天下

全42集/2006年

 呉子牛監督が「貞観長歌」に続いて撮った娯楽時代劇。
 明代末期、天啓帝(王亜楠)最後の1年半。東廠と錦衣衛を自由に操り朝廷を牛耳る宦官・魏忠賢(王絵春)は、皇帝になろうという野望を密かに抱き、自分に反対する官僚や、皇帝の弟・信王(宗峰岩)ら邪魔者を排除しようとする。魏忠賢を弾劾しようとして処刑された楊漣(杜志国)の義子の陳嘉義(万弘傑)は、信王や三人の皇叔と協力し、また師妹(蒋欣)や錦衣衛の友人たちの助けを借りながら、打倒・魏忠賢の戦いを挑んでいく。後半は、主人公が探偵兼弁護士となった法廷ドラマのようなノリも。
 登場人物で楽しいのは、何と言っても王絵春が演じる魏忠賢だ。悪役が面白いとドラマも面白くなる見本。子供好きだったり、客巴巴(宋佳)の前では純情だったり、悪事を行う時とのギャップがよい。だんだん憎めなくなってくる。最後は哀れ。皇帝の乳母で魏忠賢の愛人の客巴巴は、魏忠賢と一蓮托生のようで、その実何を考えているのか腹が読めないような気がしていたが、ラスト近くであっと言わされた。
 魏忠賢の手下どもも面白い。これがまたクセモノ揃いで、しかもみな魏忠賢の義子になっている。いい年した地位も身分もある男たちが魏忠賢に「乾爹」と呼びかけつつ媚びた笑顔を浮かべるさまは、相当うすら寒い。もちろん連中が一枚板のはずもなく、お互いに警戒し合い、騙し合い、そして一人一人、魏忠賢のトカゲの尻尾切りの犠牲になっていく。もっとも、お互いを信用できないのは主人公の周囲も同じで、最後まで見通すとかなり殺伐としたお話だった。実は正邪、善悪という単純な対立の構図ではなかったところは、やはり中国ドラマ。
 肝心の主人公の陳嘉義は、あくの強いキャラたちに囲まれているせいか、少々影が薄い。しかし、一人だけ素直で清潔そうなキャラが、かえってドロドロの人間関係の虚なる中心となっているような気もする。ちょっと薄すぎると思わなくもないが、彼はたぶんこれでよいのだ。名探偵気取りなのが少々鼻につくが。
 残念ながらアクションはいまいち。ワイヤーアクションはどこかで見たようなシーンばかり。他の監督ならともかく、呉子牛はかつて張藝謀や陳凱歌と並んで第五世代の旗手ともてはやされた時期もあったのに。それが張藝謀映画の劣化コピーみたいなシーンばかりではがっかりだ。アクションがこんなことでは、「水滸伝」の監督は任せられないぞ!(製作計画は頓挫中のようだが。)(結局、監督を降板したようだ。2009年7月追記) アクション監督に人を得ていないだけだろうか。忠字門のメンバーがなぜ透明人間になれるのかも謎。実はニンジャ、などというオチを密かに期待したが、考えすぎだった。
 その他、編集の最終段階で相当シーンをカットしたらしい痕跡がところどころにあって、少々気になる。登場しない人物がクレジットされているし。
 ともあれ、登場人物の多さに混乱させられることもなく、錯綜しそうなストーリーを最後にまとめてクライマックスにもっていく語り口は、文句なしの面白さ。見始めると止まらなかった。(2009年1月)

あらすじ
 1926年(天啓6年)春。天啓帝は趣味の木工にふけって政治に身を入れず、魏忠賢の言いなり、乳母の客巴巴にべったりである。魏忠賢は邪魔な刑部尚書・王磷光を暗殺。左都御史・楊漣は皇帝の弟・信王らと語らい、魏の弾劾を企てるがかえって逮捕、処刑される。楊漣の義子・陳嘉義はその志を継ごうとする。魏忠賢は三人の皇叔を北京から藩地へ追いやることに成功、宮中で皇叔たちとの別れの宴が催されるが、そこには皇帝を狙う刺客が待っていた。直前にこれを知った陳嘉義が友人で錦衣衛の羅雲鵬に知らせたため事なきを得るが、羅らは恩賞を受けるどころか、藩地へ向かう皇叔らの護衛を命じられる。魏忠賢が三皇叔の命を狙うと気付いた銭嘉義は一行を追う。果たして刺客が現れ、撃退するものの、三皇叔はいずれも毒に当たって死に瀕する。近くの山中に隠れ住む名医のもとに急行した陳嘉義らは、そこで意外な人物と出会う。……

キャスト&人物紹介
王磷光:陶澤如
  刑部尚書。魏忠賢の手の者によって、白昼の往来で殺害される。陶澤如だと気付く前に殺されちゃったよ。

楊  漣:杜志国
  左都御史。銭嘉義の義父。魏忠賢を弾劾しようとして失敗、逮捕され処刑される。1572年~1625年。杜志国は、先の「貞観長歌」での名演の記憶も新しく、活躍を楽しみにしていたのに、あっという間にご退場。

沐雲州:聶  遠
  ラスト近くまで顔も正体も現さない、忠字門の生き残り。以上3人、出番はわずかの客寄せパンダ。

魏忠賢:王絵春
  東廠提督兼司礼監掌印大太監。中国史上に悪名高い大宦官。天啓帝の父・泰昌帝の不遇の皇太子時代から仕え、天啓に信頼されている。政務を顧みない天啓をうまく丸め込んで政権を掌握しているが、実は皇帝になるという野望を持っている。文盲のはずなのに文書を読み、教養もありそう。馬桶(おまる)洗いが趣味。1568年~1627年。

客巴巴:宋  佳
  天啓帝の乳母。奉聖夫人。不遇の時代から天啓に尽くしてきた一方、皇帝公認の魏忠賢の対食(宦官の愛人。夫婦、と劇中では言っていた)であり、魏との見事な連携プレーで天啓を篭絡する。天啓の性格や好みを誰よりも知り尽くしているのが強み。?年~1627年。

熹宗帝:王亜楠
  天啓帝。姓名は朱由校。木工好きで、いやいや皇帝をしている。定見がなく、叔父たちや信王の訴えをいったん信じても、必ず魏忠賢と客巴巴に丸め込まれる。幼少時、皇太子時代の父(泰昌帝)とともに鄭貴妃の放った暴漢に襲われた記憶がトラウマになり、そのため身内を信用できず、当時から自分に尽くしてくれた魏や客に思い入れがあるらしい。1605年~1627年(在位1620年~1627年)。

銭嘉義:万弘傑
  最初は刑部給事中、後に刑部右侍郎。楊漣の義子。湖南巡撫だった実父がかつて万暦帝を批判する上書をして一族もろとも誅殺され、幼い銭嘉義は楊漣らに救われたという過去を持つ。二人の父の薫陶よろしく、正統派の正義漢。運動音痴でアクションは友人たちにお任せだが、行動力はある。

信  王:宗峰岩
  天啓帝の弟、朱由検。後の崇禎帝。1611年~1644年(在位1628年~1644年)。政治の現状を憂い、魏忠賢の陰謀と戦う、反・魏忠賢派の希望の星。そのため、常に魏忠賢の攻撃に晒され、実はわが身も危うい。

慕容秋:蒋  欣
  銭嘉義の師妹。東林書院で一緒に学んだというが信じがたい。楊漣を義父と呼んでいるが? 銭嘉義との関係が説明不足だ。妙雲師太の一番弟子で武術はかなりできるようだ。銭嘉義に片思い。

余倩児:饒敏莉
  銭嘉義の実父の友人、余江南の娘。山中に父親とともに隠れ住んでいた。死に瀕した三人の皇叔を救い、みなの信頼を得る。親同士が婚約を決めていたといい、銭嘉義の妻になるが。

羅雲鵬:黒  子
  錦衣衛百戸。武芸に秀で、強くて有名らしい。銭嘉義の友人。かつて楊漣に助けてもらった恩があり、そのため銭嘉義に協力するはめになり、そして結局は最後まで協力してしまう。最初のうちは、裏切りそうに見えて心配だった。

張皇后:邢宇飛
  天啓帝の皇后。聡明で、しばしば天啓帝を諌める。信王夫婦とも協力し、反・魏忠賢戦線に参加。当然、魏、客からは敵視される。?年~1644年。

信王妃:席与立
  信王の妻。常に夫に的確な助言をし、魏忠賢の妨害で自由に参内して皇帝に会えない夫の代わりにしばしば皇后と連絡を取るなど、協力する。?年~1644年。

瑞  王:董子武
  天啓の叔父、万暦帝の子。名は常浩。?年~1644年。かつて鄭貴妃(万暦の寵妃)が我が子を皇太子にしようとした陰謀を兄弟揃って黙認したため、蟄居を命じられていた。今は反省し、信王と協力して御政道を正そうとするが。

惠  王:于  雷/桂  王:李士際
  いずれも天啓の叔父、瑞王の弟。名はそれぞれ常潤(生没年不詳)、常嬴(1601年~1645年)。

崔呈秀:高田昊
  先に兵部尚書、後に左督御史。魏忠賢の義子。文書偽造が得意。?年~1627年。

許顕純:国永振
  東廠鎮撫司。もちろん魏忠賢の魏子。東廠では魏忠賢に次ぐ地位らしく見える。?年~1627年。

田爾耕:王正佳
  錦衣衛提帥。たぶん錦衣衛のトップ。魏忠賢の義子。史実と違って一足先に退場。?年~1629年。

客光先:王家赫
  錦衣衛千戸。客巴巴の弟。やはり魏忠賢の義子となっているが、現状に不満を抱き、客家が魏と親密になりすぎることに警戒感を抱く。

王体乾:楊洪涛
  魏忠賢派の宮中の宦官。この俳優さん、またこんな役だ。

周紀元:馬浴柯
  信王妃の表弟(母方の従弟)。なのに信王妃と姓が同じなのは何故? 都察院給事中。信王の腹心のはずだが、肝心な時に頼りにならない男。

袁大均:李旗山
  刑部師爺。刑部では銭嘉義と並ぶ切れ者として有名らしい。脅されて魏忠賢派に協力させられる気の毒な人。誰か助けてあげて~。

武大進:陳  凱
  羅雲鵬の弟分、錦衣衛欽班。弟とともに麒麟双鞭と呼ばれる。慎重で頭がいい。

武二進:張  晋
  同上。武大進の弟。単純で猪突猛進タイプ。

楊貴妃:舒  燕
  天啓帝の寵妃。客巴巴に選ばれて後宮に入り、その意を受けて行動しているが。

楊  寰:劉海波
  楊貴妃の兄。王磷光の後任の刑部尚書。もちろん魏忠賢の手下。

顧秉謙:楊可心
  魏忠賢に取り入ろうと必死で、そのために熊廷弼と皇后の父を誣告する。韓邦失脚後、内閣首輔に。

妙雲師太:呉珏瑾
  湖北の妙雲山・妙雲寺の尼僧。燕子門なる武術の門派の掌門らしく、慕容秋と小紅の師父。楊漣や陳嘉義とどういう関係なのか、これまた説明不足。楊漣を救おうとし、その後も銭嘉義に協力するが、正直もうちょっと頼りになる人かと……。

小  紅:姚  笛
  慕容秋の小間使い? やはり妙雲師太の弟子。きれいで可愛いけど、頭の回転が速くて気が強くて口が達者という典型的な小間使いキャラ。姚笛(迪)は新版「紅楼夢」の王煕鳳。

柳全江:王佳宇
  暗殺集団村・鉄磯堡のリーダーらしい。客光先に利用されて皇叔の暗殺を請け負い仲間が死んだため、生き残った二人の弟分とともに復讐を企てる。

王雄涛:金  鵬
  信王の衛兵で腹心。

韓  邦:施長金
  内閣首輔。魏忠賢とつるみ、その言いなり。

姜成茂:陳  龍
  秘密の暗殺組織・忠字門の幇主。魏忠賢の犬。本人は早く退場するが、忠字門の生き残りがドラマの鍵に。

熊廷弼:畢海峰
  遼東を守る名将。楊漣と親しく魏忠賢弾劾に協力したため、魏忠賢派に誣告され獄中で自殺。1569年~1625年。

文炳勛:管寿義
  信王の師。信王の推薦で、楊寰の後を受けて刑部尚書になる。

スタッフ
出品人:賈雲
総監製:王大方、胡国華、林呂建、朱連芳、李鏡源
監  製:葉進軍、付岩、袁志遠
総策劃:王志忠、陳華
編  劇:馬衛軍
策  劃:盧亮、楊躍雄、鄭航
動作導演:陳冠龍
歴史顧問:楊暁雄
美  術:陳若剛
撮  像:王藝、張文傑、葛延松
造型設計:張邦寛
服装設計:趙嵐
製作主任:于惠元、虞燕翔
執行製片人:司馬小加
総製片人:賈雲
導  演:呉子牛

主題歌
片頭歌「天下」   作詞:朱海/作曲:王黎光/演唱:毛寧
片尾歌「江湖民謡」  作詞:朱海/作曲:王黎光/演唱:韓紅

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