大明王朝 -1566-

全46集/2006年

 渋い。オープニングを見ても美男美女が一人もおらず(実際にドラマ見ると、まあ一人くらいはいた)、第1集の大半は、直立不動の御前会議。それからも皆が難しげで陰気な顔をしているし、宦官が多くてなんだか陰湿な雰囲気。一応主人公である海瑞は、第6集でやっと登場。一応、というのは登場場面が意外に少ないからだ。シリアス系歴史ドラマお得意の群像劇。
 そこに描かれるさまざまな人物とは。おバカ皇帝かと思っていた嘉靖帝(陳宝国)が意外に賢い! しかし政治に身を入れず好き勝手しているのだから、やはりおバカ同然か。いわゆる奸臣だと思っていた厳嵩(倪大宏)が、やけに立派で人情味もある! そして、厳嵩にへつらったりと評判がよくない胡宗憲(王慶祥)は、正義と厳嵩の恩の板ばさみになりつつ倭寇退治と民のために心を砕く、かっこいいおじさんだ! 憔悴し、悲壮感まで漂っている。その他、一部を除いて、何人もの宦官たちも、錦衣衛など悪役っぽく登場した連中も、最終的にはけっこうまとも。それならもう少しいい世の中になってもよさそうな気がするが、まあ案外そんなものかな、ととりあえず納得することにする。海瑞(黄志忠)は主人公らしく正義感が強く剛直な人物だが、マザコンで少々エキセントリック。見た目がぱっとしないところもいい。
 演じる俳優陣はみな素晴らしいが、私が個人的に主演男優賞をあげたいのは、厳嵩を演じる倪大宏だ。すでに81歳、よぼよぼの厳嵩を演じた当時、倪大宏は47歳。毎日3時間かけたという老けメイクもなかなかだが、あの挙止、表情、息も絶え絶えな様子! 最初、本当に高齢の俳優が演じているものと信じて疑わなかった。この人は「喬家大院」で孫茂才を演じている。インパクトのあるおっさんだとは思っていたが、こんなにすごい俳優だったとは。おみそれしました。
 タイトルにある1566年(嘉靖45年)とは、海瑞が皇帝を批判する上疏をして投獄され、嘉靖帝が崩御した年。ドラマはこのクライマックスに向かって物語を紡いでいく。前半は浙江を舞台に、海瑞の官界デビューと、官の不正と悪事を暴くための戦い。七品の県令にすぎない海瑞が朝廷を震撼させ、その名は嘉靖帝と廷臣たちの脳裏に刻まれる。やがて戸部主事となって北京に赴任し、政治の混乱と腐敗を目の当たりにした海瑞は、ついに上疏の決意をする……。この物語に文革の引き金となった『海瑞罷官』事件を思い出してしまうのは、私だけではないと思う。作者も作品もとうに名誉回復され、たびたび上演されているそうだが、今このテーマをドラマにするについては、どういう意図があるのか、いろいろと深読みしたくなる。
 綿密に練られた脚本、それを助けるのは、計算し尽され、どの場面を切り取っても絵になる美しい映像(池小寧、ああ惜しい人を亡くした!)。ただ「漢武大帝」で見たようなヘンに凝った編集が時々鼻につき、しばしば挿入されるモノクロ場面の意図が分からないこともあった。しかし、セットや美術、小道具など細部にまでこだわった演出は素晴らしい。
 と、せっかく感動しながら見ていたのに。やはりタダではすまないのか、中国のドラマは。嘉靖40年のつもりで見ていたところ、第27集で突然「嘉靖45年7月15日」と字幕が。しかし物語は半月ほどしか過ぎていない。しかし嘉靖40年の割りには、生後半年のはずの子供がずいぶん成長している。となると、やはり嘉靖45年なのか。時間の流れが狂ってる、と怒りながら見ていると、しばらくして再び「嘉靖40年」と。……単に字幕のミスだったらしい。本気で悩んでしまった、どうしてくれる!! 子供の成長ぶりは……気にすまい……。
 そして、これほどのドラマでも、ああ音楽が。大半は趙季平の手になる音楽が流れるのだが、時々ここぞというところで、違和感のある曲が流れるのだ。特に、あんな場面で突然流れたショパンの「子犬のワルツ」! 演出の意図を説明して欲しい。
 ちなみに、倭寇の連中は日本語を話している。「文法的には間違っていないけど、日本人はそんなふうに言わないよ」的な日本語を。しかも中国人がしゃべっているので、何を言っているのか聞き取れないことも。まあ中国の視聴者が日本語だと思える程度で充分なのだろう。
 などなど、気になる点は多少あるものの、地味で暗くてお堅いけれども、間違いなく良質のおすすめドラマだ。続編の計画もあるらしいので、期待したい。 (2008年2月)

あらすじ
 嘉靖40年、財政を補うため、浙江で絹織物の大増産が計画される。しかし強引に水田をつぶして桑畑に変えるやり方、金儲けを企む役人たちのため浙江は混乱。業を煮やした厳世藩は、農地を一気につぶすため堤防の破壊を命じる。水害に遭った淳安県の県令となったのが海瑞だった。海瑞は政策を批判。浙江巡撫・鄭泌昌らは自らも悪事に手を染め、かつ問題の根は厳世藩と宮中に繋がるため、事件を隠蔽しようとさらに悪事を重ねる。紆余曲折の末、海瑞は事件の真相を暴くものの……。約3年後、海瑞は戸部主事として北京に赴任する。そこで目にしたのは、破綻した財政を顧みず宮殿を増築する皇帝、官吏の給料の遅配、飢饉による死体の山。そして、嘉靖45年(1566年)を迎える。……

キャスト&人物紹介
嘉  靖:陳宝国
  朱厚熜。明の第12代皇帝。道教を信じ、不老長寿を得るため修業を続けている。もう20年も朝廷に出ていない。1507年~1566年(在位1521年~1566年)。

海  瑞:黄志忠
  字は汝賢、号は剛峰。海南瓊州人。挙人止まりで福建南平県の教諭だったが、旧知の譚綸が裕王に紹介。裕王の推薦によって、浙江・淳安県の知県に任じられる。1514年~1587年。

胡宗憲:王慶祥
  字は如貞。初登場時は浙直総督兼浙江巡撫、後に浙直総督。浙江で倭寇との戦いを指揮する。厳嵩の引き立てて出世したため、その手下とみなされているが、民のため朝廷のため恩人の厳嵩のために心を砕く苦労人。1512年~1565年。

厳  嵩:倪大宏
  内閣首席。青詞宰相と揶揄されつつも20年にわたって政権を握り、この人がいなければ政治は回らない状態。過去には悪どいこともやってきたのだが、今ではかなり枯れて、バカ息子の押さえもきかなくなりつつある。1480年~1567年。

海  母:祝希娟
  海瑞の母。やたらと気が強い。演じる祝希娟は、かつて映画「紅色娘子軍」などで主演した有名ベテラン女優。

呂  芳:徐光明
  司礼監の掌印太監。嘉靖帝の信頼も厚い宦官のトップ。宦官たちから「老祖宗」と呼ばれる。宦官がみな義理の父子になって擬似家族を作っているのは、面白いようなグロテスクなような。

厳世藩:張志堅
  字は東楼。厳嵩の息子。父親とともに長年政治を牛耳ってきたが、かなり軽め。いかにも父親の七光という感じだ。?年~1565年。

裕  王:郭広平
  朱載垕。嘉靖帝の現在唯一の皇子で、皇太子同然の扱い。後の隆慶帝。徐階、高拱、張居正らとともに厳嵩一派による政治腐敗を嘆き、あれこれ対策をたててはいるものの、今いち頼りなさげ。ドラマでは名君になりそうだが。1537年~1572年(在位1566年~1572年)。

李  妃:閻  妮
  裕王の側妃。後の万暦帝を生む。賢く、常に裕王を助ける。

徐  階:蕭  竹
  内閣の次席。裕王の師。厳嵩ともうまく付き合いつつ朝廷を支え、厳嵩失脚後は内閣の首席になる。1503年~1583年。

高  拱:劉毓浜
  字は粛卿。内閣の一員。徐階とともに裕王派。剛直というより、少々単純で気が短い感じ。1512年~1578年。

張居正:郭東文
  号は太岳。徐階、高拱とともに裕王を助ける。万暦初期を支えた鉄腕宰相も、先輩たちに囲まれてまだ若輩者。世子(後の万暦帝)の師でもある。ラスト近く、政治改革を熱く語るシーンがあり、続編が楽しみ。1525年~1582年。

楊金水:王勁松
  江南織造局(絹の生産を司る)を監督する宦官。呂芳の「義理の息子」。外国の商人と絹50万匹の売買契約を取り交わし、「改稲為桑」政策を進めようとする。

陳  洪:劉立偉
  黄錦とともに呂芳に次ぐ宦官ナンバー2か3かどちらか。野心満々で、呂芳の後釜を狙う。演じる劉立偉は「射鵰英雄伝」の柯鎮悪。他にいいドラマがないのかと思っていたが、ようやくよい仕事をした。

黄  錦:趙  雍
  司礼監秉筆太監。呂芳が去った後は、もっとも親しく嘉靖帝に仕える。まともでいい人らしく、陳洪とは対立する。

趙貞吉:徐  敏
  字は孟静。初登場時は応天巡撫。徐階の弟子だが、胡宗憲とも親しい。浙江巡撫として赴任した時には海瑞とうまくいかず。後に戸部尚書に栄転、再び海瑞の上司となる。決して悪い人ではないんだけどねえ。1508年~1576年。

王用汲:鄭  玉
  字は潤蓮。海瑞と同時に浙江の建德県の知県となり、生涯の親友となる。実に誠実ないい人で、この人が出てくると和んだ。1528年~1593年。

鄭泌昌:甘  雨
  最初は浙江布政使、後に浙江巡撫に。江南織造局や沈一石とつるむ悪徳役人。「改稲為桑」政策を進めようとするが海瑞に邪魔され、それを挽回するためどんどん泥沼に。

何茂才:王  戎
  最初は浙江按察使、後に浙江布政使兼按察使。鄭泌昌と同じ穴のムジナ。

李時珍:張子建
  名医。かつては宮廷の太医だった。偏屈だが、海瑞と親交を結ぶ。「本草綱目」を完成させるのはまだ先のこと。1518年~1593年。

高翰文:譚  凱
  翰林院の編集だったが、厳世藩の肝いりで「改稲為桑」政策を進めるため杭州知府として赴任。しかし、現実を目の当たりにして、自分の考えの甘かったことに気づかされる。誠実に職務を遂行しようとするが。

芸  娘:王雅劼
  もと秦淮の名妓。沈一石に買われ、後に楊金水に差し出されていた。高翰文を陥れるために利用される。

譚  綸:王  宇
  字は子理。もと裕王府詹事、裕王の意を受けて浙江の胡宗憲の下で働く。海瑞を裕王に推薦した。史実の譚綸は倭寇退治の名将らしい。1520年~1577年。

馮  保:徐成峰
  最初、東廠提督太監。呂芳の「義理の息子」。わけあって裕王府で働くことになり、世子(後の万暦帝)になつかれる。万暦即位後にやりたい放題の彼も、現在は苦労中。?年~1583年。

沈一石:趙立新
  江南織造局を実質的に経営する御用商人で大富豪。織造局の不正のすべてを知る。何を考えているのかよく分からないところが、なんとも。

斉大柱:晋  松
  淳安県の桑農家。「改稲為桑」に反対したため、倭寇と通じたとのでっち上げで処刑されかかるが海瑞に救われ、以後海瑞を恩人として崇める。海瑞の紹介で仲間とともに戚継光軍に身を投じる。

朱  七:楊光華
  錦衣衛の偉い人らしい。浙江の事件の監督のために派遣される。

戚継光:陳之輝
  台州総兵。胡宗憲の下で倭寇との戦いを遂行する。

世  子:穆泓屹
  裕王の息子。赤ん坊の時から馮保に異常になついている。可愛いくて賢くて、いかにも名君になりそうに見えるが、おじいちゃんに輪をかけた万暦帝なんだよね……。1563年~1620年(在位1572年~1620年)。

スタッフ
総監製:魏文彬、陳辞
総策劃:侯磊、張松林
歴史顧問:劉澤華、馮爾康
文学顧問:洪寿祥
製作人:劉向群、田涛、王付合
監  製:王萍、劉一平、陳軍、姚自敏、張作栄
策  劃:梁映敏、李浩、張勇、賈会英、廖小平
撮影総監:池小寧
美術設計:趙海
作  曲:趙季平
総導演:張黎
編劇・総製片人:劉和平
出品人:欧陽常林、王文領、彭鉄林

主題歌
片頭歌「治世民為天」   作詞:欧陽常林/演唱:譚維維
片尾歌「海闊天青」  作詞:易茗/作曲:趙季平/演唱:譚晶

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