「江山風雨情」と対になる作品と見ていいのだろうか。明の滅亡を描いた「江山」に対し、明に代わって新しい王朝を築いた清側の物語。監督はどちらも陳家林、オープニングもそっくり、製作会社も一部共通しているようだ。「江山」が群像劇といった趣だったのに対し、こちらは一貫してホンタイジの妃、順治帝の母である孝荘太后(大玉児)が主人公だ。
物語は大玉児とドルゴンを中心に、清朝内部の政治闘争などが描かれる。オープニングでさんざん派手な戦闘シーンが流れるが、戦争場面はドラマのほんの最初の部分だけで、いよいよ明が滅び、李自成を倒すあたりはあっさりスルー。あとは宮廷政争劇だ。かつて、ドルゴンこそがヌルハチの後継者となるはずが、ホンタイジが帝位を横取りした。大玉児はドルゴンと恋人同士だったが、ホンタイジの妃となり、福臨(順治帝)を産んだ。この2点が権力闘争の火種となり、そして愛し合うはずの二人の関係に影を落とす。
福臨の即位後、ドルゴンは自分自身と兄弟のため、大玉児は愛するわが子のため、政治的立場を異にするようになり、お互いを騙し、裏切るようなことさえする。そもそもホンタイジの死後、今度こそと帝位を狙ったドルゴンが福臨の即位を受け入れたのは、結局は大玉児への愛ゆえ。しかし、范浩正の策とはいえ、大玉児自身がわが子の即位の根回しをしたと知ったら、ドルゴンはどう思っただろう。その後は、結婚をダシに大玉児がドルゴンを手玉にとっているように見える。
大玉児を演じるのは「笑傲江湖」の許晴。宮廷のそしてドラマの中心にあって、廷臣たちと物語を引っ張っていく。ドラマの前半、ホンタイジを演じる姜文が期待に違わず良い。太っ腹だが細心なホンタイジを好演。何より見るからに大物くさい。
張豊毅が演じるドルゴンは、30代にしては、さらに言えば19歳年上のホンタイジより老けて見える。そもそも張豊毅は姜文より年を食ってなかったか? 慌てて確認すると、やっぱり。張豊毅が7歳年上だった。と、つまらないことをあげつらってしまうのは、私がもともと張豊毅を好きじゃないせい。演技はよいと思う。
個人的に意外な拾いものだったのは、范浩正を演じる孫淳。陳凱歌監督の「大閲兵」でのイメージが強かったのに、いつの間にかしぶいおじさんになっていた。(もう20年以上過ぎているのだから当然だった。)范浩正は架空の人物らしい。また、兄の范浩民に大玉児が投降を勧めるくだりは、明らかに洪承畴のエピソードの焼き直し。明朝側の重要人物は一切登場しないため、この兄弟は明に殉じた忠臣、清に仕えた漢人の重臣をそれぞれ代表する人物として造型されたのだろう。ついでに、ドルゴンのおまけのようなイメージしかなかったドドも、本作では出番も多く、キャラも立っていていてよかった。ヒゲが邪魔だが何気に美形だし。
順治10年(1953年)になっても、順治7年に死んだはずのドルゴンも、その前年に死んだドドもピンピンしていたのにはびっくり。たぶん、順治帝とドルゴンの対立を面白くするため、順治帝が大人になるまで時期を引き延ばしたのだろう。なので終盤は、かなりムリのある展開に。面白いから別にかまわないが。
一つだけ、「博爾済吉特」が大玉児の本名であるかのように使われていたのは解せない。(2007年2月)
※またのタイトルを「清宮風雲」。どちらがオリジナルなのか?
あらすじ
ドルゴンが黒山で范浩民率いる明軍を破ったちょうど同じ頃、荘妃・大玉児がホンタイジの第九子を産み、その子は福臨と名づけられた。投降を勧められた范浩民は、弟の范浩正を推薦し、范浩正はホンタイジに重用される。やがて病に倒れたホンタイジは、長子のホーゲとドルゴンの帝位争いを恐れ、ドルゴンの真意を試そうとする。……
登場人物&キャスト
皇太極(ホンタイジ):姜 文 | |
孝荘(大玉児):許 晴 | |
多爾袞(ドルゴン):張豊毅 | |
范浩正:孫 淳 | |
多鐸(ドド):李光潔 | |
阿済格(アジゲ):楊立山 | |
済爾哈朗(ジルガラン):徐正運 | |
鰵拝(オーバイ):郭 涛 | |
范浩民:王絵春 | |
蘇 蘭:韓 暁 | |
何洛会:徐豊年 | |
劉光才:侯正民 | |
福臨(フリン) 5歳:原島大地/10歳:劉潭源/16歳:居以諾 | |
索尼(ソニン):徐宝忠 | |
豪格(ホーゲ):盧星宇 | |
代善(ダイシャン):廖丙炎 | |
碩 果:楊 鋒 | |
蘇克薩哈(スクサハ):張 浩 | |
宸 妃:陳剣月 |