天下糧倉

全31集/2001年

 食糧問題をテーマにした、重厚で骨太な文芸大作。
 飢えた被災民に配る粥が水同然であるのに激怒した劉統勲は、責任者はじめ21人の下っ端役人をその場で処刑する。その後、食糧倉庫が空っぽであるのを知り、愕然としてつぶやく。「殺したのは間違いだったのか?」。……殺す前に確認しろ。人の話をきかず、いきなり力に訴えるのは、武侠ものだけの特権ではなかった! この暴力の主は欽差大臣、つまり政治権力そのものだから、余計始末が悪い。
 と、のっけから少々ひっかかる場面はあったが、誤解なきよう、これは(正義の)主人公が、被災地への米が横流しされていることに気づくという大事な場面。この事件を発端に、大旱魃に見舞われた乾隆初年、被災各地で私腹を肥やす役人や北京の腐敗官僚たちと、不正を暴こうとする正義派官僚の戦いが繰り広げられる。しかし、不正の告発も政敵の死も、苦い悔恨を伴うこととなった……。
 主人公といえるのは劉統勲(王慶祥)と米河(王亜楠)だが、出番は必ずしも多くなく、群像劇といったほうがいいかもしれない。この二人のほか、米汝成(杜雨露)と盧焯(杜志国)が、役柄と老練な演技が相まって強い印象を残す。乾隆帝の聶遠は、何しろベテラン演技派に囲まれているので、演技という点で見劣りするのは否めないが、頑張ってはいる。米河は、世間知らずのお坊ちゃんかと思いきや、瞬く間に有能ぶりを見せつけ、さらに三人の美女に思われるというおいしい役。その三人のヒロインでは、喜怒哀楽を全く面に出さない柳含月(王海燕)、小悪魔チックな小梳子(李倩)が特に印象的だ。
 監督は「第五世代」の呉子牛。私はこの人の映画は好きではなかったのだが、このドラマは正攻法で真っ向勝負だ。アップを多用した様式化されたような演技は、最初は鼻についたが、慣れると同録だと思われる迫真の台詞まわしと相まって、力強く見る者に迫ってくる。派手なスターはいなくても、演技派が揃って見応えたっぷりだ。そして、映画のような大規模なカメラワーク。ドラマにしておくのがもったいないスケールの大きな画面が多く、中でも群集シーンはあまりの迫力に圧倒される。
 趙季平が手がけた重厚な音楽も、ドラマとマッチして素晴らしい。  (2006年9月)

あらすじ
 乾隆元年の早春、早くも旱魃が予想される。その頃、刑部侍郎・劉統勲と倉場侍郎・米汝成は官倉の穀物をめぐる不正に気づき、調査を始める。浙江巡撫の盧焯も時を同じくして現地での不正を暴く。米汝成の息子の米河は家を飛び出し、やがて盧焯や劉統勲に才覚を認められて六品の官に就き、干害が広がる中、東西に奔走する。

登場人物&キャスト

劉統勲:王慶祥
 刑部侍郎。真面目な清官だが、初登場シーンから人の話をきかない強引さが目立つ。このくらい我が強くないと、あれだけの敵を相手に戦っていけないのかもしれないが。息子はかの「宰相劉羅鍋」こと劉墉で、本作にも少し登場。「宰相~」にあった「お父上も有名な清官で……」という台詞は本当だったのだと知った。

米 河:王亜楠
 米汝成の一人息子。浙江の家で、梯子をはずされた部屋に3年監禁されて科挙の勉強を強いられていた。小梳子の手引きで脱走する。やがて盧焯と劉統勲に認められ、その推挙で官に就き、河南で劉統勲に、浙江では盧焯に協力する。盧蝉児を愛していたが、臨終の父に柳含月を娶るよう命じられ困惑する。

米汝成:杜雨露
 倉場侍郎。劉統勲と親しい。不正を調査し、上司の罪を暴こうとしたため、とうとう陥れられてしまう。二品の高官なのに、官服の下はつぎはぎだらけという質素な生活で、誰もが認める清官だったのだが。一人息子の米河の将来に期待するのはいいが、やり方がちょっと常軌を逸していないか。

盧 焯:杜志国
 雍正期に無実の罪で入獄していたが、晴れて浙江巡撫に返り咲く。浙江での不正を正し、旱魃対策に奮闘する有能かつ清廉な官吏。一人娘の蝉児が泣き所。

乾隆帝:聶 遠
 即位したての理想に燃える若き皇帝。ただし、現場の苦労が分からないきらいが。

柳含月:王海燕
 北京の杜家に3年前に買われてきた婢女。身分は婢女だが、米汝成に「諸葛孔明」と称えられるほどの知恵者で、参謀を務めている。米汝成は何事も彼女に相談し、最後に息子に娶らせようとするほど、その智謀に全幅の信頼を置いている。

小梳子:李 倩
 床屋の娘。米河を幽閉されていた部屋から脱走させ、その後行動をともにし、何事にも協力する。

盧蝉児:尹春徳
 盧焯の一人娘。目が見えないが、剣法に優れる。米河と相思相愛になるが。

田文鏡:田成仁
 雍正期からの元老。劉統勲らの政敵。

明灯法師:胡慶士
 飢饉の様子を描いた絵画を乾隆帝に献ずるよう劉統勲に托し、旱魃を予言し、盧蝉児の目を治療し、時々現われては主人公たちに関わるナゾの僧侶。


スタッフ
総監製:趙化勇、斯鑫良
総策劃:胡恩、馬雨農
監 製:胡瑞庭、鐘桂松
責任監製:汪国輝、朱建華、劉俊傑
策 劃:周羽強、何天萃、王国富、厳萍英
製片人:馮驥、何欣、譚湘江
責任編導:兪勝利
責任製片:林威
編 劇:高鋒
劇本策劃:李森祥
総撮像:楊尉
総美術:靳喜武
作 曲:趙季平
出品人:高建民、程蔚東、崔屹平
導 演:呉子牛

主題歌
片尾歌「熱天・熱地・熱太陽」  作曲:趙季平/作詞:易茗/主唱:劉歓

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