紅楼夢

全36集/1987年

 中国四大古典小説のうち、中国人に最も愛されているのは「紅楼夢」ではないだろうか。数年をかけて制作されたドラマからは、当時、中央電視台がどれだけ力を入れたかがひしひしと伝わってくる。繰り返し再放送され、20年後に出演者が集まったイベントが開かれてニュースになりTV番組になったところからも、このドラマが人々にどれだけ愛されているかがわかる。サントラCDが今でも買えるし、テーマ曲や挿入歌を中国では今でも時おり耳にする。さらに、再びドラマ化するという。
 今見るとカメラワークやメイクが古いけれど、紅迷ならばそんなことを気にする暇がないくらい引き込まれる。とにかく、あの世界が映像になり人物が生きて動いているというだけで興奮ものだ。登場人物の服装、立ち居振る舞い、建物、家具調度、そして大観園……。曖昧にしか想像できなかった世界がはっきりと形になって目の前に現われたのだ。この人たちはこんな部屋に住んでいるのか、こんな服を着ているのか、こうやって食事をしているのか、こんなふうに会話するのか! と、新鮮な驚きの連続だった。
 製作には大変な苦労があったと思うが、その最大のものはやはりキャスティングではないだろうか。視聴者のイメージに合わなかったら、叩かれるのは必至。(もしかしたら紅迷は金迷よりも怖いのではないか。)しかも既存のイメージのできている有名俳優をあえて使っていないところに、心意気を感じる。出演者たちは撮影前に「紅楼夢」についての講義を受け勉強したそうだ。その甲斐あって金陵十二釵をはじめとするヒロイン勢は、みな素晴らしいと思う。
 ま、正直、若い子ばかりなので演技力という点では誉められないが、それがどうした!とあえて言おう。その中でひとり(言い過ぎか)気を吐いているのが、王煕鳳役の鄧婕だ。実は、スチールを見ただけの時にはイメージではないと思っていた。失礼ながら少々地味なのではないかと。ところが実際にドラマを見ると、これ以上はないというくらいはまっていた。今でも人気女優であるせいか再ドラマ化についてもマスコミからコメントを求められているようだが、彼女の王煕鳳は当時の視聴者によほど強い印象を与えたということだろう。もちろんその他の脇を固めるベテラン勢も、みなそれぞれがイメージに合っている。
 第11集で宝玉と王煕鳳の病気がずいぶんあっさり治ったことなど「あれ?」と思う箇所があったのが残念といえば残念だが、名場面をきちんと押さえて長い原作をうまくまとめていると思う。なお、 全120回の原作のうち、曹雪芹が書いたのは80回まで。80回以降の扱いもドラマの目玉だ。おそらく当時の最新の研究成果を採用して、曹雪芹の原案を再現している。すべてに納得がいくわけではないが、基本的には気に入っている。さすが「顧問」に名だたる紅学者、文学者が名を連ねているだけのことはある。
 それにしても、再ドラマ化の話はもう何年も前からあり楽しみにしているのだが、遅々として撮影に入らない。必ず旧版と比べられるので、プレッシャーは倍増だろう。実際、旧版を超えるのは至難のわざだろうが、それでも旧版を超えなければ視聴者は承知しないのだから。とはいえ、新版がどんなに素晴らしい出来だったとしても、この87年版も決して忘れられることはないと思う。(2006年5月)

キャスト
賈宝玉:欧陽奮強/林黛玉:陳暁旭/薛宝釵:張 莉/史湘雲:郭霄珍/賈元春:成 梅/賈迎春:金莉莉、牟 一/賈探春:東方聞桜/賈惜春:胡澤紅/王煕鳳:鄧 婕/賈巧姐:王 暄/李 紈:孫夢泉/秦可卿:夏麗蓉、張 蕾/妙 玉:姫培杰/襲 人:袁 玫/晴 雯:張静林/平 児:沈 琳/香 菱:陳剣月/紫 鵑:徐麗霞/雪 雁:馬明珠/鴛 鴦:鄭 錚/鶯 児:劉玲玲/賈 母:李 婷/王夫人:周賢珍/薛姨媽:李鳳英/邢夫人:夏明輝/尤 氏:王貴娥/劉姥姥:沙王華/趙姨娘:蘇秋冬/尤二姐:張明明/尤三姐:周 月/賈 政:馬加奇/賈 赦:李 頡/賈 敬:韓 淮/賈 珍:李志新/賈 璉:高宏亮/賈 芸:呉暁東/薛 蟠:陳洪海 ほか

スタッフ
編  劇:周雷、劉耕路、周嶺
監  製:戴臨風
副監製:胡文薇
導  演:王扶林
撮  像:李耀宗
美術監製:劉宝俊
美術設計:風霄、劉宝俊、馬強
総剪輯:傅正義
作  曲:王立平
民俗指導:鄧雲郷
服装設計:史延平
化粧設計:楊樹雲
製作主任:任大恵、鄭燮昌

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