大清風雲

全50集/2005年

 「江山風雨情」と対になる作品と見ていいのだろうか。明の滅亡を描いた「江山」に対し、明に代わって新しい王朝を築いた清側の物語。監督はどちらも陳家林、オープニングもそっくり、製作会社も一部共通しているようだ。「江山」が群像劇といった趣だったのに対し、こちらは一貫してホンタイジの妃、順治帝の母である孝荘太后(大玉児)が主人公だ。
 物語は大玉児とドルゴンを中心に、清朝内部の政治闘争などが描かれる。オープニングでさんざん派手な戦闘シーンが流れるが、戦争場面はドラマのほんの最初の部分だけで、いよいよ明が滅び、李自成を倒すあたりはあっさりスルー。あとは宮廷政争劇だ。かつて、ドルゴンこそがヌルハチの後継者となるはずが、ホンタイジが帝位を横取りした。大玉児はドルゴンと恋人同士だったが、ホンタイジの妃となり、福臨(順治帝)を産んだ。この2点が権力闘争の火種となり、そして愛し合うはずの二人の関係に影を落とす。
 福臨の即位後、ドルゴンは自分自身と兄弟のため、大玉児は愛するわが子のため、政治的立場を異にするようになり、お互いを騙し、裏切るようなことさえする。そもそもホンタイジの死後、今度こそと帝位を狙ったドルゴンが福臨の即位を受け入れたのは、結局は大玉児への愛ゆえ。しかし、范浩正の策とはいえ、大玉児自身がわが子の即位の根回しをしたと知ったら、ドルゴンはどう思っただろう。その後は、結婚をダシに大玉児がドルゴンを手玉にとっているように見える。
 大玉児を演じるのは「笑傲江湖」の許晴。宮廷のそしてドラマの中心にあって、廷臣たちと物語を引っ張っていく。ドラマの前半、ホンタイジを演じる姜文が期待に違わず良い。太っ腹だが細心なホンタイジを好演。何より見るからに大物くさい。
 張豊毅が演じるドルゴンは、30代にしては、さらに言えば19歳年上のホンタイジより老けて見える。そもそも張豊毅は姜文より年を食ってなかったか? 慌てて確認すると、やっぱり。張豊毅が7歳年上だった。と、つまらないことをあげつらってしまうのは、私がもともと張豊毅を好きじゃないせい。演技はよいと思う。
 個人的に意外な拾いものだったのは、范浩正を演じる孫淳。陳凱歌監督の「大閲兵」でのイメージが強かったのに、いつの間にかしぶいおじさんになっていた。(もう20年以上過ぎているのだから当然だった。)范浩正は架空の人物らしい。また、兄の范浩民に大玉児が投降を勧めるくだりは、明らかに洪承畴のエピソードの焼き直し。明朝側の重要人物は一切登場しないため、この兄弟は明に殉じた忠臣、清に仕えた漢人の重臣をそれぞれ代表する人物として造型されたのだろう。ついでに、ドルゴンのおまけのようなイメージしかなかったドドも、本作では出番も多く、キャラも立っていていてよかった。ヒゲが邪魔だが何気に美形だし。
 順治10年(1953年)になっても、順治7年に死んだはずのドルゴンも、その前年に死んだドドもピンピンしていたのにはびっくり。たぶん、順治帝とドルゴンの対立を面白くするため、順治帝が大人になるまで時期を引き延ばしたのだろう。なので終盤は、かなりムリのある展開に。面白いから別にかまわないが。
 一つだけ、「博爾済吉特」が大玉児の本名であるかのように使われていたのは解せない。(2007年2月)

※またのタイトルを「清宮風雲」。どちらがオリジナルなのか?

あらすじ
 ドルゴンが黒山で范浩民率いる明軍を破ったちょうど同じ頃、荘妃・大玉児がホンタイジの第九子を産み、その子は福臨と名づけられた。投降を勧められた范浩民は、弟の范浩正を推薦し、范浩正はホンタイジに重用される。やがて病に倒れたホンタイジは、長子のホーゲとドルゴンの帝位争いを恐れ、ドルゴンの真意を試そうとする。……

登場人物&キャスト

皇太極(ホンタイジ):姜 文
 清の皇帝。ヌルハチの第八子。正黄旗を率いる。かつて弟のドルゴンのものだった帝位を奪い、ドルゴン兄弟の母ウラナラ氏を殉死させたという。明を滅ぼす直前まで行ったところで無念にも急死。息子のホーゲの行く末をひそかに心配している。

孝荘(大玉児):許 晴
 ドルゴンと相思相愛だったが、ホンタイジに嫁ぎ、荘妃に封じられる。ホンタイジの死後、息子の福臨が即位するとともに皇太后となり、智謀と胆力で幾度も清の危機を支える。息子とドルゴンの対立に心を痛め続けるが、何のかんの言ってドルゴンを掌の上で転がしているような。

多爾袞(ドルゴン):張豊毅
 ヌルハチの第十四子。鑲黄旗を率いる。ホンタイジの死後、甥のホーゲと帝位を争うが福臨に譲り、自身は摂政王となり正黄旗も預かる。その後も帝位への未練と大玉児への愛に揺れ続ける。大玉児のほかは、同母兄弟のアジゲとドドが何より大事。意外にお人よし。

范浩正:孫 淳
 もとは明を見限って野に隠れていた文人。兄・范浩民の推薦を受けたホンタイジの招聘で清に仕え、重用される。文武両道で、大玉児の信頼も厚く、困った時に的確な献策をしてくれる忠臣。順治帝の師でもあり、慕われている。

多鐸(ドド):李光潔
 ヌルハチの第十五子。ドルゴンの同母弟。豫親王。正白旗を率いる。短気で粗暴だが、意外に頭はよい。ドルゴンを皇帝にするのが願い。そのため、障害となる大玉児を嫌い、その腹心である范浩正とも敵対する。

阿済格(アジゲ):楊立山
 ヌルハチの第十二子。ドルゴンの同母兄。英親王。鑲白旗を率いる。やはりドルゴンが皇帝になるのを願っている。

済爾哈朗(ジルガラン):徐正運
 ヌルハチの甥。ホンタイジの従兄弟。鄭親王。順治帝が即位すると、副摂政王となる。ふだんは温厚な穏健派。

鰵拝(オーバイ):郭 涛
 もとホーゲ率いる正白旗の副都統だった。満州第一勇士との誉れが高い。ホーゲが帝位争いに敗れた後、ドドに殺されそうになったところを大玉児に救われ、大玉児に忠誠を誓う。本作では真面目で正義感が強い忠臣なので、この人が将来ああなって、あんな末路を迎えるのかと思うと泣ける。

范浩民:王絵春
 黒山の戦いで清の捕虜となる。ホンタイジとその依頼を受けた大玉児に投降を説得されるが。弟の范浩正を自分の代わりに推薦する。

蘇 蘭:韓 暁
 大玉児の遠縁の娘で傍仕えの宮女。大玉児は姪として扱っている。碩果と恋に落ちる。

何洛会:徐豊年
 ドルゴンの腹心。ドルゴンのためなら皇帝にだって楯突く。

劉光才:侯正民
 明朝時代からの宦官。大玉児と福臨に忠誠を捧げる一方、ドルゴンにも手なずけられるが。

福臨(フリン) 5歳:原島大地/10歳:劉潭源/16歳:居以諾
 大玉児が生んだホンタイジの九男。即位して順治帝となる。子供の頃からドルゴンと母との関係が許せず、ドルゴンを激しく憎む。やがて摂政王として実権を握るドルゴンを排除し、親政を志す。子役二人もうまい。

索尼(ソニン):徐宝忠
 内務府総管。ホンタイジの信頼厚く、帝位争いでは最初はホーゲにつくが、結局は乗り換える。おかげでその後も健在。

豪格(ホーゲ):盧星宇
 ホンタイジの長子。粛親王。正白旗を率いる。父の死後、叔父のドルゴンと帝位を争うが、思いかけず幼い弟の福臨にさらわれてしまった。若いせいもあり、父や叔父に比べて役者不足は否めない。

代善(ダイシャン):廖丙炎
 ヌルハチの第二子。礼親王。正紅旗を率いる。事なかれ主義を通しているのは、二人の息子を亡くしており、ただ一人の孫・碩果の将来を思ってのこと。かつてホンタイジとともにウラナラ氏の殉死にかかわったためドルゴン三兄弟に憎まれている。

碩 果:楊 鋒
 代善のたったひとりの孫。若さゆえか一本気で、祖父の態度を歯がゆく思っている。ホーゲにそそのかされ、ドルゴン暗殺を決行するが。

蘇克薩哈(スクサハ):張 浩
 安郡王。鑲紅旗を率いる。影がうすくて日和見主義者っぽい。

宸 妃:陳剣月
 出番はほんの一瞬なのだが、「紅楼夢」で香菱を演じていた女優さんなので画像を載せてみた。面影はある……かな?


スタッフ
出品人:楊歩亭、李康生、王慶、江佩珍
総製片人:韓三平、朱誠
芸術総監:熊郁、史東明
製片人:宋振山、井崗、穆暁光
総策劃:韓国強、余瑞金、万克、周紹成、戴川平
総監製:陳文、高桂琴、姜涛、呂華徳、聶南、林進籌
策 劃:徐之浩、智広平、劉郡、張少輝、呉宏亮
監 製:張晶輝、楊徳建、王東潮、鄭川、王雷
編 輯:王海帆、田魯民、安琪、嘉蕙
統 籌:張丹、張魯峰
編 劇:魯新国
美 術:易振洲
撮 影:陳珂
作 曲:呉旋
録 音:張敏
灯光設計:莫徳凱、戴軍
剪 輯:周新霞
服装設計:侯雲怡
化粧造型:陳敏正、包東
執行製片人:劉二棟
制片主任:蒋暁群
執行導演:陳衛国、劉海涛
導 演:陳家林、井崗

主題歌
片頭歌「天圓地方」  作詞:石寧生/作曲:呉旋/演唱:薛皓垠
片尾曲「陰錯陽差」  作詞:石寧生/作曲:呉旋/演唱:袁固

上 へ   電視劇一覧   トップページ