紅頂商人胡雪岩

全40集/2006年

 清末の大商人・胡雪岩(1823~1885)の半生記。胡雪岩の名を冠したビジネス本が山ほどあり、小説もあればドラマ(陳道明主演!)もすでにある。また、「銭王」「白銀谷」などの清末商人ドラマを見ると、胡雪岩の名が何度も出てくる。というくらい、中国では有名人だ。
 とにかく「ビジネスは人脈!」。そして「投資は人に」。この二つが胡雪岩の成功のカギであることが、ドラマを見ていてもよく分かる(もちろん、信義を守ることが最低条件)。そもそも成功の発端は、杭州のある銭荘の伙計(店員)にすぎなかった頃、貧乏書生の王有齢に五百両を貸したことだった。単なる友情でなく、人物を見込んだからこそだ。ただし、銭荘の金を勝手に貸したため、胡雪岩はクビになり、働き口を失ってしまう。しかしやがて五百両のおかげで官職を得て杭州に戻ってきた王有齢と再会、二人三脚での快進撃が始まる。
 その後も次々と使える人物をたらし込み、銭荘を開業したのを手始めに、さまざまな商売に手を出していく。その一方で、王有齢のブレーンとして八面六臂の大活躍。次に大きな転機となったのは、太平天国軍が杭州に迫った時。胡雪岩は王有齢の頼みで食糧買い付けの任務を帯びるが、努力もむなしく、食糧を城内に届けることができないまま、杭州は失陥、王有齢は殉難する。
 ここで少し引っかかることが。胡雪岩と王有齢は不遇の時代に義兄弟となり、ともに助け合ってきた仲。その友が悲惨な死を遂げたのだから、胡雪岩がショックを受けたり嘆き悲しむシーンの一つくらいあってしかるべきでは。もちろん画面に現れないところでそれはあったのだろうが、王有齢の死後、何ごともなかったかのようにドライに話が進むのを見ていると、何やらモヤモヤした気分になった。
 王有齢と入れ違いに登場し、胡雪岩とタッグを組むのが、左宗棠だ。その後胡雪岩は20年にわたって左宗棠のさまざまな施策や軍事を経済的に支え続ける。その功績で朝廷から黄馬掛を下賜され、紫禁城を馬で出入りする権利を与えられ、母親も一品夫人になる。そして広大な豪邸の建造。このあたりが胡雪岩の絶頂の時であった。しかし、やり過ぎて敵を作ったこと、奢りによる箍の緩みが、やがて自分に跳ね返ってくる。その隙を狙いすました敵に、足元をすくわれてしまうのだ。
 胡雪岩を演じる巍子は、悪くないのだが、私はどうしても「笑傲江湖」の岳不群を思い出してしまい、「実は腹の底でよからぬことを企んでいるのでは」というイメージが拭えずに困った。ドラマの冒頭、銭荘の伙計にすぎない頃から、いやに態度がでかいのも気になる。そこが大物の大物たる所以だろうか。しかし終盤、自ら築き上げた事業が瞬く間に崩壊していくのを目の当たりにしながら、気力を振り絞り、気概を保ち続けるさまには心打たれた。(2006年11月)

登場人物&キャスト

胡雪岩:巍 子
 銭荘の伙計から全国に名を轟かす大富豪に、そして再びそのすべてを失った伝奇的人物。劇中では基本的にいい人であるはずなのだが、巍子は岳不群のイメージが強くて、どうしても悪人に見えてしまう。この画像も悪巧みしているように見えるでしょ?(でもそんなことはない。)

羅 四:曹 頴
 すでに妻子のある胡雪岩に長いこと片思いし続けた挙げ句、思いが実って第二夫人に。胡雪岩の成功によって巨大になった家を切り盛りし、最後まで夫を支え続ける。

王有齢:呂良偉(レイ・ロイ)
 胡雪岩との奇縁によって官途についてから互いに協力を続け、困ったことがあると何でも相談するほど胡雪岩を頼りにしている。やがて太平天国軍が迫る中、浙江巡撫に任ぜられ、杭州陥落とともに自殺。呂良偉が文人役ってどうなの?と思っていたが、意外に良い! ドラマも半ばで早々に退場とは残念至極。

左宗棠:王奎栄
 杭州を太平天国から奪回した際、胡雪岩が食糧を持ち逃げしたと思い込み、処刑しようとしたのが二人の出会いだった。胡雪岩の功績を朝廷に奏上し、その働きに報いる。(1812~1885)

七姑娘:彭 丹
 漕幇の首領・魏老太爺の義理の娘。あだ名は女の子だというのに「猛張飛」。最初、胡雪岩に片思いするが(羅四といい、物好きな)、結局は胡応春に嫁ぐ。その後もよき友人として、夫とともに胡雪岩を支える。

古応春:周野茫
 通訳、西洋人相手のビジネスの仲介役として上海では大物らしい。しかし劇中の外国人はみな中国語がペラペラなので、「OK」以外の英語を話したことがない。上海で胡雪岩の片腕として活躍。周野茫はかつて「水滸伝」で林冲を演じた俳優さん。はっきり言って、気付かなければよかった。

張大伙:趙 亮
 胡雪岩が働いていた信和銭荘の上司? 王有齢が出世すると、そのせいでクビにした胡雪岩にあわてて尻尾を振る節操のなさには笑える。とはいえ、その後は胡雪岩が落ち目になっても協力した。演じる趙亮は「射鵰英雄伝」「神鵰侠侶」の周伯通。

尤 五:遅国棟
 松江に拠点を構える漕幇(水運業者の結社)の実質的な首領。七姑娘の実兄。胡雪岩に公私ともに協力を続ける。

蘭 姑:金莉莉
 胡雪岩の糟糠の妻。普段はおとなしく耐えているが、いざ本気で怒らせると怖いタイプと思われる。最初は妾を追い出しにかかったが、羅四を受け入れてからは諦観したようだ。金莉莉は、かつて「紅楼夢」で迎春を演じた女優さん。老けてもイメージは変わっていません。

胡 母:厳永瑄
 胡雪岩の母。常に息子に善をなせと諭し続ける賢婦人。

芙 蓉:倪虹潔
 商売のため湖州に単身で滞在していた胡雪岩が、初めて納れた妾。彼女に限らず、胡雪岩の女性に対する態度はどうかと思う。

慈 禧:宋 佳
 私がこれまで見た中で最も美しい西太后。

李鴻章:王詩槐
 左宗棠の政敵。当然、胡雪岩も目障り。(1823~1901)

盛宣懐:李又麟(左)/邵友濂:劉潤成(右)
 上海における李鴻章の手下ども。盛宣懐(1844~1916)は江南招商局の責任者。邵友濂(?~1901)は上海道台。胡雪岩を破滅させようと画策する。


スタッフ
出品人:張建庭、張強
総監製:張鴻建、肖可欣
総顧問:葉明、于躍敏、向克堅、趙英
総策劃:馬時雍、閻于京、周銘、王暁明
策 劃:胡志紅、何克浮、馬也
芸術顧問:王国富、魏艶
製片人:高念華、柴皓
原 著:高陽
編 劇:二月河、薛家柱
文学統籌:李一波、張鴻生
撮 影:銭滔
美術設計:王江
作 曲:王立平
導 演:閻建鋼

主題歌
片尾歌「難得天地寛」  詞曲:王立平/演唱:戴玉強

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