徽州女人

全24集/2006年

 徽州(現・安徽省南部)は山がちで耕作地が少なく、男たちは外地へ働きに出るのが伝統となっていた。徽州を舞台にしたドラマ(『大清徽商』『大祠堂』及び本作)に必ず出てくる言葉がある。「前世不修生在徽州、十三四歳往外一丢(意訳:何の因果か徽州に生まれ、13、4歳で故郷とおさらば)」。だからこそ「徽商」「新安商人」と呼ばれる人々が活躍することになったのだが、その一方で男たちの留守を守る女たちがいる。本作は清末の徽州を舞台に、ある豪商一家の女たちの人間模様を描く。
 程家は老太太(帰亜蕾)と二人の嫁が家を守っている。長男の嫁・杜蘭馨(茹萍)が家の切り盛りを任されて皆の信頼を得ているが、次男の嫁・祝紹蘭(曹艶艶)はそれに不満である。老太太の還暦祝いのため、次男・程嘉軒(高峰)が数年ぶりに帰宅する。身売りされそうになって逃げてきた貧しい少女・秋菊(王維維)は、程嘉軒に救われ使用人となるが、密かに程嘉軒を慕う。程家の末娘・程嘉怡(高榕)は母と兄嫁が決めた縁談に従い嫁ぐが、夫は病人だった……。
 よくある「封建道徳のもとに生きる女たちの悲劇」といった分かりやすい物語で、登場人物も少ない。しかし意外に雑なところが目についたのは残念だ。まず気になるのは、BGMが雑でセンスがないこと。オルゴールのメロディーが「イッツ・ア・スモール・ワールド」なのも興ざめだ。そして後半の展開に難がある。程嘉軒が怪我をして山中の一軒宿で身動きがとれなくなってから、兄の訃報が届き、杜蘭馨が徒歩で(!?)北京まで出向いて夫の葬式を出して、やはり徒歩で棺を運んで戻ってきて、さらにいろいろあるまでの間、いったいどれだけの日数がかかったのか。その間、いくら通信網、交通網の発達していない時代とはいえ、誰も程嘉軒に連絡をとろうとしたり探そうとした気配がない。本人もいたってのんびりしていて、使いに出した宿の亭主が戻らなくても全くあせらず、亭主の妻と不倫ライフを楽しんでいたらしい。急いで帰宅しようとしていたはずなのだが。もしかして、彼はもう仕事にも家にも疲れて壊れていたという表現なのだろうか。それよりも何よりも、時間軸がおかしい。また、杜蘭馨が山賊に拉致られて結婚を迫られ死を選ぶ、と思いきや実は生きていたのだが、彼女もすぐに帰宅しようとせず、助けてくれた漁師たちとアウトドアライフを楽しんでいるのは何故だ。やはり実はあんな家に帰りたくなかったのかもしれないが、ここでも一体どれだけの日数が……。杜蘭馨がようやく帰宅すると、彼女の葬儀が済んでいたのはもちろん、朝廷から烈婦として顕彰され夫とともに牌坊建立が決まっていた。そのため、今さら程家は「実は生きていました」とは言えず、杜蘭馨は死を強要されるのだ。ひ、ひどい!! しかし物語そのものよりも、第23話の冒頭、突然話がワープしていたことのほうが衝撃だった。ストーリーのつながりはすぐに理解できたものの、いくらなんでも急展開すぎて、撮影し忘れたのか、それとも撮影したフィルムを失ったのか、はたまたDVDが不良品だったのか、不思議で仕方がない。
 展開に難があっても、少人数ドラマなので、それぞれのキャラで見せる作品だと思うし、そこで成功していれば良かったのだが。まず老太太、演じているのは台湾の名女優・帰亜蕾なので期待したが、意外に普通。杜蘭馨は良かった。しっかりした立派な奥様だが、時々見せるもろさのほか、意地の悪い表情もいい。祝紹蘭は対照的に不愉快女の典型で、どこかで見たようなキャラ。三女の程嘉怡は天真爛漫な少女だったが、不幸な結婚生活を経て、人が変わったようになる。変化が大きいという点では見応えがあったか。杜蘭馨と並ぶヒロインであるはずの秋菊は、好きになれない。利発で前向きな頑張り屋なのだろうが、気が強いのはいいけれど、ちょっと身勝手に見えるし、可愛げがなくて、皆に好かれる展開とギャップを感じる。ミスキャストではないだろうか。最下層から這い上がって程家の女主人となった彼女は一見勝ち組のようだが、同時にこれまでと違う苦労と不幸にはまり込んで、あらたな悲劇が生まれたように思う。どうにも後味がよくない。
 総体的に見て、細部をもっと磨けばいいドラマになったのではと思うので、いろいろと残念だ。なお、黄梅戯に同名の作品があり、てっきりそのドラマ化かと思ったら、あらすじを読む限りでは全く関係ないようだ。(2012年9月)

[あらすじ]
 程家の老太太の還暦祝いのため、二人の息子が数年ぶりに帰宅するはずが、帰ってきたのは次男・程嘉軒だけ。長男の程嘉禾は官職を授けられ急遽北京へ向かったのだった。程嘉禾の妻・杜蘭馨は傷心を押し殺して気丈に振る舞う。跡継ぎの男児がいないことを気に病む老太太は、程嘉軒と祝紹蘭夫婦に子作りを厳命。身売りされそうになり逃げてきた貧しい少女が程嘉軒に救われて使用人となり、秋菊の名をもらう。秋菊は密かに程嘉軒を慕い、やがて秋菊は一度だけ程嘉禾と通じるが、程嘉禾の留守中にトラブルを起こして程家を追い出される。しかし彼女はすでに程嘉禾の子を身ごもっていた。一方、祝紹蘭は流産してしまい、老太太を嘆かせる。祝紹蘭の弟・祝紹東は程嘉怡との結婚を望み、祝紹蘭もそれを後押ししていたが、嘉怡は母と杜蘭馨が決めた縁談に従い嫁いでいく。ところが実は夫は病人で、嘉怡は婚家で暗い日々を過ごすことになる。……

登場人物&キャスト
老太太:帰亜蕾
 程嘉禾、嘉軒、嘉怡の子があるが、跡継ぎとなる孫がいないのが悩み。男孫を得ることに執念を燃やす。

杜蘭馨(大奶奶):茹  萍
 程家の長男・程嘉禾の妻、娘が一人。程家の切り盛りをし、皆に慕われている。温厚だが切れ者。演じる茹萍が良かったのが、いまひとつパッとしない本作唯一の慰めだ。

祝紹蘭(二奶奶):曹艶艶
 程家の次男・程嘉軒の妻。杜蘭馨を嫌っていて、何かと波風を立てる性格の悪い女。出来の悪い弟がさらに足を引っ張る。

秋  菊:王維維
 ろくでなしの兄に売り飛ばされそうになり偶然程家に逃げ込んできて、程嘉軒に救われて使用人になる。程嘉軒の子を身籠もるが程家を追い出され、尼寺で息子を産む。いろいろ苦労を重ねて程家に戻り、やがて程家の女主人になる。

程嘉怡:高  榕
 天真爛漫なお嬢様で、杜蘭馨と仲良く、秋菊にもシンパシーを感じている。やがて決められた縁談に従い嫁ぐが、病気の夫の看病ばかりの日々。やがて若い医者と惹かれ合うようになる。最後には彼女だけは幸せを掴んだと思いたい。

程嘉軒:高  峰
 程家の次男、普段は杭州に住んで商売をしている。最初のうちは仕事も人間も出来てる風だったが、後半の展開がひどすぎて、こんな人どーでもよくなった。

祝紹東:馬雪源
 祝紹蘭の出来の悪い弟。博打好きでしょっちゅう姉に金をせびっている。程嘉怡と結婚しようとして失敗。姉の口利きで程嘉軒の仕事を手伝うが失敗。小ずるいわりには(小ずるいからか?)失敗ばかりのダメ男。


スタッフ
出品人:金彦山、曹利明、劉京平
総監製:仇旭東
顧問:周道炯、張脈賢、劉伯山、于革非
監  製:左佑、羅文照、呉愛民
編  劇:暁英
撮  影:杜義民
美  工:趙平
作  曲:劉為光
録  音:詹新
策  劃:厳泰祚、蘆森林、王長安、呉広民、張愛国
劇本原創:李国彬、侯露、金梅濤、朱昭賓、朱東旭、黄雯
製片人:阿梅、張剣虹
統籌・製片主任:薛連琪
導  演:金継武

主題歌
片尾歌「無悔的心」

上 へ   電視劇一覧   トップページ