「大漢天子Ⅱ」から18年後。黄暁明だからあまり老けていないが、今回の武帝は主人公の座を次の世代に譲り渡してしまった。「Ⅰ」「Ⅱ」の回想シーンもあり、物語もきちんとつながっているのはうれしい。しかし、要らぬCGと造花が（造木も）増えた。セットは「漢武大帝」と同じものを使いまわしているようだが、ずっとちゃちく見える。
東方慧（朔）に去られたことを今でも悔やみ続ける武帝は、東方慧の弟子を自称するペテン師・江充に手もなく騙されてしまい、それが悲劇をもたらす。普段は疑り深い武帝も、東方慧と聞いたとたんに思考停止状態になり、なぜかこいつの言いなりになるのだ。江充を演じる孫海英は、「Ⅰ」の陳道明、「Ⅱ」の王剛に続く、ドラマの華（？）。のはずだったが、正直、もう少し大物かと期待していたのにな……。いや、孫海英は悪くない、悪いのは脚本だ。江充は武帝の不老長生の願いをつつくことで信頼を得るのだが、武帝が不老長生の秘薬探しにのめりこんでいく過程にやや説得力が乏しいのも残念だ。
その他のベテラン陣もいい味を出しているが、衛青（董勇）も季安世（楊平友）もおとなしくなってしまった。秋嬋（李菲）、衛皇后（茹萍）の熟女勢は華があっていい。
今回、物語の中心となるのは、太子・劉據（趙熠洋）を始めとする、「Ⅱ」までの主役らの子供たち。しかし、当然彼等の間で友情やらラブストーリーやら葛藤やらが展開するものと思いきや、もちろんあるが、なんだか不発。もっと面白くしようと思えばできたのではないかと思える。武帝が本人たちの意向を無視した縁組を何度も何度も命じるのには、「またかい！」とTVに向かって叫びそうになった。そもそも脚本が大雑把すぎて、大勢のキャラをうまく生かしきれていない印象だ。特に李漢（高昊）と季擒虎（路焜）はもっとキャラの違いを際立たせるとかすればさらに面白くなったのではないか。冒頭、顔を覚えるまで区別がつかなくて困った。覚えてしまえば全然似ても似つかないのだが、もう少しキャラ立ちしていればと惜しまれる。単に、二代目がみんな先代より小粒になってしまっただけなのだろうか。大勢の若手がせっかく頑張っているのにもったいない。
ちなみに新世代派のうち私のお気に入りは、王印（翔子）。見た目が地味なので、最初はこんなに活躍するとは思わなかった。彼と武帝の対決（？）シーンが好きだったのだが、せっかく人材を見出しておきながら、もううまく使いこなせない武帝。老化現象か。
結局、いい場面があってもそれが有機的に展開していかないのだ。だいたい、秋嬋も王印も、江充のペテンを知ったのに何もせずにほっておくとは何事だ（どうせ武帝に信じてもらえないとあきらめてたのか）。といった調子で、全体的に脚本がゆるく、荒い。冒頭に蘇武が匈奴への使者として出発するシーンがあったのに、それっきりなのもあんまりだ。父親（李陵）の消息が気になる李漢がわざわざ見送り、蘇武も「任せなさい」みたいなことを力強く答えていたのに、あれは何だったのか。
クライマックスの巫蠱の乱も展開が雑すぎる。全40話、そこそこ楽しく見たけれど、なんだか欲求不満。「Ⅱ」でやめとけばよかったのに、といえば言いすぎだろうか。（2007年７月）
※DVD・VCDタイトルは「漢武大帝２」。ふざけてる。
あらすじ
太子はかつての武帝らの義兄弟の契りをまねて、李漢と季擒虎と義兄弟となる。さらに東方慧のような軍師が欲しいと思っていたところに現れたのが、東方慧そっくりの文字占いをする江充だった。江充は東方慧の弟子と自称し、東方慧と面識のあった衛皇后や秋嬋、そして武帝までもがこれを信じる。取り立てられた江充は武帝の不老長生への希求をあおり、さらに太子との離間を図ろうとする。……
登場人物＆キャスト
漢武帝：黄暁明
匈奴の脅威も去り、謀反も平定、天下泰平、で、ヒマになったのか。不老長生を求める、頭の悪い、思い込みの激しいわがまま皇帝に成り果てた。いや、思い込みが激しいのもわがままなのも昔からだが、もう止めてくれる人がいないのか、聴く耳を持たなくなったのか。泣いても後悔しても、自業自得です。
霍祁連：安以軒（アディ・アン）
霍去病と秋嬋の娘。じゃじゃ馬で、母親ゆずりの武芸の腕を持っているらしい。母が養子とした李漢とともに育つ。太子、公主とも仲がよい。人気女優なのだろうが、正直、この娘が主役に次ぐ扱いなのには納得いかない。
江 充：孫海英
東方慧（東方朔）の弟子を自称するペテン師。長安の街角で文字占いをしていたが、武帝に気に入られ取り立てられる。不老長生を求める武帝の心理につけ込んで栄耀栄華をもくろみ、さらに武帝後を睨んでのことか、太子を陥れようとする。見るからに胡散臭いのに、みな何故こいつを信じるんだ。
秋 嬋：李 菲
今では護国夫人に封じられている。李勇（李陵）と臙脂公主の息子・李漢、霍去病との間の娘・霍祁連を女手ひとつで育ててきた。武芸の腕は今でも一流。普段はおとなしくしているが、いざとなると武帝も恐れない。「Ⅰ」を見た時には、こんな重要なキャラになるとは思わなかった。
衛 青：董 勇
衛皇后の弟、今は亡き平陽公主の夫だった。武帝の子供たちにも叔父として慕われている。現在は大司馬。「Ⅱ」からの続投だが、ますます地味になった。
衛子夫：茹 萍
武帝の皇后。太子・劉據と衛長公主の母。夫の武帝と子供たちとの間の板ばさみ。相変わらず自分を殺しておとなしくしているが（たまに何か言っても武帝はきかないけど）、演じる茹萍は「Ⅱ」の寧静よりずっと似合っていい感じ。
衛長公主：熊乃瑾
武帝と衛皇后の娘。太子の６歳年下の妹。馬奴の金童に恋する。霍祁連と仲良し。
太子（劉據）：趙熠洋
武帝と衛皇后の息子。ドラマ前半では23歳。李漢、季擒虎と義兄弟になる。真面目ないい青年なのだろうが、もう少し個性が欲しい。江充を信じたこと、趙妮子を愛したことが人生の二大失敗か。
鈎弋（趙妮子）。：柏妍安（ケリー）
太子が山東で出会い、恋に落ちた娘。しかし身分違いのためすぐに結婚できないでいたところ、江充に丸め込まれてしまい、結局武帝の後宮に入り鈎弋夫人と呼ばれる。やがて純朴な田舎娘がすっかり変貌。皇子・弗陵（後の昭帝）を生む。
王 印：翔 子
季安世の幕僚、季擒虎の師だった。夜郎遠征に従軍し、国王を説得して無血開場に成功したことで武帝に目をかけられるようになり、長安令になる。実は、張固（張湯）の忘れ形見で、出自を隠し母の姓を名乗っていた。父親ゆずりの鉄面無私だが、主父偃に私淑し、そのせいか意外に頓智もきく。
李 漢：高 昊
李勇（李陵）と匈奴の臙脂公主の息子。「Ⅱ」以来、秋嬋に育てられ、母親思いのいい子に育った。年下の霍祁連に「弟」呼ばわりされても素直に従っているのは、お人よしすぎ。太子、季擒虎と義兄弟。
季擒虎：路 焜
季安世の息子。御林軍に属する。太子、李漢と義兄弟。師の王印と、たぶん片思いしている紫薇公主に弱い。李漢ともどももう少し面白くなりそうなのに、手を抜かれている感じが気の毒。
劉細君：周 頴
江都王の娘。父が謀反を起こしたが失敗して死亡、一族とともに長安に護送される途中に逃亡する。郭解に救われ、さらに司馬遷、秋嬋、皇后にかくまわれるが。
紫薇公主：陳麗麗
夜郎国王の娘。漢に帰順したため、父とともに長安にやってくる。王印を愛し、煮え切らない王印相手に押して押して押しまくる。
李長生：蕭小華
江充のペテン仲間。後に不老長生の道士に化けて、江充とともに武帝をペテンにかける。しかしどう考えても、あの程度の嘘に騙されるほうが悪い。
王太后：鄔倩倩
武帝の母。景帝の後宮に入る前に結婚していたことが明らかになり、前夫との間の娘、すなわち武帝の異父姉が現れる。鄔倩倩はゲスト出演っぽい扱い。
金 童：何 欣
匈奴出身の馬奴。衛長公主の恋のお相手。どう考えても金日磾のことだが、ドラマ終了時は御馬監にすぎず、その後への伏線もないまま。というより、太子らが江充を殺そうとしていた時、どこで何をしていたんだ！ 死なすわけにはいかないので出番を作れなかったのか。
季安世：楊平友
今では大将軍。季擒虎の父。かつての皇帝の暗殺者も、武帝への忠義一筋の一方、保身にも気を配る、すっかり地味なおじさんになってしまった。いい人だし好きなんだけど。
郭 解：劉紀宏
有名な侠客で武芸の達人。劉細君をかくまう。最初はてっきり悪役だと思った。
司馬遷：陳旺林
太史令。って、こんな重臣なのか。三公と並んでいますが……？ ずっと「史記」の記述を続けている。
多 同：徐少強
夜郎国王、紫薇公主の父。往年の（今も？）香港ATVのスター・徐少強に驚いた！ 出番はほんのちょっとのつまらない役だったのにさらに驚いた！ 無理やり担ぎ出したのか、それとも彼はもう落ち目なのか、どっち？ 最近の香港ドラマ事情を知らないので分からない。気になる。
雪 蓮：クレジットなし
現・大宛国女王、「Ⅱ」の雪蓮公主の同名の娘。父は主父偃（いつの間に……）。長安に使者として来て、婿探しをする。「父のような人に嫁ぎたい」と言った時には、てっきり王印をめぐって紫薇公主と三角関係か、と期待したのだが。出番もちょっとだし、何のために出てきたのだ。
スタッフ
芸術顧問：楊暁雄、周之光
総監製：方文、張燕波
監 製：林佑欽、苗暁天
総策劃：鄒賽光、王平、薛桂枝
策 劃：廉志偉
編 劇：楊暁雄
美術指導：李継麟
武術指導：曹華
撮 影：甘運全
作 曲：姚傑軍
制片人・総導演：董力
出品人：賀赫、朱思恩、周偉成、喇培康
主題歌
片頭歌「守業更比創業難」 作詞：楊暁雄／作曲：蘇越／演唱：井崗山
片尾歌「忘了我」 作詞：楊暁雄／作曲：蘇越／演唱：黄格選