劉伯温

全20集/2000年

 明の太祖・朱元璋を補佐した劉基、字は伯温は、中国では博学多才、上は天文、下は地理を知り、易に通じ、未来を見通す伝説的な軍師であり、予言者でもあるらしい。そんなあやしいキャラと物語を期待しないでもなかったのだが、本作は朱元璋に請われて参謀となるあたりから死までをオーソドックスに描く。
 南京を手に入れた朱元璋(高強)は、劉基(鮑国安)を参謀に迎えようと、部下を二度派遣してともに断られ、三度目には自ら赴く。すると劉基は「昼寝中」。朱元璋は劉基のテストに合格し、劉基は出仕を決意する。劉基は朱元璋に「先生」と呼ばれ、他の部下たちとは別格の扱い。献策はいちいち的を得て、やがて、陳友諒との天下分け目の鄱陽湖の戦いでは火攻めを献策……。ああ、どうしても「三国志」を思い出してしまう。明建国後も鞠躬尽瘁、しかも地位に恋々とせず。要するに、劉伯温は魔術師でも何でもない普通の人間です、でもとても頭がよくて立派な人だったんですよ、と紹介するためのドラマだった。
 劉基が出仕をためらったのは、早くから朱元璋に仕える淮西出身の文人たちと、劉基ら江南文人の派閥争いを見越してのことだった。もちろん劉基に欲などなく、争いを避けようとするのだが、度量の小さい李善長(李明臣)をリーダーとする淮西派が劉基を追い落とそうと躍起になる。それにしても、この李善長や胡惟庸(魯勇)や楊憲(徐偉如)といった連中、一応建国の功臣ばかりなのに、いくらなんでもこんなケチな小人だったのか。朱元璋に粛清されても文句の言えない人物ばかりだったということか。とはいえ、三人ともけっこうキャラが立っているので、嫌いじゃない。ついでに李善長の息子ら苦労知らずの二世たちが、お父さんたちとは似ても似つかぬおバカちゃん揃いで、立場を利用して悪いことをしているのが判で押したようにそっくりなのも笑える。
 朱元璋は常に貧時を忘れず、天下の民の暮らしを憂う名皇帝。即位しても「朕」と自称するのをあくまで拒み、贅沢は敵、龍袍の下にはツギの当たった服を着る。宮殿内に畑を作り、子供たちに農作業をさせる。猜疑心の強さも仄見えはするが、粛清の本番はこれから、本作ではひたすら立派な人物として描かれる。演じる高強は、肖像画になかなか似ている。もちろんブサイクなほうの。
 決して名作というわけではなく、面白い!というわけでもない。スケールも小さい。「まあまあ」としか言いようがない作品だが、素直で奇を衒ったところがないせいか、気持ちよく鑑賞できた。浙江省南部の劉基故里とその近辺でロケしたらしい緑したたる山水や田園風景が目に快い。(2009年7月)

あらすじ
   応天府(南京)を陥落させた朱元璋は、自ら皇帝となることを意識し始める。そのため張良のような人物を参謀に迎えたいと考えていると、馬夫人が劉基を推薦する。そのころ劉基は、張士誠を暗殺しようとして逃亡中の張聞鶯、柳鶯という姉妹を救う。妹を張士誠の追手に連れ去られ途方にくれた聞鶯に、劉基は朱元璋に仕える友人の宋濂を頼るように勧める。ところが朱元璋が江南の文人を重んじるのに不満を抱く李善長と胡惟庸は、劉基の名を出して宋濂を訪ねてきた聞鶯に対し、宋濂は前線に行って不在だとウソをつく。聞鶯が大回りをしている間に、三顧の礼で朱元璋に迎えられた劉基が応天府にやって来る。やがて応天府に戻ってきた聞鶯は劉基に身を寄せ、劉基を助けるようになる。劉基は朱元璋に次々に的確な助言をし、その覇業を助けていく。

登場人物&キャスト
劉伯温(劉基):鮑国安
 浙江省温州文成県南田(本作で、南田が滁州にあるというのがよく分からないのだが?)の人。元末の科挙で進士となり役人となったが、退官して故郷に隠棲していた時、朱元璋に招かれる。天下統一を助け、王朝の基礎を築くのに貢献した。1311年~1375年。本作では、黒白にきれいに分かれたあごひげがチャームポイント。

朱元璋:高  強
 明の初代皇帝。現・安徽省鳳陽県の貧農の出で、もと乞食坊主だった。紅巾の乱に参加して頭角を現し、勢力を拡大。本作は1356年の応天府(南京)占領から始まるが、まだ坊主頭。やがて敵対勢力を排除して即位、元号を洪武、国号を明とした。本作では自分が貧乏で苦労した経験から、常に民を第一に考える立派な人。1328年~1398年(在位1368年~1398年)。

張聞鶯:天  鴿
 張士誠に両親を殺され、仇討ちを目論んでいた。武術の腕はなかなかで、その後も張士誠の元にいる妹を救おうと何度も蘇州へ潜入。劉基に救われて以来、彼に思いを寄せ、のちに皇帝夫婦の仲人で妾になる。

李善長:李明臣
 早くから朱元璋に仕える長老的存在。劉基が現れるまでは軍師として絶対的な地位にあり、劉基を追い落とそうとする。明建国後は左丞相となるが、出来の悪い息子の不行跡の巻き添えをくって失脚。1314年~1390年。

胡惟庸:魯  勇
  現・安徽省定遠の出身。李善長の推薦で朱元璋に仕え、常に李善長とくっついている。李の失脚後は実質的な宰相となる。劉基の死は胡惟庸による毒殺。?年~1380年。

楊  憲:徐偉如
 淮西派のようだが、事件を仕立て上げて次々に権力者を蹴落とそうとするコウモリ野郎。「小人」と顔にはっきり書いてあるようなキャラ。

馬夫人:金順子
 朱元璋の糟糠の妻。夫の即位後は皇后となる。賢妻ぶりが清々しい。?年~1382年。

柳  鶯:毛玲萍
 張聞鶯の妹。気がやさしくて流されやすいタイプらしく、張士誠に口説かれて「本当はいい人なの」。ついには本気で愛してしまうし。姉妹揃って男の趣味が……。

張士誠:于東江
 蘇州を拠点とする群雄の一人。すっかり奢侈に溺れ、朱元璋や陳友諒と覇を競う気概はなくなっているようだ。朱元璋によって滅ぼされる。1321年~1367年。

二楞子:李  楠/武  生:?
 劉基の下僕。二人とも見かけによらず腕が立ち、劉基の手足となって駆け回る。二楞子役の李楠は「紅楼夢」の茗烟、「康煕王朝」の康煕帝(少年時代)。

陳友諒:張  浩
 湖北、江南を勢力範囲とする、朱元璋を苦しめる最大の敵。やがて自ら帝位につくが、鄱陽湖の戦いで敗死。この俳優さん、顔だけなら朱元璋を演じてもよさそうだが。1320年~1363年。

邵  栄:陳継明
 朱元璋に早くから従う将軍。処遇に不満で反乱を計画。

廖永忠:張百俊
 同上。建国後に功績に奢ってやりたい放題。小明王・韓林児を江に落として殺害したのは、本作では劉基の差し金。

宋  濂:江中石
 劉基の友人。浙東四先生(劉基もその一人)として名声があり、朱元璋に招かれる。朱元璋の子供たちに講義をし、明建国後は正式に皇太子の教師となる。1310年~1381年。

徐  達:楊増元
 朱元璋と同郷。戦功華々しいだけでなく頭もよさそうだが、本作ではほとんど活躍の場はない。1332年~1385年。

スタッフ
総監製:楊偉光、薛振安、程蔚東
総策劃:高育廰、徐天生、胡方松
監  製:江海濱、謝浩
策  劃:徐世征、陳康漢、陳建明、殷為林、鄭賢望、劉丐算
出品人:林毓、湯一釣
製片人:朱国志、胡賓
統  籌:王明燦、池凌雲
責任編輯:湯一釣
編  劇:徐天生、顧笑言、朱建新
撮  影:尚勇、程源海
録  音:顧長寧
作  曲:雷蕾
剪  輯:陳亜中
芸術指導:張子恩
導  演:朱建新

主題歌
片頭歌「江山万年」 作詞:易茗/作曲:雷蕾/演唱:于魁智
片尾歌「心中日月長」 作詞:顧笑言、徐天生/作曲:雷蕾/演唱:李殊

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