「柳三変」って、もしや柳永のこと? まさか柳永が侠客にでもなって、詞を詠じつつチャンバラするのだろうか。……ハハハ、まさかね。でも、そうだとしたら見たいかも。いや、こわいかも。
と、タイトルを見ただけで煩悶してしまったが、物語は想像以上にぶっ飛んでいた。柳三変はなんと南唐の後主・李煜の孫だという。詞はもちろん、武芸の腕も一流。やがてお国の再興を目指す戦いに、心ならずも巻き込まれていくのであった。
実在の柳三変こと柳永(987?~1055?)は、北宋の詞人。若い頃は放蕩に身を持ち崩したが、その平易な詞は庶民に広く親しまれた。晩年にようやく進士に及第したが、地方を転々とし、落ちぶれたまま世を去った。李煜(937~978。在位901~975)は、五代十国の一つ・南唐の最後の君主。詞人として名高い。国が北宋に滅ぼされると開封に連行され、幽閉されたまま世を去った。太宗に毒殺されたともいう。
ともに男女の情愛を描く艶っぽい詞を多く作ったこと、晩年に人生の転変を経て、憂愁に満ちた凄美な作品を残したこと、詞史に重要な地位を占めていることなど共通点がある。ドラマが二人を結びつけたのも伊達ではなかったかもしれない。
劇中では、柳永の詞がいくつも詠じられ、メロディーに乗せて歌われる(音楽は張亜東!)。ちなみにヒロイン勢のうち、虫虫(何美鈿)、楚楚(胡可)、秀香(曹雪)は、実際に柳永の詞に出てくる妓女の名だそうだ。とはいえ、女性にモテモテなこと、科挙に落ちたことなど柳永らしいところも残してはいるが、ドラマと実在の柳永とは全く関係ない!
ドラマはアクションあり、悲恋あり、コメディありのかなりお気軽なエンターテイメント。後半は悲劇的色彩が強まって、ちょっと暗めに。セットや衣装は立派。ただし、滑り出しは好調だったのに、柳三変が自分の出自を知る場面がずいぶんお手軽で、せっかく楽しく見ていたのにがっかりさせられた。このあたりから粗が目立つようになり、どんどん物語が破綻していく。最後まで解決しないままの謎もあったりして。台詞にもミスが多い。ネタバレになるが、柳三変の出生について最後にどんでん返しがあり、「そうか、詞の才能は祖父ゆずりというわけだな」と納得していたのに、あんまりだ~。
柳三変を演じるのは林志穎(ジミー・リン)。「天龍八部」の直後の作品だ。白衣のスタイルといい、段誉役の成功に乗じて、彼のために企画されたドラマに違いない。江南でお国の再興を目指すとは、慕容復も入っているような(南唐は江南にあったから無理は少ないか)。とにかく、ジミーがひたすらかっこよく、かつ可愛らしく、おいしい場面を演じ続ける。詞を詠じる表情がぎこちないような気もするけど、言動がフラフラして頼りない、を通り越してなんだか支離滅裂だけど、憂い顔はあまり似合わない気もするけれど、全部許す、だってジミーなんだもの。と、別にファンでもない私をこんな気にさせるとは、ジミー恐るべし。(2006年10月)
※TVで見た時は全33集だったが、VCDでは変なところで回を区切って全41集になっていた。
あらすじ
ある夜、宮中から南唐の後主が宋の太宗に献じた太阿剣が盗まれる。犯人は新昌の大仏寺の僧。実は南唐の旧臣で、寺ぐるみで南唐再興を狙っていた。柳三変は、何も知らずに大仏寺で武芸の修業中。ある日、銭塘の街へ出た柳三変は、名妓の楚楚と出会い恋に落ちる。一方、虫虫とも出会い、片思いされるようになる。お忍びで太阿剣を捜索する六皇子は反宋の陰謀に気づく。皇帝の弟・九賢王も南唐の残党の排除のため、また対立する六皇子をつぶすため暗躍する。やがて柳三変は上京して科挙を受験するが、父の柳宜が南唐の旧臣であるため、落第。やがて自分が柳宜の息子ではなく、南唐の後主の孫だと知らされ、盟主に祭り上げられてしまう。太阿剣が柳三変の手にあると知った九賢王と六皇子は、剣に隠された南唐の財宝を狙って柳三変をマークする。……
登場人物&キャスト
柳三変:林志穎(ジミー・リン) | |
虫 虫:何美鈿 | |
六皇子(太子):李宗翰 | |
楚 楚:胡 可 | |
九賢王:午 馬(ウー・マ) | |
野利旺娜:陳怡蓉(タミー・チェン) | |
潘媽媽:王 茜 | |
杜 寛:葉 鵬 | |
豆 豆:石 琳 | |
柳 宜:管寿義 | |
慧 通(右):魯継先/慧 能(左):杜玉明 | |
王半仙(左):姚潤昊/怪婆婆(右):金 子 | |
呉一刀:何金霊 | |
郭春海:郭宏杰 | |
秀 香:曹 雪 |