雍正王朝

全44集/1999年

 清の雍正帝を改革を進めた名君として描き、大ヒットした名作。「ナントカ王朝」ドラマの先駆けとなった作品で、中国では今でもこれを超える作品はないと評価されているようだ。今回あらためて通して見ると、その評価も納得の面白さだった。
 ドラマは康煕46年から始まり、前半は皇子たちの後継者争いが描かれる。中心となるのは八阿哥・胤禩(王絵春)で、彼は最後まで雍正帝のライバルとして立ちはだかる。そして、本心を表に出さず周囲を煙に巻く老獪な康煕帝(焦晃)がいい。哀しみを湛えたまなざしで息子たちを見やる表情には泣ける。
 肝心の、後に雍正帝となる四阿哥・胤禛(唐国強)は、黄河氾濫の際の救済活動や、役人たちの国庫からの借金の取立てに辣腕を振るい父に認められるも、容赦ない強引なやり方は評判がよくない。兄弟たちとは一線を画し、帝位に色気があるようなないような、でもやっぱりその気はあるんだな、という何だかむっつりスケベなタイプの人だ。しょっちゅう仏像の前で念仏を唱えている割には、いざとなると冷酷で、しかも決して自分の手は汚さないところがミソ。
 瀕死の康煕帝に次期皇帝に指名されるも、兄弟たちはあからさまに不服を唱え、皇帝の地位も不安定なまま。そんな中で雍正帝は、とにかく働く。勤勉すぎて過労死したといわれる雍正帝は、朝暗いうちから夜遅くまで、時には徹夜で、寸暇を惜しんで奏章に目を通し、朱批を書き込み、矢継ぎ早に命令を出して働きまくる。そして康煕帝が残した宿題であるさまざまな制度改革を進めようとするが、既得権を失う連中の反対や無理解に遭い、なかなか思い通りにことを進められない。このあたり、どうしても現代政治と重ねて見てしまう。しかし、反対勢力と戦い、誹謗中傷にさらされ、傷つき苦悩し身も心もボロボロになっていくさまは痛々しい。演じる唐国強は、後半ほんとにやつれて頬がこけている。メイクのせいだけでないはずだ。
 ついでに言えば、皇帝も大変だろうが、これにつきあう臣下、このドラマでいえば張廷玉(杜雨露)あたりも過労と心労で倒れるんじゃないかと見ていてハラハラする。史実を知らなかったら、私はきっと本気で張廷玉のために心配していただろう。
 雍正帝といえば、兄弟たちを幽閉したり、年羹堯ら功臣を粛清したり、密偵政治、文字の獄だのという暗いイメージがあるが、このへんはかなり口当たりがよくなっている。雍正帝を美化するためには、こうするしかないだろう。肉親の情より政治を優先させるのも、伝統的に身内のからんだ不正が当たり前の中国では、理想の姿なのかもしれない。しかし短気だったり、感情の起伏が激しかったり、けっこう陰険だったりと人間的欠点もはっきり描かれていて面白い。
 欠点といえば、ドラマ内で年月がどのくらいたったのか分かりにい。「今、雍正何年なのだろうか」と何度も考えてしまった。史実と違うところがいろいろあるので、仕方なかったのか。
 故宮でのロケは見ごたえがあるが(追記:本物ではなく横店のセットだそうだ。お恥ずかしい)、派手な戦争シーンやこれ見よがしのスペクタクルはない。女優の見せ場もない。それでも一見地味な重量級政治ドラマをテンポよく、始めから終わりまで面白く見せきった監督の腕の冴えに感服。(2007年3月)

キャスト&人物紹介
雍  正:唐国強   名は胤禛。康煕帝の第四皇子(四阿哥)。
康  煕:焦  晃   清の第4代皇帝。
胤禔(大阿哥):張彦春   康煕帝の第一皇子。軽率で長男の割に周囲に軽んじられる。
胤礽(皇太子):徐  敏   康煕帝の第二皇子。30年以上皇太子をやっているうちにおかしくなったらしい。
胤祉(三阿哥):夏和平   康煕帝の第三皇子。学者タイプで兄弟たちと雰囲気が違う。
胤禩(八阿哥):王絵春   康煕帝の第八皇子。「八賢王」の異名をとり、人気がある。帝位を狙い雍正と対立。
胤[示唐](九阿哥):苗海忠   康煕帝の第九皇子。八阿哥の腰ぎんちゃく。
胤[示我](十阿哥):劉  魁   康煕帝の第十皇子。上に同じく。
胤祥(十三阿哥):王  輝   康煕帝の第十三皇子。兄弟たちで唯一、胤禛と仲がよい。正義感、義侠心が強い好漢。
胤[示題](十四阿哥):徐祖民   康煕帝の第十四皇子。雍正の同母弟だが八阿哥派。
年羹堯:杜志国   もと胤禛の包衣(奴隷?)だったが、胤禛の片腕となる。四川総督となったのを手始めに軍功を立てる。
張廷玉:杜雨露   康煕朝からの寵臣。ここぞというところで核心をつく発言をしてくれる。
李  衛:趙  毅   もと乞食少年が胤禛に拾われて下人になる。やがて取立てられ、両江総督にまでなり江南で改革を実行する。
弘  暦:賈致剛   雍正帝の第四皇子。後の乾隆帝。子供の頃から出来がよく、祖父の康煕帝のお気に入り。
弘  時:姜光宇   雍正帝の第三皇子。叔父の胤禩に煽られて帝位を狙う。
弘  昼:袁世龍   雍正帝の第五皇子。アホっぽい言動は保身のためらしく、実は頭がよい。
田文鏡:賀生偉   胤禛に見出されて抜擢され、河南巡撫となり、改革実行に邁進する。
隆科多:蔡鴻翔   九門提督になり、康煕帝から遺詔を託される。
図里琛:胡栄華   近衛兵の隊長?(史実とは全然違うらしい)
鄔思道:李定保   胤禛の息子たちの家庭教師で、胤禛のブレーンも務める。雍正即位とともに去り、李衛や田文鏡の幕僚となる。
年秋月:常  林   年羹堯の妹。胤禛の側室となり、後に貴妃となる。
李徳全:楊洪涛   康煕帝、雍正帝に仕える宦官。
張五哥:黄湘陽   胤禛と十三阿哥が江南で出会った青年。康煕帝の侍衛に抜擢される。
阿  蘭:王安秋   張五哥の妹。十三阿哥の側室になる。
納拉氏:荘  麗   胤禛の正妻。皇后となる。演じる荘麗は唐国強の奥さん。
翠  児:張丹丹   もと李衛の乞食仲間。李衛の妻になる。
喬引娣:李  頴   十四阿哥に拾われ、側仕えの女官となるが。

スタッフ
出品人:楊偉光、劉文武、崔増伏
総監製:趙化勇、鄭佳明
顧 問:文選徳、洪寿祥、秦光栄、鐘興祥、愛新覚羅・毓[山亘]
総策劃:張子揚、蘇斌
責任監製:羅明、高建民、陳大川、周経
編 劇:劉和平(執筆)、羅強烈
編 審:呉兆龍
作 曲:徐沛東
総撮像:池小寧
総美術:秦多
剪 輯:劉淼淼
録 音:顧長寧
芸術総監:張黎
総導演:胡玫
執行製片人:羅浩
総製片人:劉文武、馮驥、蘇斌

原 著:二月河「雍正皇帝」

主題歌
片頭歌:「得民心者得天下」  作詞:梁国華/演唱:劉歓

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