漢武大帝

全58集/2004年

 漢の武帝の生涯を描く超大作。総監督は「雍正王朝」の胡玫だが、残念ながら「雍正」のほうがずっと面白い。両作品とも、建国後数十年後の中興の皇帝を取り上げるのは、やはり現代中国と重ねているからだろう。
 ドラマは景帝期から始まる。武帝の時代に至る背景などを丁寧に説明するつもりなのだろうが、3~4集見ても呉楚七国の乱が始まらなかった時には、「ああ、先は長い~」とため息が出た。(これに反して、終盤、武帝の晩年はずいぶん展開が速い。)そしてお決まりの後継者争いになるわけだが、竇太后(帰亜蕾)、王氏(宋暁英)、館陶公主(蘇小明)のおばさん三人が好悪は別にしてとにかくキョーレツ。女性キャラの比重が軽いドラマとはいえ、この後何人も美女が出てくるのに、この三人にかなう女はもういなかった。
 壮大なセットや草原での撮影、スケールの大きさ、美術の素晴らしさなどは圧倒的。同じセットも「大漢天子」の時よりはるかに壮麗で美しく見える。それなのに。それが不思議とドラマの面白さに結びつかないのだ。テンポはゆるいし、なかなか盛り上がらない。これなら「大漢天子」シリーズのほうがいい。こんなことを言ったら「漢武大帝」の関係者が憤激するだろうが。そもそも両者は拠って立つところが違うのだから比較すること自体無意味なんだけど。……などと考えていたら、第22集に武帝が杜淳から陳宝国に交代したら、とたんに面白くなった。なんだ、主人公に吸引力がなかっただけか。
 とはいえ、最後まで見通した印象は、やはり今ひとつパッとしないのだった。理由その一。編集に問題があるように思う。いらぬところで凝っている。専門用語が分からないので説明できなくて申し訳ないが、普通に見せてくれればいいところで、何だか映像がうるさい。思わせぶりなスローモーションやフラッシュバックなども邪魔に感じることが多かった。草原での騎馬のシーンなど本当にかっこいいが、せっかく撮影したかっこいい映像をたくさん見せなきゃ損というわけではあるまいが必要以上に長々と見せてくれて、テンポが悪い。
 理由その二。登場人物が多すぎる。おじさんたちの顔がなかなか覚えられない。覚えられないまま退場になった人たちがどれだけいたことか。こんなに人の顔が覚えられなかったドラマは初めてだ。単に私の記憶力のせいかもしれないが。史実に忠実に(もちろん史実無視のフィクションもいっぱいある)詳しく作るのはいいが、ちょっと欲張りすぎのような。ただし、このあたりの歴史に詳しかったり、武帝オタクだったりしたら、楽しいかもしれない。
 理由その三。史実よりの作りであるだけに、かえって細かいことが気になってしまう。内閣、内閣と繰り返していたが、内閣制度は明代からではなかったかとか、王の娘がなぜ「公主」なのかとか、ギロチンが出てくるのはあんまりだとか、冒頓単于や王昭君や曹操の有名エピソードを流用するのはどうかとか、コオロギが一年中鳴いているのはなぜだ、とか。軽いドラマなら無視するのだが。
 理由その四。劇中音楽が借り物だらけ。ネットによると「十二国記」の音楽が多いらしい。私は「十二国記」を見たことも聴いたこともなく、今後もないと思われるので確認できないが。その他「青葉の笛」のメロディーやら、たぶん三味線と思われる演奏まで。ハリウッド映画らしき音楽ももちろんあった。場面に合った曲を選んでいればまだしもなのだが、違和感のある曲がかなりある。「神鵰侠侶」に使われていたのと同じ曲があったが、オリジナルは何の曲なのだろうか、気になる。どなたか教えて下さい。この音楽のデタラメぶりで、他にどんな長所があってもすべて台無しだ。逆に言えば、見事な音楽をつけていれば、好感度が何割かはアップしただろうに。
 というわけで、期待に反してちょっと残念な結果になってしまった。もちろん素晴らしいシーンもたくさんあるのだが、上記の理由が感動の邪魔をする。何より続きが気になる、という「物語」の楽しみがあまり感じられないのだ。これは歴史を知っていて先の展開が分かるから、というだけではないはずだ。ただし、陳宝国をはじめとする主演俳優陣は素晴らしく、登場人物一人ひとりをつつけば、それなりに楽しめる。(2007年4月)

キャスト
劉徹(武帝):陳宝国/劉徹(青年時代):杜 淳/景 帝:焦 晃/竇太后:帰亜蕾/王 娡:宋暁英/晁 錯:朱 藝/劉武(梁王):沈保平/田 蚡:張 世/竇 嬰:馬少驊/周亜夫:徐祖明/館陶公主:蘇小明/衛 青:陸剣民/李 広:陸樹銘/軍臣単于:巴 音/伊稚邪単于:高 発/中行説:陳長海/張 鶱:任 重/霍去病:李 楽/劉安(淮南王):婁際成/劉 陵:陶 虹/衛子夫:林 静/陳阿嬌:徐紅娜/李妍(李夫人):高婷婷/鈎弋夫人:張婉亦/平陽公主:韓 萓/韓 嫣:馬 勇/霍 光:張 雷/金日磾:徐 沖/司馬遷:王 往 ほか

スタッフ
出品人:朱彤、楊歩亭、李博倫、王松山
総策劃:韓三平、胡玫
総製片人:韓三平
総監製:姜涛、汪国輝、劉徳鴻
製片人:呉宏亮、胡玫
歴史顧問:求実
友情執導:塞夫(草原戦場)
執行導演:楊軍
編 劇:江奇涛
総撮影:池小寧、張岳夫
美 術:毛懐清
録 音:張敏
監 製:宋振山、羅立平、霍起
責任編審:王浩
剪 輯:劉淼淼
総導演:胡玫

主題歌
片頭歌曲:「最後的傾訴」
片中挿曲「心霊睡過的地方」
片中挿曲「千百年後誰又会記得誰」
片尾歌曲「等待」
 作曲:張宏光/作詞:葛根塔娜/演唱:韓磊、姚貝娜

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