大清徽商

全40集/2005年

 「徽商」とは徽州(現・安徽省南部)出身の商人の総称で、「新安商人」とも呼ばれる(新安は徽州の古称)。明、清にかけて商界で晋商(山西商人)と勢力を二分した。ドラマは乾隆後期を舞台に、幼馴染の三人の青年、汪宗昊(任泉)、程元亮(劉愷威)、汪無竟(高鉉)が商売を通してさまざまな経験を重ねていく姿と、三者三様のラブストーリーを描く。
 物語の背景には徽商の文化や思想が織り込まれ、中でも徽商たちの結束の固さは印象的。舞台となる揚州には新安会館があり商会が組織され、さまざまな決まりごとや不文律があるようだ。問題が起これば話し合い、各地の会館と連絡を取り合い、一致団結してことに当たる。先達は故郷から出てきた若者に商売を教え、面倒を見る。団結と助け合いの精神を称揚するドラマと見ることもできそうだ。
 ついでに、晋商の描かれ方も面白い。揚州の晋商の代表として登場する曹百万(倪増兆)という人物、百万という名前も俗っぽく(本名ではないのかもしれないが)、話しぶり、立ち居振る舞いもやや粗野なイメージ。しかも山西なまり丸出し。(もっとも、他にもなまりのある人物は登場。珍しい。)洗練された文化を誇る江南にあっては、山西人はこんなイメージだったのか。晋商ドラマだけ見ていては分からなかった。なかなかの人物で、意外に好人物だったのが救い。しかし、キャフタでは茶の商いにきた汪宗昊と程元亮を陥れようと晋商たちが汚い手を……。もっともここで二人の危機を救うのも晋商の一人なので、決して晋商が悪役なわけではないが、実際にこのようなグループ同士の暗闘もあったのだろうかと想像されて面白かった。
 ドラマのもう一つのテーマは、政治に翻弄される悲哀だろう。しかもこの時代にあっては、命の危険を伴う。それがドラマ冒頭の乾隆帝の行幸を迎える際のドタバタに鮮やかに象徴される。さらに悪徳官僚にとって、商人は軽蔑と搾取の対象でしかない。揚州にいても行商に出ても、訳の分からない名目の税金を山ほど取られ、言いがかりをつけられ大金を巻き上げられ、儲けがパーになりそうな勢い。(案外、現代でも似たようなことがあったりして。)
 特に、塩をめぐる不正は深刻で、塩税は国の重要な収入源であるはずなのに、大半が悪徳役人の懐に入る有様。ドラマのラストではとりあえず悪役は退治されるが、根本の改革がなされないままなので、役人の首をすげかえても情況はたいして変わらないだろうと思われ、今ひとつ爽快感がない。さらに、政治に関わるようになってきた汪宗昊の将来は大丈夫なのか、また、それぞれの恋人たちのその後はどうなるのかなど、いろんなことを視聴者の想像に任せてドラマは終了。
 映像は美しく、特に屋外、徽州の村や牌坊、運河を進む船などの映像がいい。監督の李小龍はブルース・リーと同名だが、女性。なるほど、ドラマ全体を通して繊細で丁寧なつくり。
 しかし。放送以来、ヒットどころか話題になった気配はなく。そして、残念ながらそれも当然かなと思える。悪くはないのに、何か物足りない。善人と悪人がはっきり分かれているのが単純すぎたのか。汪宗昊の危機には必ずいい人が現れるか、恋人が助けてくれるかなのが単調だからか。汪宗昊が借金しすぎで地に脚がついてないように見え、主人公たちに今ひとつ成長が感じられないからか。要するに、主人公に魅力が足りなかったか。主演の任泉は初辮髪、初のシリアス歴史劇に挑戦、アイドルからの脱皮を目指したが、出来は、うーん……どうだろ。(2009年9月)

あらすじ
   徽州の村の少年、汪宗昊、程元亮、汪無竟は幼馴染で親友同士。汪宗昊と程元亮は学問より商売をしたいと、父のいる揚州にやって来る。おりしも揚州の徽商たちは、乾隆帝の南巡を迎える準備でおおわらわ。汪宗昊の父はそのリーダー的立場だったが、それが仇となり、濡れ衣を着せられ労役に服すことになる。汪家は家財も没収され窮乏。汪宗昊は和泰布荘で徒弟修業を始め、あるじ胡文信の娘・胡玉玲と出会う。しかし先輩の葉記安の悪質ないじめに遭い、店を飛び出し、そのまま程元亮がキャフタへ茶を売りに行くのに同行する。無事に戻ると許されて店に戻り、広州での商品の販売を任される。しかし買い手がつかず困っていたところ、広東で知県となった汪無竟の兄・汪廷瀚が、予算ゼロで軍服の準備を命令され悩んでいるのに遭遇。なんと手持ちの布をすべて寄付してしまう。揚州に戻った汪宗昊は、激怒した胡文信に店を追われる。実は汪宗昊の留守中に、葉記安が職人たちを引き抜いて独立、布の仕入れルートをすべて押さえたため、和泰布荘は経営危機に陥っていた。汪宗昊は単身、生産地に赴き布の買い付けを試みるが、もちろん葉記安に邪魔される。汪宗昊は、工場を作り自分で布を生産しようと思いつくが。……

登場人物&キャスト
汪宗昊:任  泉
 徽州竺渓村の出身、裕福な塩商・汪仲連の一人息子。父が塩場送りになった後、和泰布荘での徒弟修業を手始めに商いの道へ。しかし次々とトラブルを起こし、揚州の徽商界で問題児扱いされるようになる。それでも少しづつ商売で成功し、やがては父と同じ塩商を目指す。本人の頑張りもあるが、うまくいくのはすべて見返りなしで協力してくれる親友たちと、恋人の胡玉玲と、なんのかんのいって無鉄砲な若者を温かく見守ってくれる年長者たちのおかげ。

胡玉玲:金素研(キム・ソヨン)
 和泰布荘のあるじ胡文信の一人娘、汪宗昊より2歳年上。汪宗昊が店に来たばかりのころから彼を気に入り、やがて愛するようになる。しかし汪宗昊は、すでに故郷に妻がいるのだった……。才知に長け、父の商売を助けるほか、やがて汪宗昊の商売のパートナーとしてなくてはならない存在になる。なぜか韓国の女優さん。

程元亮:劉愷威
 汪宗昊と幼馴染で親友。恒興茶荘のあるじ程省吾の一人息子で、身体を壊した父に代わって店を引き継ぐ。賢いけれども、直情径行で義理人情に厚く、時には損をするタイプ。自分の商売後回しで汪宗昊を助けてばかりいるが、大丈夫なのか。演じる劉愷威は、汪仲連役の劉丹の息子だそうだ。

汪無竟:高  鉉
 汪宗昊とは従兄弟同士らしい。家が貧しく、母の言いつけで、兄に学問を続けさせるために揚州へ働きに出る。頭はいいはずなのに、馬鹿正直で人がよすぎて、商売向きのキャラではないような。いつも眉をしかめて泣きそうな顔をしているか、実際に泣いているかのどちらか、という印象だ。揚州で出会った解銀子と純愛悲恋物語を展開。後には、和布の悪事の片棒を担がされることになり……。やや影が薄かったが、ラスト近くで一瞬主役に躍り出た。

一枝花:冷  静
 キャフタへの旅の途中で出会った旅芸人一座の花形女優。程元亮が一目惚れ。役人に言いがかりをつけられ足止めをくらった一行を助ける。後に広東で再会、程元亮の商用の旅についていったり、胡玉玲を手伝ったり。あとの二組が羨みそうなラブラブぶり。

解銀子:陳  蕾
 揚州痩馬(妾などとして売るための商品として育てられる娘。揚州の塩商など富豪の需要に応えるために始まったらしい)で、汪無竟の恋人。といっても、ずーっと離れ離れ。和布の妾として買われたが正妻に虐待された挙句に売り飛ばされ、転売を重ねて揚州に戻り、巴文藻に買われる。

汪仲連:劉  丹
 汪宗昊の父、塩商。揚州の徽商のリーダー的存在で、人望も厚い。役人同士の争いに巻き込まれ、無実の罪を着せられ、塩場に送られ重労働に従事することになる。一人息子の宗昊に、商売はするなと言いつけたのだが。汪宗昊が先輩たちに見捨てられずにすんだのは、お父さんの七光りのおかげも大きい。劉丹は香港の有名な俳優さん(オリジナル「上海灘」の馮敬堯など)。

巴文藻:達式常
 揚州の徽商の一人、塩商、汪仲連の友人。面倒見がよく、若者たちにも慕われている。汪宗昊の行状に頭を痛めながらも、結局何かと面倒を見てやる。

方菌児:王  楠
 汪宗昊の妻。宗昊を嫌っていたが、親の言いつけに背けずいやいや嫁いできたところ、婚礼の最中に舅が逮捕されるという修羅場。宗昊もそのまま家を出てしまったのに、婚家に留まり姑の面倒を見続ける。実家に戻るよういくら勧められてもがんとしてきかず、貧乏に耐えて苦労し続ける。

胡文信:薄貫君
 揚州の徽商の一人、和泰布荘を経営する。胡玉玲の父。可愛い一人娘と汪宗昊の関係に頭と心を痛める。

葉記安:趙  濱
 和泰布荘のトップ職人。いずれ胡玉玲の婿になると自他共に認めていたが、汪宗昊の登場で運命が狂う。わかりやすく汪宗昊をいじめ(あっさり同調する他の職人たちがなんとも……)、店を飛び出すよう仕向ける。さらに十数年働いた自分より汪宗昊を大事にするなんて、と胡文信をも逆恨み。麻知事に取り入って手を組み、自分の店を持ち、和泰布荘をつぶそうとする。最終的には、悪役にしては小者すぎて期待はずれ。

麻知事:劉長生
 塩運史・和布の手下の悪徳小役人。葉記安の店に出資し、汪宗昊つぶしにもまめまめしく協力。葉記安と麻知事、意外に本気で仲がよかったみたい。不思議。

方仲景:葉  釣
 揚州の新安商会の会長。お堅い性格。

曹百万:倪増兆
 揚州の晋商を代表する人物。銭荘を経営する。程元亮に借金を申し込まれ、キャフタ行きを提案、二人のその後の発展の基礎を提供。がめついようで意外に人がいいところもあり、結局何かと汪宗昊と程元亮を助ける。

汪廷瀚:馬光澤
 汪無竟の腹違いだが弟思いの兄。貧乏の中で学問を続けて進士となり、広州南海県の知県として赴任。金もないのに至急軍服製造の命令を受け進退きわまっていたところ、汪宗昊に和泰布荘の商品の布を無償で提供され、期日どおりに軍服を用意。これで仕事が出来ると評価され、山東徳州府、吏部侍郎と順調に出世。真面目すぎて役人に向かない性格じゃなかったのか。やがて両淮巡塩御史に抜擢され、揚州に赴任してくる。

和  布:尚印泉
 両淮塩運史。揚州の塩商たちを苦しめる悪徳役人。一応ドラマ最大の悪役。

胡  珏:関順田
 揚州の徽商の一人。永盛成銭荘を経営する。汪仲連に恩があったこともあり、工場設立の資金を調達したい汪宗昊に出資したうえ、いろいろとアドバイスをしてくれる。後に、自分の店で働くようになった汪無竟を可愛いがるが。

程省吾:沈  航
 程元亮の父。汪仲連が無実の罪を着せられた時、救出活動のため北京に赴いたところを仇に襲われ大怪我。それ以来病床生活になり、思い切って息子に店を任せる。

衛思斉:宋  韜
 絵で生計を立てている貧乏文人。解銀子に絵を教えていた。汪無竟と親しくなり、絵を教えてくれたほか、その後も私心なく何かと協力してくれる。

杜雨儂:欒祖遜
 富安塩場場課司大使。汪仲連はこの富安塩場で労役に服す。塩商はここで塩を受け取るために、こいつに多額の賄賂を渡さねばならないが、表向きはものすごい貧乏を装っている。夫人も不正に加担。

汪方氏:廖学秋
 汪宗昊の母。揚州に行ったきり帰らない夫を待ち続け、帰ってきたと思ったら夫は逮捕されて生き別れ。その後は、息子の仕送りにも手をつけず、嫁の方菌児と貧乏暮らし。

無竟娘:柏  寒
 汪無竟の母。継子の汪廷瀚を実の子以上に大事にするほか、儒教道徳の権化のような言動の数々。素直に立派な人だと思えないのは何故だろう。

曹  晟:馬維福
 軍機大臣。徽州出身の善玉。汪廷瀚を引き立てる。

端親王:孫宝光
 軍機大臣。皇族のせいか、もっとも勢力が大きいようだ。この人ともう一人の軍機大臣・桂盛の争いが揚州の商界にも影響を与える。

スタッフ
総顧問:孫起孟、陳錦華
総監製:臧世凱、李建、郎涛
総策劃:汪石満、高建民、湯達祥
監  製:張蘇洲、周蘇、程春麗
策  劃:狄鵬、王波岐、張東明、張培根、張愛国、張林林
出品人:馬潤生、黄伝新、陳田
責任製片:任魯芝、李蕭
責任編審:阮家棟、王樹明
製片人:金久余、余剛、汪培魯
芸術指導:馬潤生
編  劇:黄維若
導  演:李小龍

主題歌
片頭歌      作曲:銭平/演唱:銭平
片尾歌「心殤」 作曲:銭平/演唱:劉艶

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