美人心計

全40集/2010年

 「大漢天子」や「漢武大帝」で強烈な存在感を放っていた、平たくいえば恐いおばあちゃんだった竇太后。漢の文帝の皇后であり、景帝の母、武帝の祖母である女性だ。その生涯は、数奇な運命の前半生といい、太后となってからの無法ぶりといい、なかなか伝奇的要素が濃い。このドラマは、そんな竇太后の生涯を若き日を中心にフィクションてんこもりで描く。後宮のドロドロ女の戦い、ハラハラドキドキのスパイもの、怒涛(大げさ)のメロドラマ、アクション少々と何でもあり。
 ヒロイン・杜雲汐(林心如)は身分の低い宮女として宮中に入るが、そこに至るまでに早くもかなりお腹いっぱいな展開が。宮中では呂太后(戴春栄)に聡明さを気に入られ、その肝いりで張皇后(董慧)に仕え、恵帝(羅晋)とも親しくなる。さらにいろいろあって(とても一言では説明できない!)、呂后に代国でのスパイ活動を命じられる。竇漪房と名を変えて代王・劉恒(陳鍵鋒)の側室の一人となった彼女は、幸か不幸か劉恒と愛し愛されて、おかげで呂后との板ばさみになってしまう。何しろ妹同然の慎児(王麗坤)を呂后に人質に取られているのだ。代国では皆から悪女扱いされたり、スパイであることがバレそうになったり、次から次へと危機に見舞われるが、ひとつひとつ乗りきりつつ、劉恒の天下取りに力を貸し、やがて皇后として長安の宮廷に戻ってくる。しかし、彼女の過去を知り姉妹同然だったはずの慎児が、最大の敵となってしまい……。まだまだ波乱万丈の物語は続くのだが、私の中の竇太后のイメージが、漢初の皇帝数代の時代を生き抜き、孫と権力争いをやらかした逞しい女から、苦労を重ねて栄光を手にしたものの愛する夫を失い、息子に先立たれた哀しい女になってしまったではないか。
 ドラマの面白さの最大の理由は、後宮ドロドロ女の争いものに、スパイものという新機軸(かな?)が加わったことだろう。スリリングな展開と騙し騙されの心理戦は文句なく楽しめる。もうヒロインすら信じられなくなったよ! この前半部分がやはり抜群に面白い。もう一つストーリーの中心になるのが、竇漪房と劉恒、××と××、××と××(誰と誰かは見てのお楽しみだ)などのさまざまなラブストーリー。さらに物語が進むにつれて、恵帝、代王=文帝、景帝、武帝と一代ごとにそっくり繰り返される女の争い、そして呂后と恵帝、薄后と文帝、竇后と景帝と同じく繰り返される母と子の葛藤が重なりあい、帝王家の権力争いはつまり壮大なホームドラマなのだなあと思わされつつ、最後まで引き込まれる。これが基本はちゃんと歴史に則っているところが(あくまで基本だけね)すごい。やっぱり歴史は面白い!! そしてドラマ全体を通して、偶然が重なる強引な展開、テンポよくかつベタな演出、美男美女の競演、目に楽しい華やかな衣装、年がら年中目に痛いほど咲き乱れる花々と花吹雪……ここまで徹底してくれればもう言うことはない。いや、私好みの渋い演技派おじさん俳優がいなかったのだけは残念だ。時代考証なんてヤボなことは言わない。つっこみどころも満載で、楽しみはさらに増えるというもの。いやもう実に面白く楽しいドラマであった。今後、漢初の歴史について見ても読んでも、このドラマを思い出して笑っちゃうこと間違いなし。
 蛇足ながら、ヤボと思いつつどうしてもつっこまずにいられない箇所。一、明らかに小学生女児な張皇后に「世継ぎを産め」と強要する呂后。鬼すぎる。二、もしかしてあれが呉楚七国の乱だったのか。三、お茶を飲むシーンがやたらとあって、それ自体をとやかく言うつもりはないが、酒は爵で飲んでいるのに、茶器は現代風だ。
 最近は後宮の女の戦いドラマがいくつかヒットしており、この手のドラマが最近ちょっと流行っているようだ。ちなみに現在、本作の姉妹編「美人天下」を製作中。今度は唐の時代、武則天のお話らしい。(2010年12月)

あらすじ
 漢の高祖の時代。呂皇后と薄姫の争いに巻き込まれた劉恒(薄姫の子)の乳母・田香憐は、幼い娘・杜雲汐を連れて宮中から逃げ出す。逃亡中に助けられた聶家で、雲汐は同じ年頃の少女・慎児と仲良くなる。しかし呂后の追手によって田香憐も聶夫婦も命を落とす。雲汐は慎児とともに母の兄・田大業を頼るが、田の妻・沈碧君は二人をやっかい者扱いし、夫に迫って慎児を捨てさせる。雲汐はおばにこき使われて育ち、妓楼のおかみに拾われた慎児は、売れっ子の妓女になっていた。……(びっくり展開を省略)……偶然再会した二人は再び姉妹同然の仲となり、新しく即位した恵帝の後宮に揃って入る。皇帝の寵を得ようとやっきになる慎児や他の女たちと違い、雲汐は平穏無事に生きたいと願うのだが、思いがけず呂太后に見出され、張皇后に仕えることになる。そして張皇后に姉のように慕われ、恵帝の好意を得る。……(再び省略)……呂太后は雲汐に、竇漪房と名を変え、帝位を窺う虞のある代王・劉恒の元でスパイ活動をするよう命じる。竇漪房には、やはり呂太后のスパイ・雪鳶が付き従うことになる。代王に他の女たちとともに贈られ側室の一人となった竇漪房は、綱渡りのスパイ生活に加えて、否応なく代王をめぐる女の争いに巻き込まれてしまう。……

キャスト&人物紹介
竇漪房(杜雲汐):林心如(ルビー・リン)/林妙可(子役)
  立派で良い人すぎるようだが、やる時はやります。ルビーは冒頭、母親役も演じている。以下、ネタばれしたくないので詳しく紹介しない。

莫雪鳶:楊  幂
  アクションもOKな呂后のスパイ。後に、代国へ赴く竇漪房のおつきの侍女となり、ともに協力する。

聶慎児:王麗坤/蒋依依(子役)
  竇漪房と少女時代に出会い、妹同然の仲となる。淡白な竇漪房と対照的に栄耀栄華を目指す。

周亜夫:何晟銘
  代王・劉恒に仕える武人。このドラマで一番わけの分からなかった人。史実では周勃の息子だが、本作では赤の他人。

劉  恒:陳鍵鋒(サミュエル・チャン)
  高祖と薄姫の息子。代王、後の文帝。皇帝としての質以外は、恵帝と似たもの兄弟だと思う。竇漪房と乳姉弟であることは、視聴者のみが知る。

呂  雉:戴春栄
  歴史上に悪名高い呂后。恵帝の母。あえて言う、ドラマ前半の花はこの人。

薄  姫:白  珊
  劉恒の母。竇漪房のお姑さん。打倒・呂后に燃える女。

劉  盈:羅  晋
  前漢の第2代皇帝、恵帝。母の呂后に押さえつけられ、いやいや皇帝をやっている。この人には驚愕の展開が!

張  嫣:董  慧(子役)/蘇  青
  高祖と呂后の娘・魯元公主(呂佳蓉)の娘(実の娘ではない)。幼くして恵帝の皇后となる。杜雲汐を姉のように慕う。

呂  禄:杜俊澤
  呂后の甥。はっきり言ってダメ男。

呂  魚:胡杏児(マイオリー・ウー)
  呂禄の腹違いの妹。父の死後、母ともども屋敷を追い出され、魚を売って生計を立てていた。

劉  章:馮紹峰
  高祖の長子・劉肥の息子。劉恒にとっては甥。呂氏の専横を腹に据えかね、打倒・呂氏に動く。

莫  離:李  莎
  呂后に忠誠を尽くす傍仕えの宮女。雪鳶のおば。

沈碧君:張  彤
  竇漪房のおじ・田大業(李耀敬)の性格の悪い妻。忘れた頃に登場しては、人に迷惑をかける。

劉  啓:高  昊/馬睿灝(子役)
  劉恒と竇漪房の息子。後の景帝。いろいろあって「僕はママに愛されていないんだ」と思い込む。

薄巧慧:高  洋
  薄太后の一族の娘。劉啓の正妻となるが夫に顧みられない。「新版・紅楼夢」の妙玉。

栗妙人:鄧  莎
  劉啓の妃。いわゆる栗姫。かわいい顔して、期待通りのトンデモ女であったよ。「黛玉伝」の薛宝釵。

館陶公主:戚  薇/張雪迎(子役)
  劉恒と竇漪房の娘、劉啓の姉。両親に似ないアホ娘。

王  娡:王麗坤/蒋依依(子役)
  慎児が呂禄との間にもうけた娘。慎児と一人二役。

青  寧:孫菲菲
  以下、友情出演の人々。代王の最初の妻。実は呂后のスパイ。

李美人:陳怡蓉(タミー・チェン)
  恵帝に愛されるが、呂后に殺される。

劉少康:厳  寛
  あんなド派手な登場の仕方をしたのに……。驚愕。

聶  風:黄海冰
  慎児の父。オープニングにも顔を出しているが出番は一瞬。

子  冉:周牧茵
  周亜夫の妹。青寧の死後、代王の后となる。

墨  玉:何  苗/錦  瑟:田子田
  竇漪房とともに呂后から代王に贈られた五人の宮女のうち二人。

金王孫:林文龍
  王娡の夫。

劉  武:張暁晨
  史実と違って慎夫人が産んだ文帝の息子。梁王。

劉  徹:茅子俊
  武帝。景帝の息子、竇漪房の孫。

陳阿嬌:貢  米/林星辰(子役)
  館陶公主の娘。武帝の皇后になる。

衛子夫:張  檬
  ラスト1分の登場!

スタッフ
出品人:莫人、管智堅、曹哲、高元凱、于正
編  劇:于正
総監製:韓国強、涂布
監  製:徐龍河、詹娜
執行監製:林国華
総策劃:祝麗華、曽志
策  劃:謝学、張翔、穆小勇、鄒越
造型設計:鍾佳妮
化粧設計:曽明輝
梳粧設計:安琦
美  術:李顕昌
音楽製作:李戈
芸人総監:鄧細斌
動作始動:朱少傑
導  演:呉良成
総発行人:曹哲
製片人/芸術総監:于正

主題歌
主題曲「落花」  作詞:于正/作曲:毛慧/演唱:林心如
片尾曲「椒房殿」  作詞:于正/作曲:胡力/演唱:何晟銘
挿  曲「絶唱」  作曲:李戈/演唱:李美麗(成人)、魯雯青(童声)

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