大唐情史

全30集/2002年

 唐の太宗・李世民が兄と弟を殺して権力を掌握した「玄武門の変」を発端に繰り広げられる、ドロドロの愛憎劇。親の因果が子に報い、太宗の願いも空しく、愛娘の高陽公主が、最愛の息子である李恪が、その他の大勢の息子たちが、どんどん不幸になっていく。名君といえどもままならぬことだらけ、特に父親としてはうまくいかず、貞観の治の裏側にはこんな悲劇が、というお話。
 李世民は兄・建成と弟・元吉の殺害を決意し、玄武門での待ち伏せを計画、玄武門を守る宗将軍(張山)を味方にする。事件後、宗将軍は自殺、一族は長孫無忌(強子)に殺される。ひとり逃れた宗将軍の幼い息子は玄奘のもとで出家し、法名を辨機とする。一方、李世民は建成の妃・玳姫(張彤)を我が物にし、高陽公主が生まれるが、玳姫は李世民を憎み続ける。やがて長じた高陽公主と辨機が出会う。
 主人公の高陽公主(沈傲君)がいかにも破滅型で、母娘ともども発散する負のエネルギーが重苦しい。高陽は二人の男性を愛するが、ひとりは異母兄の李恪(潘耀武)、隋の煬帝の娘を母とし、二つの王朝の皇帝の血をひく李恪は、その特殊な血縁と孤高が高陽と相通じたのだろうが、どう考えても不毛で不幸。そして、もう一人が辨機(聶遠)。玄武門の変の落とし子ともいうべき二人が、暗い情念を共有して結びつく。……書いていて気が滅入る。そして理不尽に振り回される周囲の人々。平行して語られる、太宗の息子たちの皇太子の座をめぐる争い。かつての父親による兄弟殺しが再現されるのか? まさか玄武門の呪いか、これは運命なのか?……アンハッピーエンドなのは最初から覚悟していたが、自分の生まれに悩み、自分は何者かと問い続けた高陽と辨機の苦しみが、二人の息子にまた受け継がれそうで、救いがない。
 このように全体的に暗いドラマではあるが、テンポはよく、女優陣は美人揃い、登場人物もそれぞれ面白く、けっこう楽しく鑑賞できた。屋外の場面、特に山上の場面で、真っ青な空が目にまぶしい。こんなきれいな空、最近の中国の映像で見たことないような。どうでもよい場面なのだが、印象に残った。
 唐国強は、冒頭のエロオヤジっぷりに引いてしまったが、後は言うことなし。名君の貫禄と、哀しい父親の姿の落差がいい。高陽公主の沈傲君も実に美しい。辨機の聶遠は、頭を丸めて僧衣を着ても、坊さんには見えないねえ。いくら煩悩を抱えているにしても、ギラギラしすぎてる。苦手だ。張紀中版「西遊記」の三蔵法師役は大丈夫なのかな。(2009年12月)

あらすじ
 李世民は李建成と元吉に毒を飲まされ、反撃を決意。玄武門での待ち伏せを計画し、玄武門を守る宗将軍を訪ねる。李世民に加担した宗将軍は、事件後に長孫無忌の前で自殺。6歳の息子は父の言いつけで、浄土寺の住持・玄奘を頼り、出家する。一方、李世民は東宮に乗り込み、建成の妃・玳姫を我が物にする。その結果、高陽公主が生まれるが、建成の子供たちを殺さないという約束を反故にされた玳姫は李世民を憎む。これをなじられ続けた李世民は、生まれたばかりの娘を取り上げ、玳姫を幽閉する。数年後、長孫皇后の娘として育った高陽公主は、幽閉されている狂女の存在を知るが、それが実母とは悟らない。そして、玳姫に説法するため玄奘の推薦で派遣された少年僧・辨機と出会う。彼こそが宗将軍の息子だった。やがて高陽は自分の出生にまつわる秘密を知り、父との間にわだかまりを抱くようになる。さらに数年後、チベットのソンツェン・ガンポの代理として高陽公主に求婚する使者の前に、再び辨機が現れる。……

キャスト&人物紹介
李世民:唐国強
 唐の太宗。玄武門の変という暗い過去を消そうにも消せず、最愛の楊妃を皇后にしようとして果たせず、李恪を皇太子にすることにも失敗、高陽公主をどんなに愛しても思いは届かず。プライベートでは不幸なひと?

高陽公主:沈傲君/解  月(少年)
 太宗の第17女。出生と母の玳姫をめぐるトラウマのため、太宗に溺愛されても肝心なところで感情がすれ違いがち。そして何より、自分だけでなく周囲を不幸に巻き込んでいく。

辨  機:聶  遠/尹易凡(童年)/徐鉢瓶(少年)
 6歳の時に玄武門の変のために父を失い、浄土寺の玄奘を頼り、出家する。玄奘の弟子の中でも特に優れ、玳姫に説法をするため後宮に出入りし、高陽公主、李恪と出会う。陰で李恪の手下になってたり、アクションシーンには、ちょっと冷めた。

玳  姫:張  彤
 李建成の妃。玄武門の変の直後、李世民に犯されて高陽公主を生む。李世民を憎み、わが子を取上げられ幽閉され、一時期狂乱状態だったが、辯機と語るうちに心の平安を得たらしい。

長孫皇后:趙  倩
 兄の長孫無忌の野心を心配し、息子たちの争いに心を痛める。高陽公主を実子同様に育てる。常に立派な言動だが、本来の性格なのか、立場を考えて習性となってしまったのか。何やらもの哀しい。

楊  妃:顔丹晨
 太宗の最愛の妃、李恪の母。隋の煬帝の娘。李恪が幼い頃から、皇帝になろうと思うなと常に戒めている。

房玄齢:岳躍利
 開国の元勲で宰相、しかも人格者。太宗は彼のために、高陽公主を彼の次男の遺愛に嫁がせる。房玄齢は遺愛が高陽に釣り合わないと心配するが、実際その通りに。

長孫無忌:強  子
 長孫皇后の兄。甥の中でも大人しい晋王・李治を次の皇帝にしようと画策中。目的のためには手段を選ばない冷酷な男。

李承乾:鍾  誠/陳冠澤(少年)
 太宗の長男で皇太子。母は長孫皇后。皇太子の座を狙う弟らの攻撃に晒され、有力候補の李泰の暗殺を企んだり。結局、長孫無忌に敗れ去る。

李  恪:潘耀武/李  彤(少年)
 太宗の三男、呉王。母は楊妃。母の戒めにもかかわらず、皇太子の座を望む。太宗の息子の中では最も優秀で、父にも愛されるが、煬帝の外孫でもあるという特殊な立場のため、かなわない。

李  泰:袁世龍
 太宗の四男。母は長孫皇后。学問に優れるが、陰険な性格。皇太子の座を狙って、策士、策に溺れる。

李  治:霍亜民/馬  可(少年)
 太宗の九男、晋王。母は長孫皇后。叔父である長孫無忌の言いなり。ひそかに父の妃である武媚娘を愛している。

房遺直:馬暁偉
 房玄齢の長男。李恪の友人。高陽公主が弟に嫁いだばっかりに、理不尽に振り回され、気の毒な役回りに。しかも、辨機のためにあそこまでしてやる義理はなかろうに。

房遺愛:潘粤明
 房玄齢の次男、房遺直の弟。かなりのダメダメ君で、妻であるはずの高陽公主には指一本触れさせてもらえず、彼女の言いなりになる見返りに、金銀財宝、美女とスピード出世を与えられる。

武媚娘:秦  嵐
 太宗の妃のひとり。ひそかに李治と思いを交わすのは、本気なのか、将来を見越してのことなのか。後の武則天。

玄  奘:徐少華
 辨機の師。やがてインドに旅立ち、17年後に長安に帰還。「大唐西域記」を辨機に口述筆記させ、インドから持ち帰った膨大な経典の翻訳作業に取り組む。見たことある顔だと思ったら、「西遊記」の三蔵法師だ。

宗将軍:張  山
 玄武門の守将で、李建成についていたが、李世民に手を貸してしまった。事件後、息子を浄土寺の玄奘のもとで出家するよう命じて逃がし、長孫無忌の目の前で自殺。

閻立本:韓振華
 宮廷画家。時に応じて皇族の肖像画、功臣二十四人図などを描く。

静  奴:盖  益
 高陽公主の侍女。

孚  由:趙爾玲
 驪山に住む田舎娘。辨機に恋している。

長孫薔児:印小天
 長孫皇后に可愛がられていた甥。高陽公主の婿に選ばれるが、皇太子妃に決まった女性と通じて、流罪の途中に消される。このエピソード、武則天の甥の話の焼き直しじゃないだろうか。

スタッフ
総監製:魏文彬、蘇克
出品人:欧陽常林、蘇克
総策劃:呂煥斌
総製片人:劉向群
歴史顧問:趙友華
監  製:秦浩、蒋新建
製片主任:易進
統  籌:王冲
製片人:龔若飛
編  劇:楊理
総美術:李明傑
撮  影:陳軍、李勇
服装設計:鍾佳妮
録  音:黄文祥
作  曲:何訓友
音楽制作:姚傑軍 導  演:龔若飛

主題歌
主題歌「愛有多遠」   作詞・作曲:何訓友/演唱:徐菁

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