水滸伝

全43集/1998年

 中央電視台が総力を挙げた(たぶん)、中国四大古典小説ドラマ化、いよいよ最後の作品。相変わらずものすごく気合いが入っている。
 ドラマのために建築した巨大なオープンセットは立派だし、衣装や当時の風俗などもかなりリアルに再現しているように感じる。アクション監督には香港から袁和平と袁祥仁を招聘。当時としては画期的なことだったと思う。古典であるからか、「マトリックス」以前だからか、比較的リアルで重厚なアクションで、個人的には大変好みである。
   長い原作をうまくカット、ダイジェストしているが、やはり前半の「武十回」あたりまでを丁寧に作っている。原作通りでないところもけっこうあるが、ほぼ納得がいく。戦闘シーンの規模もすごい。音楽もいい。と、思わず手放しで褒めてしまったが、もちろんツッコミどころもいっぱいある。
 これまた俳優陣がほぼイメージに近いのがすごい(残念ながら例外も……)。リアリティを出すために、出演者にはスポーツや武術畑からもかなり引っ張ってきているらしい。魯智深、林冲、武松の3大スターはやはり別格の扱いで、それぞれが素晴らしかった。阮氏三雄もいい味を出していたと思う。
 最も有名な俳優は宋江役の李雪健か。この宋江、なんだかつかみどころがなくてどういう人かよく分からなかったが、そういうキャラとして演じていたのだと思おう。見るからに運動神経にぶそうなのが欠点か。原作を読んでもこの人のアクションシーンはないが、でも実は武術をたしなんではいるはず。両手をついてひざまずくと身体が硬いのか、カエルがはいつくばったようなみっともないポーズになっているのが、なんだか嫌だった。
 このドラマのためだけにサイト一つ作れそうなくらいのボリュームがあるが、以下、特に印象に残ったところをいくつか。

・ 史進の史家荘での見せ場が見事にカットされたのは拍子抜けした。刺青を見せてほしかった。
・ 閻婆惜に対する宋江の態度はひどい。「好きでも何でもないけど気の毒だから養ってやることにした」みたいなことを面と向かって言うか。張文遠とできたのも宋江をゆする行動に出たのも、そもそも宋江が悪い。しかも雷横がすぐに晁蓋からの手紙を焼き捨てていたので、宋江の間抜けぶりが目立つ。
・ 武松は景陽崗で本物のトラと戦う! 張りボテやスタントマン(たぶん)も利用しているが、動物園から虎を借りてきて、調教師も数人がかり、俳優とスタッフ全員に保険をかけて、医者と救急車を待機させて一番最後に撮影したと何かで読んだが本当か。武松の必死の形相は演技ではなかったのかも。
・ 潘金蓮は淫婦ではない。はっきりと潘金蓮の立場に立ってドラマが展開される。武大に嫁いでそれなりに満足していたのに、武松の出現が彼女の運命を狂わせる。武松に恋したことで、大げさに言えば自我に目覚めていく。それなのに、人がよさそうで意外に亭主関白の武大、女心のわからない武松(わかったところでどうしようもなかっただろうが)……。そんな心の隙を王婆さんにつかれてしまうのだ。このあたり、中国のお得意の「封建制度下の女性の悲劇」といった趣。現代と違って女が主体的に生きることなどできない時代、その中でもがいた結果が、西門慶などというろくでもない男との姦通というのではあまりにも哀れだった。
・ 鴛鴦楼での虐殺の最中に、武松ってばテーブルの上の料理を食べ出した! そりゃあお腹すいていただろうけどさ。ああ、中国人ってすごすぎる! 私は心底感心した……。
・ 李逵の余計な殺人シーンはほとんどなく、子供のように純粋なキャラが強調されている。時にはむしろカワイイくらい。殺人狂ぶりが好きという人でない限り、安心、納得のキャラクター造形だ。その代わり李逵を叱りつける宋江のいやらしさも際立つけれど。
・ 楊雄の妻の姦通話は、閻婆惜や潘金蓮がほとんどオリジナルストーリーになっていたのに比べてかなり粗雑。もう似たような話はいらないのか。楊雄や石秀あたりまでは時間を割いてもらえなかったのか。このあたりになると物語をはしょっていて、石秀の描写も削られてずいぶん単純なキャラになっている。石秀ファンは不満だろう。
・ どうやって梁山泊入りしたのが説明のない人が多いのがちょっと残念。朱仝や秦明はどうするつもりかと心配していたら、朱仝は出番らしい出番はなく、秦明は何の説明もないまま、いた。
・ 宋江がなぜ招安を望むのか、理由が分かりやすかったのはよい。しかし宋江、廬俊義、呉用の三人が招安の話し合いをしている様子は、なんだか愚民どもを「指導する」って感じで、共産党政権とだぶって見えて何やらいやらしい。考えすぎだと思いたいが。
・ 戦争場面がやけにリアル。死体の山、文字通り血の海。仲間が死んでいくところも容赦ない。極めつけは捕虜の斬首シーン。首と胴が離れた死体がずらーっと並ぶ(人形なのはバレバレですが)。テレビドラマでここまでしてくれなくてもと思った。

キャスト
高 俅:修 革(第1話のみ)、
魏宗万/王 進:陳之輝/蘇学士:唐国強/徽 宗:曾宏生/史 進:郭軍/魯智深:臧金生/林 冲:野 茫/林娘子:菁 華/朱 貴:張連仲/王 倫:張顔民/杜 遷:銭衛東/宋 万:胡龍吟/楊 志:翟乃社/雷 横:郭柏松/劉 唐:邰祖輝/晁 蓋:張治中/呉 用:寧小(暁)志/阮小二:劉衛華/阮小五:張衡平/阮小七:李東果/閻婆惜:慕 青/宋 江:李雪健/鄆城知県:黄宗洛/武 松:丁海峰/潘金蓮:王思懿/武 大:宋文華/王 婆:李明啓/西門慶:李 強/孫二娘:梁 麗/張 青:張 昕/玉 蘭:劉艶峰/王 英:許敬義/鄭天寿:劉立偉/花 栄:修 慶/戴 宗:王基明/李 逵:趙小鋭/張 順:張亜坤/楊 雄:陳之輝/石 秀:楊帆(凡)/時 遷:孟耿成/扈三娘:鄭 爽/廬俊義:王衛国/燕 青:王光輝/李師師:何 晴/蔡 京:林連昆/崔 靖:張紀中/方 臘:崔 岱/童 貫:雷恪生 ほか

スタッフ
総顧問:王楓
総監製:楊偉光
総製片人:任大恵
監 製:于広華、陳漢元、劉宜勤、賈文増、胡恩、鄒慶芳
顧 問:李希凡、馮其庸、孟繁樹、田連元、周強
策 劃:任大恵、譚希松、許二春、楊沛徳、肖月桃、李汀、張小毛、楊宝亮、程宏
編 劇:楊争光、冉平
総導演:張紹林
動作導演:袁和平、袁祥仁
総撮像:張紹林
総美術:銭運選
人物造型設計:戴敦邦
作 曲:趙季平
技術監製:肖月桃
総製片主任:張紀中
武術指導:趙箭
劇本策劃:楊争光、冉平、張子良、劉樹生、杜家福、任大恵、張紹林、張紀中

主題歌
作 詞:易茗/作 曲:趙季平
片尾歌:「好漢歌」 演唱:劉歓 /「天時地利人和」 演唱:彭麗媛

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