清末の大商人・胡雪岩(1823~1885)の半生記。胡雪岩の名を冠したビジネス本が山ほどあり、小説もあればドラマ(陳道明主演!)もすでにある。また、「銭王」「白銀谷」などの清末商人ドラマを見ると、胡雪岩の名が何度も出てくる。というくらい、中国では有名人だ。
とにかく「ビジネスは人脈!」。そして「投資は人に」。この二つが胡雪岩の成功のカギであることが、ドラマを見ていてもよく分かる(もちろん、信義を守ることが最低条件)。そもそも成功の発端は、杭州のある銭荘の伙計(店員)にすぎなかった頃、貧乏書生の王有齢に五百両を貸したことだった。単なる友情でなく、人物を見込んだからこそだ。ただし、銭荘の金を勝手に貸したため、胡雪岩はクビになり、働き口を失ってしまう。しかしやがて五百両のおかげで官職を得て杭州に戻ってきた王有齢と再会、二人三脚での快進撃が始まる。
その後も次々と使える人物をたらし込み、銭荘を開業したのを手始めに、さまざまな商売に手を出していく。その一方で、王有齢のブレーンとして八面六臂の大活躍。次に大きな転機となったのは、太平天国軍が杭州に迫った時。胡雪岩は王有齢の頼みで食糧買い付けの任務を帯びるが、努力もむなしく、食糧を城内に届けることができないまま、杭州は失陥、王有齢は殉難する。
ここで少し引っかかることが。胡雪岩と王有齢は不遇の時代に義兄弟となり、ともに助け合ってきた仲。その友が悲惨な死を遂げたのだから、胡雪岩がショックを受けたり嘆き悲しむシーンの一つくらいあってしかるべきでは。もちろん画面に現れないところでそれはあったのだろうが、王有齢の死後、何ごともなかったかのようにドライに話が進むのを見ていると、何やらモヤモヤした気分になった。
王有齢と入れ違いに登場し、胡雪岩とタッグを組むのが、左宗棠だ。その後胡雪岩は20年にわたって左宗棠のさまざまな施策や軍事を経済的に支え続ける。その功績で朝廷から黄馬掛を下賜され、紫禁城を馬で出入りする権利を与えられ、母親も一品夫人になる。そして広大な豪邸の建造。このあたりが胡雪岩の絶頂の時であった。しかし、やり過ぎて敵を作ったこと、奢りによる箍の緩みが、やがて自分に跳ね返ってくる。その隙を狙いすました敵に、足元をすくわれてしまうのだ。
胡雪岩を演じる巍子は、悪くないのだが、私はどうしても「笑傲江湖」の岳不群を思い出してしまい、「実は腹の底でよからぬことを企んでいるのでは」というイメージが拭えずに困った。ドラマの冒頭、銭荘の伙計にすぎない頃から、いやに態度がでかいのも気になる。そこが大物の大物たる所以だろうか。しかし終盤、自ら築き上げた事業が瞬く間に崩壊していくのを目の当たりにしながら、気力を振り絞り、気概を保ち続けるさまには心打たれた。(2006年11月)
登場人物&キャスト
![]() | 胡雪岩:巍 子 |
![]() | 羅 四:曹 頴 |
![]() | 王有齢:呂良偉(レイ・ロイ) |
![]() | 左宗棠:王奎栄 |
![]() | 七姑娘:彭 丹 |
![]() | 古応春:周野茫 |
![]() | 張大伙:趙 亮 |
![]() | 尤 五:遅国棟 |
![]() | 蘭 姑:金莉莉 |
![]() | 胡 母:厳永瑄 |
![]() | 芙 蓉:倪虹潔 |
![]() | 慈 禧:宋 佳 |
![]() | 李鴻章:王詩槐 |
![]() | 盛宣懐:李又麟(左)/邵友濂:劉潤成(右) |