「宰相劉羅鍋」「鉄歯銅牙紀暁嵐」の悪役にして人気者(だよね?)、王剛演じる和珅がついに堂々主人公となったドラマ。どうせ柳の下のドジョウ的企画だろうと思っていたら、なかなか上質のエンターテイメントに仕上がっていたのはうれしい誤算だった。DVD・VCDのパッケージには「『鉄歯銅牙紀暁嵐』姉妹篇」とあるが、物語に直接の繋がりはない。
皇帝の輿を担ぐ侍衛に過ぎなかった20代半ば(王剛の若作りは苦しい)の和珅は、ふとしたことで乾隆帝(張勇手)に見出されて寵臣となり、瞬く間に出世、約20年にわたって権勢を極め、私腹を肥やし続ける。失脚後に没収された財産は国家収入の10数年分にもなったそうだ。このドラマの面白いところは、そんな和珅が、最初は真面目で清廉だったことだ。それがいかにして道を踏み外し、蓄財に血道を上げるようになってしまったのか。
ドラマの前半、若き日の和珅は、理想に燃え、清官の朱珪(李丁)や鄂桂(魏宗万)を尊敬し、クソ真面目な王傑(馮遠征)を友とし、智恵を武器に腐敗官僚打倒のために働く。このあたりは、和珅がまるで「劉羅鍋」「紀暁嵐」といったタイプのヒーローになったかのようだ。しかし、理想と現実のギャップに突き当たるうち次第に変質していったのか本性を現したのか、ついにある事件を境に坂を転げ落ちるように「堕落」してしまう。そして、よき師、よき友であったはずの朱珪、王傑とも不倶戴天の政敵となってしまうのだ。
それでも、心の隅にそんな自分を嫌悪する感情を隠し、己の所業を妻に知られまいとする和珅。やがて怨嗟の声は世に満ち、妻に去られ、息子に背かれ、権力と財産と引き換えに失ったものの大きさを噛み締めることになる。そして悪事がバレてもそのたびに乾隆帝の寵を頼りに乗り切ってきた和珅も、皇帝の代替わりが近づくとさすがにあせり、将来に備えて手を打ち始めるが。
「鉄歯銅牙紀暁嵐」のスタッフに加え、主演の王剛自身も製作に参加。おなじみの(?)乾隆を挟んでの忠臣と奸臣の知恵比べといったユーモラスな場面もたっぷりで、相変わらずの王剛のほか、ベテラン勢の芸を堪能できる。敵味方、攻撃と防御が目まぐるしく入れ替わり、目が離せない。しかし、自分は清廉でいようとしても周囲がそれを許さない、やがて和珅が失脚しても他の汚職官僚どもが相変わらすしぶとく生き残っているなど、官僚腐敗の問題の根深さを思い知らされるだけのようで、後味は少々苦い。それでもドラマとしては充分に面白く、笑わされ、ハラハラさせられ、時にはホロリとさせられ、後半は何度か泣かされた。劇中音楽もいい。満足。
ただし、アクションだけは余計だ。寧静はともかく、王剛のアクションなんて見たくない。しかも、二人とも吹き替えバレバレなのはともかくとして、アクションシーンの出来は総じてよろしくない。まあ、ご愛嬌と思って大目に見よう。(2007年6月)
あらすじ
乾隆帝の侍衛だった和珅は直隷総督・英廉の孫娘・馮月瑤と出会い愛し合うが、月瑤には皇太后の決めた婚約者がいた。そのため英廉は結婚の条件に、新居の建築、四品以上の官職に就くこと、皇太后から新たな結婚の許しを得ることという三つの難題を出す。護衛総官に抜擢され、封禅の巡行に従った和珅は、山東で朱珪や王杰と協力し、山東巡撫らの不正を暴こうとする。これを手始めに、和珅は乾隆に忠義と働きぶりを認められ、スピード出世していく。やがて条件をクリアしてめでたく月瑤を娶るが、両江総督・恒春らの不正を弾劾しようとした和珅は、自分の知らぬうちに新居の建築に不正が行われていたことを知らされる。それをネタに脅迫され、事件のもみ消しを迫られた時……。
登場人物&キャスト
和 珅:王 剛 | |
青 蓮:寧 静 | |
朱 珪:李 丁 | |
王 傑:馮遠征 | |
乾 隆:張勇手 | |
馮月瑤:茹 萍 | |
李侍堯:辛 明 | |
福長安:張京生 | |
鄂 桂:魏宗万 | |
呉省蘭:王楓栄 | |
長二姑:蓋麗麗 | |
菊 仙:楊 昶 | |
劉 全:顔冠英 | |
永 琰:王光輝 |