呂布与貂蝉

全35集/2002年

 見るからに文系な黄磊を呂布役に据えたところに、「今までにない呂布像を作る」という気合を感じ、おおいに期待していたのだが。「三国志」ものを期待すると「何じゃこりゃ」、ファンタジーだと思えばまあ腹も立たない。
 総監督は陳凱歌。どこまで関わったのかは知らないが、意外に陳凱歌色が強い。やたらと理屈っぽく説明的な割には何が言いたいのか判りにくいところとか、うれしそうに(不必要な)CGを使いまくっているところとか、今見るといかにも「『PROMISE』の監督」の作品である。
 物語は、ごく大雑把に言ってしまえば、呂布と貂蝉のすれ違いドラマのような。テーマはたぶん「愛」。たぶん、というのは、ドラマの内容が私には理解不能だからだ。とにかく登場人物たちの言動はすべて監督の(わけのわからん)理屈にしたがっているので、納得も共感もできない。陳凱歌のことだからいちいち意味を持たせているのだろうし、それが分かりすぎるくらい分かる場面もあるのだが。
 しかし、それを演じているのが名優揃いなので、場面ごとには思わず引き込まれる。呂布役の黄磊は、極端に台詞の少ない特異な役をほとんど表情だけで演じきり、お見事。やっぱりこの人は演技がうまい。他に徳力格爾(董卓)、今は亡き傅彪(王允)、尤勇、娟子、孫飛虎、李小璐など。天下を狙っているのか陰で何やら企むあやしい妖術使い(?)の耿楽は、ケレン味たっぷりで笑える。
 ただし、このドラマ最大の弱点は、貂蝉を演じる陳紅だ。いくら美しくても18歳の役にはトウが立っている、というのをあえて無視するにしても、だ。彼女は「三国演義」でも貂蝉を演じていたが、10年近くたってまた演じるとはすごい。演技がたいしてうまくなっていないのもすごい。脚本にも問題があると思うが、キャラに説得力がない。まあこの人の演技に説得力を感じたことなどないけれど。貂蝉にもっと存在感と魅力があれば、ドラマ全体の印象も変わっていたと思う。ああ、こんなにも美しいのに。残念だ。
 中国色を感じさせない衣装デザインは「韓国漫画『蒼天航路』」を基にしているらしいが、「蒼天航路」をいまだに読んでいない私は未確認。コミックかTVゲームみたいだなあと思いながら見ていた。
 テーマ曲として使われていたのは、テレサ・テンやフェイ・ウォンが歌った「但願人長久」。もちろんメロディーだけだが、これにも違和感が……。
 まあ、美しいシーンも数多く、CGなしのアクションシーンはかっこいいので、余計なことを考えなければ、それなりに楽しめるドラマかもしれない。私は楽しめなかったが。(2006年9月)

※中国では、各地でいったん放送されたものの途中で放送禁止に。修正の結果、「蝶舞天涯」と改題し、登場人物の名も呂布→天涯、貂蝉→蝶舞などと変更、「三国志」と関係ない話に仕立て直して放送されたらしい。仕方ない気もするが、ちょっと哀れ。

あらすじ
 野生児・呂布と張角の生まれ変わりの娘・貂蝉は、貂蝉が生まれる時から不思議な絆で結ばれていた。呂布は友となった侯成とともに成長し、貂蝉は実父の元で修業に明け暮れる。長じて再会した二人は生涯をともにすることを誓うが、呂布は侯成の父親に売り飛ばされ、格闘場へ。やがて呂布が死んだと誤解した貂蝉は、心の弟子になる。一方、侯成と呂布は丁原の義理の息子となるが……。

登場人物&キャスト

呂 布:黄 磊
 森の中でケモノに育てられていたらしい。そのせいか、人間離れした身体能力を持ち、本能と直感だけで生きている。よく言えばピュアな心の持ち主。大人になっても言葉は片言しか話せない。貂蝉と一緒にいることだけが唯一の願望。

小呂布:釈小龍
 呂布の少年時代を演じているのは、カンフー小僧の釈小龍くん。こんな演技もできるんだとびっくりした。しかも妙に色っぽい。

貂 蝉:陳 紅
 死んだ張角が馬元義の妻の腹の胎児に乗り移って産まれた娘。幼い頃から太平妖術もとい太平要術を仕込まれるが、せっかくの力もろくなことに使っていない。こちらも呂布と一緒にいることが最大の願望らしいが、そのためにしたのは二人の手を鎖で繋ぐこと!

心:耿 楽
 墨家の鉅子(リーダー)。墨家って妖術使いだったのか?! 張角との妖術合戦に始まり、言動があやしいことこの上ない。いろいろ陰で動いているのは、天下を狙っているらしい。しかし得意の妖術で董卓の首をチョン切れば早かろうに、呂布に殺させなければならない理由(何やら理屈はこねていた)が分からん。

董 卓:徳力格爾
 後漢の秩序を破壊した怪物。呂布とは別の意味で野性のカンが冴えまくるすごいヤツ。呂布を気に入ってストーカーした挙句に部下兼義子にする。

牛 輔:李 任
 弓の名人。幼い頃から董卓に仕え、赤ん坊だった董媛のお守りもしていた。董媛に片思い。呂布をライバル視している。

董 媛:袁 泉
 董卓の一人娘。もちろんアクションは得意、性格もさすがは董卓の娘。時々発作が起きて血を飲むと治まるという奇病を抱えていた。

侯 成:曹 俊
 呂布の初めての友。子供ながらホネのある奴と思っていたのに、大人になったらただのへタレ君だった。「三国志」では最後に呂布を裏切った部下なので、幼い頃から友情で結ばれた二人にいったい何が起こるのか! と、かなり期待した。まあその通りにはなったが、ヘタレ君では期待はずれの展開。

馬元義:王建新
 貂蝉の実父。張角の弟子で、張角の生まれ変わりである貂蝉がいずれ天下泰平をもたらす存在になると信じる。そのため父娘であることを隠したまま、厳しい修行を課す。

張 力:尤 勇
 呂布が連れてこられた格闘場で最強の格闘士。呂布の力を見抜き、教え導く。実は張角の親戚で、黄巾の残党だった。

暁 顔:娟 子
 格闘場の主人で、丁原の妻の妹。陳宮の継母。実は、かつて心の弟子だった。今は張力を愛しているらしい。

陳 宮:謝沅江
 格闘場の先代の主人の息子。体が弱くて病気がちだったが、暁顔のおかげで、なぜだか分からないが心に病を治してもらう。後にどういうつてを頼ったのか県令になり、逃亡中の曹操と出会う。呂布には好感を抱いている。

李 粛:王 昭
 格闘場の会計係の息子。格闘場がなくなった後、ひょんなことから董卓の家来になる。呂布を快く思っていない。

張 遼:趙 毅
 格闘士。自分が一番強くないと気がすまず、ヒステリックに呂布に戦いを挑み続けるが、やがて友情を感じてしまったらしい。呂布の死の場面に再登場するものと信じていたのに、心にやられて途中退場したまま(生死は不明)。三国志ファンをなめるな。

耳 朶:李小璐
 心の弟子。実は心と暁顔の娘。こんなに可愛いのに出番が少なくてがっかり。

丁 原:孫飛虎
 并州刺史。格闘場に観戦に来ては、格闘士をスカウトしていたらしい。当然、呂布もチェック。後に侯成とともに義子とした。兜を脱いだらハゲ。

王 允:傅 彪
 司徒。董卓を殺害するため、心のいわゆる「連環の計」に協力するが、貂蝉をしばらく手元に置くうちに愛してしまう。

曹操 その1:邵 峰
 いかにも腹に一物ありそうな人物。白眉は、王允のアシスタントとして董卓のために人肉を料理するシーンだ。いや、さすが中国。日本人には思いつかないエピソードだ。それにしても、途中で俳優が交代してしまったのは何故だ。最後まで邵峰の曹操が見たかった!

曹操 その2:聶 遠
 俳優交代とともにキャラも変わってしまった……。邵峰だったらどう演じていただろうと考えながら見てしまった。ごめんよ聶遠。でも正統派二枚目にしか見えなくて、物足りなかったのだ。

劉 備:保剣峰(右)/関 羽:楊 凡(中央)/張 飛:寇占文(左)
 シリアスなドラマのそこここに笑いを添える漫才トリオ。劉備のボケに対する関羽のツッコミはなかなか。それでも時には、特に関羽は何度も、ビシっと決めてくれる。

袁 紹:周浩東
 いかにも袁紹という感じ。

袁 術:徐 震
 袁紹と好一対という感じ。

華 佗:梁 超
 医者。治療が楽しくて仕方ないらしく、難しい外科手術が必要な患者に当たると大喜び。全身複雑骨折で瀕死の呂布を救い、董媛の心臓手術をし、関羽の腕が毒矢にやられると骨を削って治療する。実は、かつて心の弟弟子だった。


スタッフ
出品人:陳凱歌、范小天、宋霖
総製片人:陳紅、范小天、徐耿
総監製:章剣華、湯達祥、李秋実、唐源涛、姚嘉、李新民、范万釣
総策劃:万克、張光華、周紹成、鄒暁利、李乃光
総顧問:王潞明、段永延、賈同煥、黄著誠、曹曄明
総編輯:王仁海、劉強、高桂琴、劉寧
執行監製:李天澤
監 製:張翼、劉郡、安亜中、王志奇
策 劃:黄承聯、徐奔奔、湯軍慶、羊継紅・闞靖、徐震
責任編劇:金克銓、安琪、解偉、陳小紅
劇本策劃:劉小兵、蛍俊、凌紅、張馳、王珂
製片主任:顧永逞、胡之強
電脳特技総監:李煉、白小俊
美 術:婁中国
服装設計:韓流(どういう意味だろう……?)
髪型設計:郭捕
武術指導:李厚才
故 事:天空創作、顧蛮
編 輯:天空創作、李輝、汪海林、閭剛
導 演:李凱基、楊文軍、龍光浩
文学総監:范小天
芸術総監・総導演:陳凱歌

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