待を裏切ってすっかりだらしなくなっていた。内閣首輔の高拱(智一桐)は事なかれ主義、次輔の張居正(唐国強)とはそりが合わず、二人は反乱が起きた広西の総督の人事を巡って対立。やがて隆慶帝の崩御と万暦帝の即位を機に、太監・馮保(馮遠征)の策動もあって、高拱は罷免され張居正が内閣首輔に昇格する。李太后(梅婷)と幼帝の信頼と、馮保の協力を得た張居正は、これまで温めてきた政治改革に着手する。
 以下は、この手のドラマではおなじみの抵抗勢力と戦いつつ改革を推し進めていく話が続く。首輔に就任して真っ先にぶち当たった難題が、国庫が空っぽで在京の公務員に給与が払えないという事態。現金の代わりに国の倉庫にだぶついている胡椒・蘇木(漢方薬)で現物支給するのだが、これマジですか。(すみません、不勉強なもので。それにしても、高拱はこれまでどうしていたんだ、どうするつもりだったんだ。)さらに余剰公務員の削減で、高拱の息のかかった連中をますます敵に回し、続く子粒田(皇帝が大臣や皇族に与えた農地らしい)の税制改革で皇族も完全に敵に回す。故郷である荊州の税収について調査させると、張居正自身の父親の収賄・脱税が発覚。数年後、全国の農地の測量に着手したところへ、父の訃報が届く。本来ならば職を辞して帰郷し、三年の喪に服すのが常識だが、政治改革の遅滞・後退を恐れた李太后の命により職務を続行。ああ、忠孝両全は古より難し。これで張居正は全国の読書人の非難の的になるのだった。
 一方、10歳で即位して以来、張居正を師と仰ぎ、母親のいいつけを素直にきいて皇帝業に励んできた万暦帝も、16歳ともなると張居正が煙たくなってくる。まあ親や教師に素直に従えない年頃ではあるけれど、万暦帝の場合、自分で好きにお金を使って遊びたいだけなのが残念。そして長年の激務のせいで病に倒れた張居正に対する万暦帝の仕打ちとは……。要約すると、張居正は私利私欲を捨ててお国のために頑張ったのに、報われないどころか、かえってひどい目に遭いました。一応史実ベースなので分かっちゃいたけれど、終盤の展開は悲しい。
 原作小説が先にあるらしく、ずいぶん細かいキャラまで描きこまれている。ただ、ドラマを見る限りでは、張居正、馮保、李太后を美化しすぎでは。特に張居正は、アクが強くて欠点も多いイメージだったのだが、この張居正はどうもキレイすぎて、完全無欠とはいわないが、それに近すぎる。唐国強よ、これは張居正だから。唐の太宗でも毛沢東でもないんだからさ、というのが正直なところ。悪役系のキャラは、高拱を除くと総じて退屈なような。キャラ立ちして面白い脇役もいるが、ヒロインになるかと思った玉娘(楊雪)は、はっきりいって不要だった。
 その他気になったところとしては、小道具に安っぽいところが目につく。ギロチンはいくらなんでも。嘉靖期の忠臣として海瑞の名が語られるが、まだ現役のはず。馮保が張居正を字で呼んでいるが、いくら親しいといってもそんなのあり? 皇帝や太后の前で、いくら権勢があり信頼されているとはいえ、宦官の馮保が内閣首輔の張居正と並んで着席などありえないと思うが、どうなのだろうか。
 そもそも、張居正といえば「一条鞭法」、世界史の教科書に載ってた! というのが私の張居正に対する知識の大半で、この一条鞭法についてドラマでもしっかり説明され、施行をめぐるあれこれが描かれるものと期待していた。が、さらっと流されてしまったのは個人的に残念だった。(2011年10月)

あらすじ
 隆慶6年、広西での反乱を巡って張居正と高拱が対立、この大事な時に酒色に溺れ朝政をサボる隆慶帝。業を煮やした張居正は、皇帝を引っ張り出すべく紫禁城の登聞鼓を打ち、高拱との反目をエスカレートさせる。この一連の出来事で、李貴妃は張居正こそ我が子が即位した暁に頼みとなる人物と見込む。一方、後宮では皇帝のお気に入りで、高拱とも繋がる宦官・孟冲と李貴妃のお気に入りの馮保が対立していた。隆慶帝の健康が悪化する中、馮保は皇帝交替を機に、張居正に高拱を追い落として自ら内閣首輔となるよう持ちかける。……

キャスト&人物紹介
張居正:唐国強
  字は叔大。万暦帝の師でもある。あとは上に書いた通り。ちょっと老けすぎかな。1525年~1582(万暦10年)年。享年58歳。

李貴妃(李太后):梅  婷
  隆慶帝の貴妃、万暦帝の生母。万暦が即位すると慈聖皇太后に封じられ、皇帝の後見役となる。張居正を信頼して政治を任せると同時に、息子を名君にすべく厳しく教育する。?年~1614年。

馮  保:馮遠征
  司礼監秉筆太監、後に司礼監掌印太監、東廠提督を兼ねる。万暦帝のお守り役で、李貴妃に信頼され、張居正とも親しいようだ。皇帝代替わりを機に政権奪取へ動き、張居正に協力する。ただし、自分はしっかり私服を肥やしている。教養のある趣味人の一面も。?年~1583年。

高  拱:智一桐
  内閣首輔 兼 吏部尚書。引退して田舎に引きこもってからもなかなかしぶとい。1513年~1578年。

朱載垕(隆慶帝):巫  剛
  酒色に溺れるだらしない皇帝。1537年~1572年(在位1566年~1572年)。

朱翊釣(万暦帝):(小)王琦/(大)梅年佳
  お母さんと先生の言うことを素直にきいていた子供の頃は賢こそうだったのに。この後、明朝随一のダメ皇帝になっていく。1563年~1620年(在位1572年~1620年)。

玉  娘:楊  雪
  前半の張居正に救われるエピソードはまあいいとして、その後はいったい何のために出てきたんだか。

金学曾:李  超
  若くて有能で生意気で、張居正に気に入られ抜擢される。巡税御史となって荊州に赴任してしばらくは、すっかりこの人が主人公になっていた。実在の金学曾も面白い人物だったようで、この人を知ったのはこのドラマの収穫の一つ。生没年不詳。

王国光:王偉軍
  字は汝観。張居正の親友で、政治改革に協力。特に戸部尚書として財政再建に貢献したのは事実らしい。張居正が死んだら、失脚してひどい目に遭うに違いないと心配だったが(ドラマ鑑賞中は調べる勇気がなかった)、実在の王国光はその後も長生きしてタタミの上で亡くなったらしく、ほっとした。1512年~1594年。

李  偉:艾俊邁
  武清伯、李貴妃の父。もと左官。ケチなのはいいが、立場を利用して金儲けにいそしむ。

陳太后:王小丹
  隆慶帝の皇后、万暦帝即位後は、仁聖皇太后。おっとりしておとなしいが、実は李貴妃(太后)に劣らずできる女性だと思う。?年~1596年。

許従龍:于  軍
  駙馬都尉、隆慶帝の妹の夫。反張居正の急先鋒。キャラにもうひとひねりあると良かったのだが。

張  鯨:劉  波
  馮保が目をかけて引き立ててやった宦官。司礼監秉筆太監。

李  高:那  鋼
  李貴妃(太后)の弟、錦衣衛千戸。幼少時代の苦労を忘れたお坊ちゃん。

王  篆:丁  充
  最初は巡城御史だが、張居正の片腕となって働き、重要な役職を転任。1519年~1603年。

殷正茂:白建才
  字は石汀。張居正の友人で、両広総督として実績をあげ、その後、光禄寺丞、戸部尚書などを歴任し、張居正に協力。1513年~1592年。

張四維:兪洛生
  字は鳳盤。礼部右侍郎から礼部尚書になり、内閣入り。張居正の死後、内閣首輔になる。品性のかなり疑われる風見鶏野郎。1526年~1585年。

游  七:王響偉
  張居正の管家。

陳応風:過斉鳴
  馮保の手下。最初は東廠の№2かと思ったが、自ら現場に出て盗み聞きなんかしまくってるし、ポジションがよくわからない。

孟  冲:王風斎
  隆慶時代の司礼監掌印太監。皇帝にこびへつらう絵に描いたような悪い宦官。馮保に追い落とされる。

沈  度:呉  堅
  清官。最初、宛平県令、次に荊州巡按御使として金学曾に協力し、後に都察院監察御史へ出世。出番は少ないが、低くて渋い声がインパクト大で忘れられない。

戚継光:将昌義
  「大明~」では倭寇と戦っていたが、今は薊州総兵。張居正の死後、広東総兵に降格される。出番は少ない。1528年~1587年。

李  延:趙  君
  両広総督、高拱の門生。出番は前半に少しだけだが、特別出演だけあってインパクトがあった。

邵大侠(邵方):楊和平
  闇の仕事を請け負う大商人? 「大侠」とは大げさな、と思わざるを得ない。

スタッフ
出品人:唐源濤、馬潤生、黎瑞鋼、文成国、陳潤生、王建輝、何冰、瞿長林
総製片人:韓三平
総監製:張昌爾、陳梁、夏旗艦、劉德宏、姜濤、王同元
総策劃:張強、杜建国、周百義、史東明、余小鋒、程張麗、楊瑞、張林林、程蔚東
原著・改編:熊召政
策  劃:姜公映、周藝平、羅丹青、徐徳歓、洪小興、高波
監  製:羅立平、宋振山、魯書潮、王海凡、韓敏、葉文林、楼忠福
製片人:羅立平
撮影指導:林斌
美術指導:金栄哲
作  詞:喬羽
作  曲:郝維亜
演  唱:彭麗媛
導  演:蘇舟

主題歌
片尾歌  作詞:喬羽/作曲:郝維亜/演唱:彭麗媛

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