女帝・武則天の娘、太平公主の生涯。母を補佐し、母の死後も権勢を振るい、権力争いを繰り広げた史実のイメージとはかけ離れ、ひたすら愛や感情の動きを中心に展開する文芸ドラマだ。幸福な少女時代と初恋、不幸な結婚生活、母との葛藤の歳月、張易之との愛、母の死後の宮廷内の権力争い。親子兄弟、愛する人たちが一人ひとり太平公主の前から消えていく。権力闘争もことごとく愛憎ドラマに帰結しているのがすごい。
衣装(ティン・イップ)や道具、カメラワークなど隅々まで繊細で美しく、ドラマ全体が荘重かつ華麗な雰囲気で、芸術作品と呼べるかもしれない。影絵芝居が愛を伝えるアイテムとして効果的に使われるのが印象的だった。脚本は構成がしっかりしているが、誰も彼もが語りまくる現代文章語の凝った台詞の数々が歯が浮きそうで私は苦手。
まず印象に残った人物は、可憐な少女時代の太平公主。演じているのは周迅。あまりに魅力的なので、陳紅に交替した時にはがっかりしてしまったくらいだ。陳紅は、美しさには文句のつけようがない。しかし何と言っても素晴らしいのは、武則天を演じる帰亜蕾だ。カリスマ性があるという風ではないが、にじみ出る気品と知性。威厳、強さ、恐ろしさばかりでなく、弱さ、女の業のようなものや慈母の顔などいろいろな面を見せてくれて興味が尽きない。主役はこっちだと何度も思ってしまった。
もと全40話だったものが、検閲にひっかかったのかカットされて37話になったらしい。前半、武則天と長男・李弘との対立、なぜ李弘が心を病むに至ったのかが分かりにくかったのはそのせいか。いったいどんな場面があったのだろう。(2007年2月)
あらすじ
唐の高宗と皇后・武氏の愛娘・太平公主はお忍びで街に出た時に出会った薛紹に恋し、両親に賜婚を請う。しかし薛紹には身重の妻がいた。武后は彼女に自殺を命じ、薛紹は侍女を身替りに妻を隠す。何も知らずに太平が嫁いできた日、薛紹の妻は息子を産んで死んでしまった。以来、薛紹は太平に冷たく当たる。5年後、太平はついに事情を知るが、それが夫の死をもたらした。その後、太平は薛紹への思いと母とのわだかまりを抱えて生きていくことになる。
登場人物&キャスト
| 武則天:帰亜蕾
高宗の皇后、後に自ら帝位に就く。過去に王皇后を失脚させるため産まれたばかりの長女を殺したため、その埋め合わせのように末娘の太平公主を愛する。娘の恋をかなえるために薛紹夫妻を引き裂いたことが母と娘の不幸の始まり。しかし、きわめて政治的な母と感情的な娘が対立するのは必然だったかもしれない。 |
| 太平公主:陳 紅
薛紹への不幸な恋の顛末がトラウマになり、そのまま不幸をひきずっていく(撒き散らしている感も)。その後は、母へのあてつけで愛してもいない武攸嗣に嫁ぐ。食客の王維とはちょっとプラトニックな関係に。張易之と愛欲の世界に溺れ、50歳で若い甥の李隆基(後の玄宗)に愛を告白される。いや、すごいドラマ。 |
| 太平公主(少女時代):周 迅
輝いてます。どうやら周迅の出世作らしい。吹き替えの声が本人と似ても似つかないのが気になるが、このドラマにはこれで合っているか。 |
| 薛 紹:趙文瑄(ウィンストン・チャオ)
太平公主に一方的に恋されたおかげで愛妻を失ったため、嫁いできた太平公主に対して冷淡な態度を取り続けるが。 |
| 張易之:趙文瑄(ウィンストン・チャオ)
薛紹と瓜二つなのはただの偶然。栄耀栄華のために官途よりもジゴロの道を選ぶ。弟の張昌宗のつてで武則天に仕える。娘婿のそっくりさんを侍らせる武則天もちょっと怖い。 |
| 李 治:李志輿
高宗。無気力で皇后に政治をまかせているが、決して愚かではない。 |
| 武三思:申軍誼
武則天の甥。太平公主に求婚したがふられた。武一族のリーダー的存在になり、後に太平公主とも敵対する。 |
| 武攸嗣:傅 彪
武三思の弟か従弟(実在しない人物)。太平公主の二度目の夫。田舎者まる出しの愚鈍な善人。身の程知らずに太平公主に恋したのが不幸。 |
| 韋 氏:賈 妮
少女時代、太平公主の学友で仲良しだった。後に李顕に嫁ぐ。帝位を失った夫を支えて13年間苦労し、返り咲いてからは過去の不幸を取り戻そうとやっきになる。少女時代を演じたのは胡静。 |
| 李 弘:劉 棟
高宗と武則天の長男。皇太子となるが母と対立し、精神を病んで他界。 |
| 李 賢:孫 斌
次男。兄の死後は皇太子となるが、母に反発して謀反の疑いをかけられ配所で死亡。 |
| 李 顕:郭東林
三男。高宗の後を継いで即位(中宗)。しかしすぐに皇位を追われ、房州に配流に。13年後呼び戻され皇太子となり再び即位するが、実の娘に毒殺される。香が趣味。 |
| 李 旦:王 涛
四男。中宗の後に即位(睿宗)。母に譲位し、田舎に隠れ住む。鳩の飼育が趣味。以上4人が太平公主の兄たち。 |
| 魏国夫人(賀蘭氏):何 琳
武則天の姪(姉の娘)。高宗に愛されるが、身の程知らずにも武則天に楯突こうとしたため、消される。 |
| 安楽公主:李冰冰
李顕と韋氏の娘。気性が激しく、過去の不幸の反動で権力欲が強い。不甲斐ない父に不満で、謀反に連座した夫を救おうとしてくれないばかりか退位をほのめかす父を憎み毒殺する。 |
| 張昌宗:高冬平
晩年の武則天の男妾。張易之の弟。白塗りと口紅が見ていてキツイ。この兄弟は他のドラマでもこうだし、「白玉のごとき面、朱をさしたような唇」といったイメージをビジュアル化するとこうなるのかな。 |
| 李隆基:呉 軍
李旦の息子。後の玄宗。幼い頃から聡明で李家の期待の星。おばの太平公主に可愛がられ何かとかばってもらい、感謝の念とともに恋心を抱く。 |
| 崔緹(薛崇諫):李愛軍
薛紹と前妻の間の息子。幼名は葉児。太平公主はわが子のように愛するが、父と一族の罪に連座して長安を追われる。長じて身分を隠して長安に戻り、李隆基と友となる。 |
| 薛懐義:趙 毅
武則天の最初の愛人。一応坊主なのになぜ長髪なのかは不明。 |
| 武承嗣:傅 亨
武則天の甥。武三思の従弟。つねに武三思にくっついている。 |