夢断紫禁城

全48集/2001年

 「宰相劉羅鍋」「鉄歯銅牙紀暁嵐」の悪役にして人気者(だよね?)、王剛演じる和珅がついに堂々主人公となったドラマ。どうせ柳の下のドジョウ的企画だろうと思っていたら、なかなか上質のエンターテイメントに仕上がっていたのはうれしい誤算だった。DVD・VCDのパッケージには「『鉄歯銅牙紀暁嵐』姉妹篇」とあるが、物語に直接の繋がりはない。
 皇帝の輿を担ぐ侍衛に過ぎなかった20代半ば(王剛の若作りは苦しい)の和珅は、ふとしたことで乾隆帝(張勇手)に見出されて寵臣となり、瞬く間に出世、約20年にわたって権勢を極め、私腹を肥やし続ける。失脚後に没収された財産は国家収入の10数年分にもなったそうだ。このドラマの面白いところは、そんな和珅が、最初は真面目で清廉だったことだ。それがいかにして道を踏み外し、蓄財に血道を上げるようになってしまったのか。
 ドラマの前半、若き日の和珅は、理想に燃え、清官の朱珪(李丁)や鄂桂(魏宗万)を尊敬し、クソ真面目な王傑(馮遠征)を友とし、智恵を武器に腐敗官僚打倒のために働く。このあたりは、和珅がまるで「劉羅鍋」「紀暁嵐」といったタイプのヒーローになったかのようだ。しかし、理想と現実のギャップに突き当たるうち次第に変質していったのか本性を現したのか、ついにある事件を境に坂を転げ落ちるように「堕落」してしまう。そして、よき師、よき友であったはずの朱珪、王傑とも不倶戴天の政敵となってしまうのだ。
 それでも、心の隅にそんな自分を嫌悪する感情を隠し、己の所業を妻に知られまいとする和珅。やがて怨嗟の声は世に満ち、妻に去られ、息子に背かれ、権力と財産と引き換えに失ったものの大きさを噛み締めることになる。そして悪事がバレてもそのたびに乾隆帝の寵を頼りに乗り切ってきた和珅も、皇帝の代替わりが近づくとさすがにあせり、将来に備えて手を打ち始めるが。
 「鉄歯銅牙紀暁嵐」のスタッフに加え、主演の王剛自身も製作に参加。おなじみの(?)乾隆を挟んでの忠臣と奸臣の知恵比べといったユーモラスな場面もたっぷりで、相変わらずの王剛のほか、ベテラン勢の芸を堪能できる。敵味方、攻撃と防御が目まぐるしく入れ替わり、目が離せない。しかし、自分は清廉でいようとしても周囲がそれを許さない、やがて和珅が失脚しても他の汚職官僚どもが相変わらすしぶとく生き残っているなど、官僚腐敗の問題の根深さを思い知らされるだけのようで、後味は少々苦い。それでもドラマとしては充分に面白く、笑わされ、ハラハラさせられ、時にはホロリとさせられ、後半は何度か泣かされた。劇中音楽もいい。満足。
 ただし、アクションだけは余計だ。寧静はともかく、王剛のアクションなんて見たくない。しかも、二人とも吹き替えバレバレなのはともかくとして、アクションシーンの出来は総じてよろしくない。まあ、ご愛嬌と思って大目に見よう。(2007年6月)

あらすじ
 乾隆帝の侍衛だった和珅は直隷総督・英廉の孫娘・馮月瑤と出会い愛し合うが、月瑤には皇太后の決めた婚約者がいた。そのため英廉は結婚の条件に、新居の建築、四品以上の官職に就くこと、皇太后から新たな結婚の許しを得ることという三つの難題を出す。護衛総官に抜擢され、封禅の巡行に従った和珅は、山東で朱珪や王杰と協力し、山東巡撫らの不正を暴こうとする。これを手始めに、和珅は乾隆に忠義と働きぶりを認められ、スピード出世していく。やがて条件をクリアしてめでたく月瑤を娶るが、両江総督・恒春らの不正を弾劾しようとした和珅は、自分の知らぬうちに新居の建築に不正が行われていたことを知らされる。それをネタに脅迫され、事件のもみ消しを迫られた時……。

登場人物&キャスト

和 珅:王 剛
 この人の紹介を書くのもそろそろ面倒になってきた。皇帝の輿の担ぎ手から国政のトップ(皇帝を除く)へ大出世、貧しい清官から財を貪る汚職大臣へと華麗なる変身を遂げる。この人の心の中で、乾隆帝への忠義と財宝への執着のどちらが上かは神のみぞ知る。1750(乾隆15)年?~1799(嘉慶4)年。

青 蓮:寧 静
 ドルゴンの四代目・詹岱の孫娘。祖父の乾隆暗殺計画を阻止しようとしていた時に和珅、王傑らと出会う。後に、乾隆の隠密となる。主役に次いでクレジットされているのはあくまで寧静だからであって、物語的には少々無理のあるお飾りのようなキャラ。それでも寧静はやっぱりきれいでかっこよく、なぜか一人だけ年をとらない。

朱 珪:李 丁
 礼部侍郎、尚書房総師傅(皇子の学問の師らしい)で、清官の代表。忠君、愛民、清廉がモットー。最初は和珅に期待し、ともに協力するが、後に政敵となる。普段のとぼけた味わいと、ここぞという時の苛烈さが印象的。

王 傑:馮遠征
 陝西から泰安の従兄弟を頼ってきて、給仕をしつつ科挙の勉強をしていた時に和珅らと出会う。やがて状元になり出世。最初は和珅の友、後に政敵になり、朱珪とともに打倒・和珅を目指す。頭はよいけど不器用、曲がったことが大嫌いという損な性格。

乾 隆:張勇手
 名君には違いなさそうだし、人情味もあるいいおじさんなのだが。なぜそんなに和珅がお気に入りかっていうと、要するに自分の望みをかなえてくれるからなんだね……。そして、いつから和珅の不正に気づいていたのか?

馮月瑤:茹 萍
 直隷総督・英廉の孫娘。太后の命令でろくでもない男と婚約させられたのが嫌で家出したところを和珅に救われ、愛し合うようになる。和珅に嫁いだ後には、変わってしまった夫に心を痛めることになった。

李侍堯:辛 明
 軍機大臣。戦功赫々たる武将でもある。悪徳官僚の親玉で、その後地方の重要ポストも歴任。人のよさげなとぼけたオヤジに見えるが、実はかなり切れる。和珅などひとひねりのはずがうまくいかず、やがて立場が逆転してからは和珅にへつらう。

福長安:張京生
 皇太后の甥。李侍堯のもと部下で、当然つるんで悪事を行う。李侍堯とともに和珅つぶしに躍起になるが、やがて立場が逆転、和珅のパシリ同然に。

鄂 桂:魏宗万
 軍機大臣のトップで清官、乾隆帝も一目置く存在。馮月瑤の八舅爺(とは正確にはどういう間柄なのか?)だが、初めは和珅を嫌う。

呉省蘭:王楓栄
 和珅の学問の師。いや実にひどい師匠だ。

長二姑:蓋麗麗
 両江総督・恒春の妾だった。恒春兄弟が不正が発覚し刑死した後、その死に関わり財産をも奪った和珅を恨み、仇討ちのため和珅を誘拐する。ところが事態は思わぬ方向に。

菊 仙:楊 昶
 山東巡撫らの不正の巻き添えをくって両親が他界。朱珪の養女となる。

劉 全:顔冠英
 和家の管家(執事)。最初は貧乏な和家のために苦労するが、和珅が出世してからは主人の威を借りてやりたい放題。

永 琰:王光輝
 嘉親王、乾隆の第十五子、後の嘉慶帝。師の朱珪を尊敬している。乾隆帝崩御の暁には和珅を始末する気満々である。


スタッフ
製片人:李蘇
芸術総監:鄭万隆
総監製:王中磊、陳海、劉紅春、周成、厲貴旺
監 製:鄧麗、王仁海、呉孝明、孫毅、倪祖明、范里雁、黄紅祥
総策劃:鄭万隆、王剛
編 劇:劉浩東、王琛、王海洲、張延継、鄭万隆
撮 像:余丁、劉輝
美 術:朱嘉欣
服 装:趙荘霞、趙怡紅
化 粧:王麗平
照 明:雷子
置 景:高阿馬
録 音:虞致
作 曲:陳彤
導 演:張友齢、王中偉
総製片人:王中軍、王剛、李蘇
出品人:朱咏雷、張建国、姚嘉、梁浩泉、管紅艶、李蘇

主題歌
片頭歌「她」  作詞:丁晟/作曲:陳彤/演唱:趙凱
片尾歌「風中的預言」  作詞・作曲:陳彤/演唱:王清堯
     「守候」  作詞:木風/作曲:陳彤/演唱:任真

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