江山風雨情

全45集(※)/2005年

 明王朝の滅亡を描く重量級大河ドラマ。何しろチョイ役のゲスト出演を含めると、「皇帝」役者が5人もいる。彼らを含むベテラン演技巧者たちが演じるさまざまな人物像が印象深い。
 舞台は天啓末年(1627年)から1644年の明滅亡までの17年間。崇禎帝(李強)は、即位時は明を再興しようと意欲に燃えるが、急激に悪化する事態を前に情緒不安定になっていく。まだ若いのに心労のあまりすっかり老け込んでしまい、言動が常軌を逸してくるあたり、鬼気迫るものがあった。王承恩(王剛)は崇禎のため心を砕きながらも、私腹を肥やし、邪魔者を消し、政治を影で操る。一方、国勢を正しく見通す慧眼を持ち、清との講和の策を練るなど、底知れぬ奥行きを感じさせる。洪承畴(鮑国安)はオドオドした小心者を装いながら、実は自負心が強く、いざとなると赫赫たる武勲を挙げる。一方、保身のため目的のためには汚い手も平気で使う。呉三桂(丁海峰)は冷酷さと朴訥さを併せ持つ生粋の武人。良心と命令の板ばさみになりながら、次第に野心に目覚めていく。
 崇禎は国力を挽回しようとして果たせず滅びた悲劇の皇帝なのか、自らの失策で国を滅ぼした暗君なのか。王承恩は魏忠賢の再来なのか、崇禎のため明王朝の命運を挽回しようと心を砕く忠臣なのか。洪承畴は明哲保身の傑物なのか、陰険な変節漢だったのか。呉三桂は時代の波に乗った野心家なのか、女のために判断を誤った愚か者だったのか。こういった複雑な人物造型と俳優の演技が第一の見ものだ。崇禎と比較にならない立派な皇帝・ホンタイジ(唐国強)の貫禄とスケールの大きさに、明と清の活力の差を否応なく感じさせられる。
 天啓帝=陳道明、魏忠賢=李丁というキャスティングに、前半しばらくは天啓期の物語があるものと思っていが、すぐ退場だったのはちょっと残念だった。特に、この魏忠賢はもっと見たかった。数少ない女性陣は、陳円円(張瀾瀾)、周皇后(李建群)、荘妃(牛莉)がそれぞれ鮮烈な印象を残す。
 意図的なのかどうか、今どき珍しい屋内の宮殿セットは、時代の閉塞感を視覚的に印象付けるようだ。皇帝の執務室へは階段を下りる設計で、この低くて暗い部屋がまるでどん底に落ちた明の象徴のよう。夜間の場面が多く、全体的に画面が薄暗い印象。これでもかと沈鬱なムードが演出される。とにかく、明はもう腐っている。滅びて当然だ。と言いつつ、力むばかりで実力の伴わない皇帝、私腹を肥やし保身に汲々とする重臣たち、人材不足に財源不足と、過去の物語とは思えないリアルさがちょっとコワイ。現代中国は、そして日本の政治は大丈夫?
 屋内シーンばかりでなく、戦闘シーンも迫力がある。特にホンタイジと呉三桂の一騎討ち、呉三桂が李自成を破った一片石の戦い。呉三桂といえば、李自成の即位式に出席しようとしていたのに、なぜ急に清に帰順することに決めたのか、描写がすっぽり抜けているのにはうなった。視聴者の想像に委ねられるのは好もしいような、何も知らずに見るとハードルが高いような。中国人はみな知っているからこれでよいのだろう。
 ところどころ教科書チックなナレーションが入るが、そうか、李自成は農民起義のヒーローで、反乱軍は義軍だったか、と中国の歴史観をあらためて認識。史実一辺倒ではなく、かなり自由に脚色しているが、なかなか勉強にもなるドラマだった。そして何より、非常の時代に生きた人々の生き様や悲劇におおいに心を揺さぶられた。(2007年1月)
※オリジナルはたぶん全40集。VCDでは全45集だが、回の区切り目ヘンだ。

あらすじ
 天啓帝の弟である信王・朱由検は、魏忠賢に狙われ身の危険を感じていたが、天啓崩御の混乱を腹心の宦官・王承恩のおかげで乗り切り、即位する。しかし明王朝は、外は清の攻撃、内は農民反乱に苦しめられ、末期症状を呈していた。やがて清からの北方の守りに袁崇煥を抜擢するが、袁崇煥と王承恩は清との講和が必要との認識で一致する。しかし崇禎帝は聞く耳を持たず、一方で軍事費さえまともに用意できない。……

登場人物&キャスト

崇 禎:李 強
 明朝最後の皇帝。真面目で勤勉で、傾いた国を立て直そうと必死で努力している。平和な時代なら可もなく不可もなく皇帝稼業を勤め上げただろうと思えるだけに、気の毒ではある。しかし猜疑心が強く、ケチで、良いことは自分の力で、悪いことはすべて無能な臣下のせい。上司がこんな人だったらやる気なくす。

王承恩:王 剛
 崇禎が生まれた時から仕える宦官。もとは東廠の一員でスパイだったが、結局は死ぬまで崇禎へ忠誠を尽くす。影で権力を振るう一方、崇禎のため国のため心を砕くが、誰よりも早く明の滅亡を予見する。陳円円を北京に連れてくるが、その後、孫娘のように可愛がる。史実の王承恩は、最後にひとり崇禎に従い殉死した宦官。

皇太極(ホンタイジ):唐国強
 清の皇帝。明に取って代わることを悲願とする。雄略と細心さを併せ持つカリスマ指導者。

陳円円:張瀾瀾
 魏忠賢は子のない天啓帝の死後も権力を掌握するため、宮女の子を皇子と偽ろうとしたが、産まれたのは女児だった。これが陳円円で、母の死後、揚州の妓院に売られ妓女となった。琵琶と歌の名手で、王承恩に見出だされて後宮に入るが、呉三桂と愛し合う。後に呉三桂に与えられる。

呉三桂:丁海峰
 清に対する北方の守りにつく勇将。北京に使者として来た際に、陳円円に出会い見初める。それから二人の悲恋物語チックな展開になってきた時にはちょっと冷や汗ものだった……。天下無敵の騎馬軍団を育て、袁崇煥、洪承畴の後を受け山海関を守っていたが、明の滅亡に際し決断を迫られる。

洪承畴:鮑国安
 このドラマで最後まで一番うまく立ち回った人。小心者を装いつつ、けっこうホネもあれば、いざとなるとかなり汚い。 反乱軍討伐で功績を挙げ、袁崇煥の後、北方の守りを任される。しかし清の捕虜になり、ホンタイジと荘妃に籠絡されてついに投降する。

天啓帝:陳道明
 崇禎帝の兄。木工細工が趣味で、それ以外はすべてにやる気がないようだ。魏忠賢を野放しにしている。

魏忠賢:李 丁
 明朝史に悪名高い大宦官。天啓帝の寵を頼りに権勢を振るった。天啓帝の死後も地位を守ろうと画策するが失敗。

李自成:劉 威
 農民反乱の指導者。はじめは闖王・高迎祥の下にいたが、高迎祥が捕らえられ処刑されると、二代目の闖王となる。いったんは洪承畴のため追い詰められるが、明朝政府にはとどめを刺すだけの余力がなかった。おかげで息を吹き返し再び勢力を拡大、即位して国号を「大順」とする。やがて北京を陥し、明朝を滅ぼす。

周 后:李建群
 崇禎の皇后。崇禎との間に楽安公主と三皇子の二人の子がある。日夜夫のために心を砕く。

荘 妃:牛 莉
 ホンタイジの寵妃。順治帝の母。漢文化に造詣が深く、ホンタイジにさまざまな献策をする。

袁崇煥:張孝中
 かつて寧遠の戦いでヌルハチを負傷させ、その傷が元でヌルハチは死んだ。明の兵士には神のごとく崇められ、清には仇として憎まれている。天啓期に失脚していたが、再び抜擢され北方の守りを任される。しかし、崇禎の猜疑心の犠牲になり、敵に通じたとの汚名を着せられ処刑された。

周延儒:劉毓浜
 戸部尚書。魏忠賢には尻尾を振っていたくせに、後に王承恩打倒を試みて失敗、身を滅ぼした。

楊嗣昌:張光政
 洪承畴とともに反乱軍討伐を行い、洪承畴が北方に派遣されることになると王承恩、洪承畴らと協力して清との講和を模索する。というと立派な人だが、やっぱり魏忠賢におべんちゃらを言ってたなあ。

魯 四:馬 捷
 王承恩に抜擢され手足となって働く宦官。そのうち王承恩を裏切りそうな気がして心配だったが、考えすぎだった。何だかほっとした。

劉宗敏:張秋歌
 李自成の配下。北京入りした後、呉三桂の屋敷を乗っ取る。陳円円を愛し、北京から逃げる際も連れて行こうとする。俗説では、劉宗敏に陳円円を奪われたことを知った呉三桂は激怒し清への帰順を決めたといい、ドラマもこれに準拠している。

范仁寛:王絵春
 清に仕える漢臣。荘妃の教師でもある。ホンタイジに重んじられているが、他の満人には蔑視され、なかなかつらい日々を過ごしていたようだ。明への和議の使者として赴き命を落とす。

多爾袞(ドルゴン):李 志
 ホンタイジの弟。ホンタイジの死後、順治を擁立し摂政王となる。見た目も中身も普通のおじさんで、ヌルハチがこいつを後継者にするつもりだったなんて信じられるか! それに、美中年の役でしょフツー? いくら出番が少ないとはいえ、本作唯一にして最大のミスキャスト。


スタッフ
出品人:馬潤生、李康生、羅山、李博倫
総制片人:韓三平、朱誠、穆暁光
総監製:楊歩亭、李建、劉継南、宋振山、聶南、熊賢林
総策劃:韓三平、区念中
芸術顧問:馬潤生
発行人:肖可英、張明瑞
総発行人:程春麗
策 劃:魏亜平、張丹
監 製:任金洲、智広平、王雷、井崗、高成生
編 劇:朱蘇進
撮 影:粟栗、陳珂、胡祖光
美 術:路奇
剪 輯:苗文成
作 曲:許舒亜
音楽編輯:廖嘉偉
服装設計:莫小敏
化粧造型:紀偉華、楊樹棟、王玲英
灯光設計:莫徳凱、戴軍
製片主任:蒋暁群
武術指導:崔俊傑
執行導演:陳衛国、王鳴×、狄杰
製片人:三妹、楊暁明
導 演:陳家林

主題歌
片頭歌「平安夢」  作詞:陳海/作曲:張宋光/演唱:韓磊
片尾歌「汴水流」  作詞:朱蘇進/作曲:許舒亜/演唱:韓磊、劉金

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