大宋提刑官

全52集/2005年

 2005年のヒット作。時は南宋、世界初の法医学書といわれる「洗冤録(洗冤集録)」を著した宋慈(1186年~1249年)を主人公にした推理ドラマ。ドラマのタイトルにある提刑官とは、提点刑獄公事という司法や検察などを司るらしい官職。著書のタイトル「洗冤」とは「冤罪をそそぐ」の意。本作では、提刑官である宋慈が著書にある通りの検死法などを駆使しつつ、真犯人を突き止めて殺人事件を解決し、無実の罪に泣く者を救う。
 ドラマの前半は、地方に赴任した宋慈(何冰)がさまざまな殺人事件を解決して活躍。冤罪の匂いを嗅ぎ付けるや再調査、検死に始まり綿密な捜査と実験で証拠を積み重ね、嘘や主観の混じる証言を覆し、事件の真相を究明する。このあたりの演出、米国のドラマ「CSI:科学捜査班」の手法を取り入れている(要するに、パクっている?)らしいが、私は未確認。ともあれ宋慈は「人命大如天」を信条に、愚直に事件の真相だけを求め、その結果、「包公の生まれ変わり」「宋提刑のもとに冤罪はない」との名声を得る。
 被害者も冤罪に泣くのもほとんどが庶民で、それを捜査し、裁く側である官のデタラメぶりも充分に描かれる。そしてドラマ後半、事件は都の官界に繋がっていく。宋慈自身も地方から都へ栄転し、朝廷の高官たちの不正を知ることになり……。そう、この作品、推理ドラマと思わせといて、実はとても中国らしい反腐敗ドラマなのだった! そして、これまでそれぞれ独立して語られていた物語のそこここに、少しづつ伏線が張られていたことも分かってくる。
 現代から見ると、絶対ウソだろう、非科学的、というネタもあるが、そこはご愛嬌。宋慈自身が書いていることなのだから目くじらは立てまい。(それより私は、「水滸伝」の登場人物の名や「天方夜譚」なんて言葉が出てくるほうが気になる。)宋慈のキャラや、ドラマ全体を通して少しづつ語られていく、周囲の人々との関わりも面白い。アクションは皆無で、全体のトーンも地味で暗めだが、ミステリーのような語り口には文句なく引き込まれる。さらに、冤罪に泣く人々の親子、きょうだい、夫婦などの人情ものの要素もたっぷり。有名俳優、人気女優がちょこちょこと出演しているのも個人的に楽しい。サスペンスチックにドラマを盛り上げる音楽も良い。というわけで、大変満足、もっと早く見ておけばよかった!と思わされたドラマだった。(2009年12月)

あらすじ
①第1集~第5集
 宋慈は進士となり、婚約者と婚礼を挙げるが、まさにその当日、父の宋鞏(薄貫君)が自殺。3年前に誤審で無実の者を死刑にしたことを苦にしてだった。梅城県では竹知県が半年前に謎の死を遂げており、娘の英姑(羅海瓊)は真相を究明できる人物を探して、宋慈にたどり着く。その頃、梅城県の新県令となるはずだった宋慈の義弟・孟良臣(呉軍)が、赴任前夜に火事で焼死。宋慈は英姑らとともに梅城県に赴き、盧知州(魏宗万)の協力を得て、かつ欽差と誤解されたことを利用して、捜査を始める。

②第6集~第11集
 書生の曹墨(黄海)は、商人の王四を殺害したとして死刑判決を受ける。不審を抱いた宋慈は再調査に乗り出すが、事件を裁いた太平知県の呉淼水(周舟)、王四の妻・玉娘(苗圃)が曹墨と姦通していたと主張する唐書吏(楊可心)、貞節な玉娘に曹墨が横恋慕したのだとする媒婆、それぞれ少しづつ話が食い違う。

③第12集~第16集
 没落した名家の末裔・李唐(郭東林)は、勉強も仕事もせず、先祖伝来の家具を売って生活していた。ある日、妻の和倩娘(荘慶寧)とともに岳父(戈治均)の誕生祝いに赴き、岳父から大金を借り受けて夜中に一人で帰宅する。翌朝、自宅で他殺死体となった李唐を宋慈が発見。留守番をしていた妾の柳絮児(沈傲君)を容疑者としていったん逮捕するが、やがて容疑は倩娘に向く。彼女の容疑も晴れたものの、不利な目撃証言を覆す証拠がすぐには見つからず……。

④第16集~第20集
 書生の楊易(鞏立峰)は、酒場で酔った勢いで、旅人を殺して金を奪い、死体を郊外の井戸に捨てたと語る。翌朝、楊家と仲の悪い商人・童非(石国慶)が、楊易の言葉通りの場所を探したところ、本当に死体を発見。なんとそれは楊易の姉の夫だった。宋慈は楊易を逮捕するが、姉の楊月児(何茵)は弟の無実を必死に訴える。

⑤第21集~第23集
 山中の村で他殺死体が発見されたが、村には被害者を知る者がいない。捜査にやってきた宋慈が見たものは、善人ばかりの秩序正しい村だった。被害者の身元確認をした翠姑(趙子惠)はそのまま逃げ出し故郷へ帰るが、そこはまさに事件現場の村。翠姑の昔の恋人の何老二(洪剣涛)は、なぜか翠姑を避ける。やがて宋慈は何老二を殺人犯だとするが、長老・鄧九(劉仲元)をはじめ村人たちは信じようとしない。

⑥第23集の後半~第27集の途中
 青陽知県・白賢(郭法曾)が下した死刑判決に疑問を感じた宋慈は、青陽県に赴く。人妻を強姦、殺害したとして裁かれた呂文周(趙亮)は、裕福で素行が悪く、街中の人々に嫌われていた。呂文周はことここに至って、初めてこれまでの自分を顧みて後悔する。白賢は誤審だった可能性に懊悩し(誤審そのものよりも、自分の経歴にキズがついたのがイヤなんじゃ……気のせいか)、宋慈は誤審のために命を絶った父を思う。助手の英姑は白賢と交流があり、彼のために手加減を乞うが、宋慈はあくまで真相を究明しようとする。

⑦第27集の後半~第31集の途中
 天浦県で楼員外(李永貴)の娘が殺害され、貧乏書生の梁雨生(于又川)が犯人として死刑判決を受ける。やはり調書を読んで疑問を感じた宋慈は再調査を開始するが、楼員外夫人(艾麗婭)の挙動が怪しい。こちらの知県の劉皓(雷恪生)は誤審に気付いてもいたって呑気、宋慈の捜査ぶりに感化されて、自分の推理を得々と語り出す始末。なんだかなあ。

⑧第31集の途中~第34集
 豆腐屋の杜松(趙衛東)の妻・玉児(謝蘭)は、3ヶ月前に諍いの挙句家を飛び出したまま行方不明。玉児の弟・李丁(石俊輝)は、杜松が姉を殺したと訴え出る。半年が過ぎた頃、白骨死体が発見され、所持品から玉児だと判定される。杜松は死刑が確定し、宋慈の出番となる。この判決を下した知県の刁光斗(郭達)、以前は知府だったのに、宋慈に弾劾されて降格されたという経歴の持ち主。今回も事件に関して賈秀才(高発)から賄賂を受け取って……。

⑨第35集~第39集の途中
 嘉州で20万両もの庫銀が紛失。湖南提刑の宋慈は、岳父・薛庭松の口利きで特別に調査の命令を受ける。嘉州には宋慈と同時に進士になった嘉州通判・袁捷(杜志国)がいた。宋慈は袁捷と旧交を温め、彼の清廉と辣腕ぶりを目の当たりにする。そして協力して捜査に当たるのだが。

⑩第39集の途中~第47集の冒頭
 宋慈は前話での功績によって京畿提刑となり、都勤めとなっている。兵部侍郎・史文俊(張志忠)は侍女の小鳳(白蓓)を強姦、殺害したと訴えられ、臨安府で裁かれる。この臨安知府、第2話のデタラメなお裁きで宋慈に弾劾され、罷免された呉淼水なのだった。史文俊は無実を訴えるが、もともと性格が悪くて嫌われ者だったため、誰も同情すらしてくれない。さらに、史文俊の敵国との内通を証拠だてる文書まで出てくる。宋慈だけは真相究明の必要を感じ、馮御史(厳順開)とともに侍女殺害の件を捜査することになるが、捜査中になんと宋慈自身がさまざまな濡れ衣を着せられ、入獄するはめになる。妻の玉貞(楊御)が慧珏公主(徐爽)に訴えたおかげで、宋慈は獄中での捜査を許されるものの、つきとめた事件の黒幕はなんと。

⑪第47集~第52集
 前話から数年後。都郊外に如意苑なるセレブ御用達の怪しげな娯楽施設が出来ている。その主はなんと、第8話で因縁のある刁光斗だった。女優・小桃紅(任銘松)の他殺死体が発見され、捜査した宋慈は、刑部の若い役人・竹如海(荘嘉敏)が犯人であると断定。英姑の機転で判断の誤りに気付くが、時すでに遅し、絶望した竹如海は、牢内で自ら命を絶っていた。そして刁光斗こそが、宋慈を誤審へ導くよう罠をしかけた黒幕だった……。

登場人物&キャスト
宋 慈:何 冰
 提刑官の仕事を天職とするが、ワーカホリック気味。かなり偏屈で素直じゃない性格、かつ官僚の常識が通じない。岳父のおかげで出世したと人に思われるのを異常に嫌い、岳父や妻と距離を置こうとする。理由は後半明らかに。少しづつ「洗冤録」の執筆を続けている。

英 姑:羅海瓊
 梅城県で在職中に亡くなった竹知県の一人娘。父親の死の真相を宋慈に究明してもらって以来、有能な助手となり、公私ともに宋慈になくてはならない存在になる。

薛庭松:何天龍
 宋慈の岳父。二品の吏部侍郎となる。婿の宋慈を見込んで引き立て(自分の派閥に加え)ようとしていたが、後になっておそらく後悔。

宋 鞏:薄貫君
 宋慈の父。長年、誤審のない名官僚として名声が高かったが、ただ一度の誤審を悔いて自殺。その死をもって息子への戒めとした。冒頭にわずかの出番しかないが、ドラマ全体を貫くテーマにかかわる重要人物。

玉 貞:楊 御
 宋慈の妻。薛庭松の一人娘で、皇帝の愛娘・慧珏公主と御学友。夫と父親の仲がぎくしゃくしていること、夫が何やらよそよそしいこと、英姑の存在などに常に思い悩んでいるはず。宋慈、いい奥さんなのにもったいないよ……。

捕頭王:程相銀
 もと竹知県の配下だった。英姑と宋慈を結びつける重要な役割を演じ、その後も宋慈の片腕になるかと思いきや、第2話までの登場で突然降板。

趙捕頭:林 強
 英姑の表兄(母方の従兄)。第3話以降、宋慈の部下となり、宋慈を尊敬し、片腕として熱心に働く。

スタッフ
総監製:李建
出品人:高建民
策  劃:魏平、宮暁東、段哲学
監  製:張華
製片人:兪勝利
執行製片人:王立年
執行製片人:高東旭
責任編輯:謝暘
編  劇:銭林森、廉声
撮  像:楊輪、陳洪
美  術:宋強
録  音:沈剣勤
作  曲:程池
導  演:闞衛平

主題歌
片尾歌「満江紅」 作詞:王凱娟/朗誦:張志忠/演唱:劉可

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