大漢天子Ⅱ

全40集/2003年

 「大漢天子」から5年後。それからあっという間に大宛遠征までやってしまうという、相変わらずたいへん乱暴なドラマ。しかし、毎回冒頭に「本劇純属虚構(このドラマはフィクションです)」とちゃんと出ているし、何より面白いのだから、まあいいか。「Ⅰ」のレビューではずいぶん悪口を書いたが、この程度に史実に不忠実なドラマは珍しくも何ともないのに、我ながら何が気に入らなかったのか。ただ、見ているうちに、私の頭の中では武帝と衛青と霍去病と李陵と李広利が同世代になってしまい、どこまでが史実でデタラメか、すっかり記憶が混乱してしまった。年表でも見て、頭の整理をしなくては。
 5年の間に武帝は、よくも悪くもすっかり皇帝らしくなった。西域への出兵など子々孫々の時代までを念頭に置いたスケールの大きな事業を志す一方、同時にそれは、忠臣の諫言を振り切った強引さと紙一重でもある。今はまだ有能な忠臣がいて暴走を止めてくれているが、史実を知っていてもいなくても、先が思いやられる。…・・・この危うさがまた魅力、というと褒めすぎか。また、東方朔に去られ、義兄弟たちを失って孤独を味わってきたことが、おそらく衛皇后と衛青に対する猜疑心に繋がっている。それを助長するのが、王太后と異父弟・田蚡、李夫人と兄・李広利で、武帝をめぐる三人の女性とそれぞれの兄弟が対比される形になっているのは、偶然か脚本の妙か。骨肉の争いは「Ⅰ」から続いているが、もっとも親しい身内さえ信用できなくなったことが、「Ⅲ」で描かれているはずの巫蠱の乱への伏線になるのかもしれない。
 「Ⅰ」の黄暁明は、出演者のうち4番目扱いだったものだが、今回は文句なしのトップ主演。皇帝姿もさまになってきて、ますますかっこいい。陳道明(回想シーンに少しだけ顔を出す)らの退場で、代わりに担ぎ出されたのは王剛と寧静。王剛はとぼけた味わいと時折見せる情熱との対比が鮮やか。ラブストーリーまであったのには仰天した。しかし、衛皇后役の寧静はいかがなものか。わざわざ寧静が演じるほどのキャラとは思えない。演技にもやる気が感じられないような。
 その他の脇を固めるベテラン陣では、シブい衛青(董勇)や、ドラマの清涼剤・汲黯(楊洪武)が捨てがたい。若手では季安世(劉虎)が、出番は少ないがお気に入り。
 鎧兜のデザイン、特に兜の羽飾が明らかに張藝謀の「HERO」をまねているのは、興ざめ。しかも同じ横店の秦王宮でロケしている。巨大な宮殿内部を俯瞰するカメラがやたらとぐるぐる動くのは、テレビゲームみたいに見える。
 東方朔→東方慧、李陵→李勇、張湯→張固などと、何の断りもなく名前が変わっているのはなぜだろうか。気になって気になって仕方がなかった。(2006年12月)

あらすじ
 死んだ汗血馬を三公と同格で葬るよう命じた武帝を諌めた汲黯は、それをきっかけに武帝に認められる。汲黯は主父偃を東方慧に匹敵する人材だと推挙するが、こちらはすぐには取り立てられない。王太后の異父弟の田蚡は、衛家の隆盛を快く思わず、武帝と衛皇后、衛青の離間を図り、李娃を後宮に送り込む。衛青への信頼がゆらいだ武帝は、次第に衛青を抑えて霍去病を取り立てようとする。やがて武帝は汗血馬を手に入れるため大宛へ使者を送るが、李娃の兄・李広利の失敗と匈奴による離間の策のため、武帝は大宛討伐を決意する。主父偃は遠征の失敗を予想し、武帝と賭けをすることに。……

登場人物&キャスト

漢武帝:黄暁明
 かつての能天気なお坊ちゃまは、かなり根暗になってきた。諫言をきかないのはまだしも、臣下をいびるのはどうかと。とはいえ大物らしい度量も持ち、とりあえずは名君といえる範疇だと思われる。時折冷酷さも見せるようになったが、黄暁明は冷たい表情をしているほうがかっこいい気がするので、似合っている。

秋 嬋:劉 芸
 匈奴に捕虜になったまま帰ってこない李勇(李陵)を李家で待ち続けていた。ついに自ら匈奴の地に探しに行くが、そこで目にしたのは李勇と臙脂の婚礼。ショックのあまり道観に入って出家したはずだが、好き勝手に出歩いていている。武帝に対等の口をきける唯一の人間。

主父偃:王 剛
 芝居を作って演じて、歌も演奏もお手の物、絵も描いてと多芸多才。東方慧(朔)と張固(湯)の才を併せ持つと自負するが、酒と女に韜晦したひねくれた態度とへらず口が災いし、なかなか武帝に認められない。しかしお国のため武帝のためを思う気持ちは人一倍。最後は、武帝に恋していたのかと一瞬思ってしまうほどだった。

衛子夫:寧 静
 皇太子を生み、皇后に立てられた。良妻賢母の鏡。ひたすら自分を殺して人のためを考えているが、ここまでだとかえって嫌味な気もする。黄暁明と並んでいるのを見ると、ああ寧静も老けたなあとちょっと悲しくなった。

衛 青:董 勇
 衛子夫の弟。どう見ても姉より年をくっている。妻は「Ⅰ」で死去した平陽公主(武帝の姉)。大将軍。真面目で有能な忠臣として、姉婿として、武帝の信頼厚いはずだったが。地位に奢らず、恩を忘れず、人を嫉まず恨まず、立派としか言いようのない人。昔を忘れず、今でも馬の世話や庭の草取りを自分でしているのもポイントが高い。

霍去病:李 立
   衛皇后を義母としているため、衛青とは叔父甥と呼び合う仲。衛青を尊敬し、慕っている。そのため武帝に衛青に代わって取り立てられるのを心苦しく思うが、匈奴との戦いでは赫々たる戦功を揚げる。秋嬋に片思い。

李 娃:何嘉儀
 史実の言うところの李夫人。李広利は兄。歌舞坊の女優だったが、陳皇后(阿嬌)の死後、瓜二つの容貌が武帝の目に留まる。田蚡の差し金で後宮入り、貴妃(漢代にはないはず)に封じられた。そういえば、劇中で「北方有佳人」が歌われるものと期待していたのに、なかった。何嘉儀は冒頭、瀕死の陳阿嬌も演じている。

汲 黯:楊洪武
 はじめは長安令、後に廷尉にまで出世する。真面目人間。主父偃の才知に感服し、武帝に推挙した。主父偃の言動に振り回されながらも、いつも心配してあげていて、二人の友情は実にいい感じ。この人が出てくるたびに、なごんだ。

田 蚡:関少曽
 王太后の異父弟。太尉の地位にあるものの兵権がなく、不満たらたらの無能なオヤジ。衛青と衛皇后を陥れようとケチな策略をあれこれと。しまいには、武帝の暗殺まで企む。

雪 蓮:阿曼古力
 大宛国王の娘。武帝を暗殺しようとはるばる長安にやってきて武帝に近づくが、失敗。自分を取り調べ、救ってくれた主父偃に惹かれる。ウイグル族(たぶん)の女優さんが出ているのは珍しい。ダンスもうまい。

李広利:胡広子
 李娃の兄で、もと芸人。大宛への使者となった時に自分の失敗を張遠に押し付けた挙句、遠征の口実を作ってしまう。衛青は遠征に反対、霍去病もボイコットしたため、遠征の指揮官に任じられた。当然うまくいかず、ついに逃亡。

季安世:劉 虎
 季布の6代目の子孫。季布が高祖に殺されたため、代々、皇帝を仇とつけ狙う。牢につながれていたが、田蚡の手引きで脱獄、お忍びの武帝の命を狙う。「少年包青天Ⅱ」の王朝が、またも暑苦しいキャラを濃く演じている。劉虎は現在、劉暁虎と改名したらしい。張紀中の「鹿鼎記」にも出演している模様。

張 遠:張 弓
 西域経営に腕を振るう寵臣。張騫の名前が変わったのだろうか。「定遠侯」だが、それって後漢の班超のことだと思うのだが。わけが分からぬ。

王太后:宋迎秋
 武帝の母。何かと異父弟の田蚡の肩を持つ。

李 敢:崔 勇(左)/李 広:于 敏(右)
 李勇(李陵)の叔父と祖父。李広は匈奴との戦いの折の失敗を恥じて自殺。李敢は衛青のせいだと恨んで殴ったため、それを憤った霍去病に殺される。

李 勇:杜 淳
 李陵の名がなぜか変更に。秋嬋のもと恋人。5年前に匈奴の捕虜になったが、降伏はせず、琨邪王の元に身柄を預けられたまま。はっきり言って、不幸を嘆いているだけのうっとうしい男。琨邪王の妹・臙脂と結婚し、一子・李漢をもうける。

玲 瓏:李悠悠
 田家の家妓? 父が淮南王の配下だったことをネタに田蚡に脅され、スパイとして衛青の屋敷に送り込まれる。


スタッフ
出品人:鄒賽光、楊志毅
総監製:程尉東、鄒賽光、王建、詹剛、王広群、張華立、李森池、周莉、王忠鈴
総策劃:夏陳安、陸康、趙依芳、周天江、瞿長江、任鳳霞、周之光、王平、顧令陽、馮晨、顔暁群、呂振侠
監 製:劉浜、魯東章、林佑欽、梅加加、辛敏成、張天、申暁誼、周寧生、朱思恩
策 劃:呉憲法、陳彤、郭妍、楊楊、朱権、韓巧萍、洪小量
総制片人:董力
芸術総監・編劇:楊暁雄
撮 像:周海軍
美術指導:李継麟
作 曲:姚傑軍
制片主任:許広慶
総導演:董力

主題歌
片頭歌「守業更比創業難」  作詞:楊暁雄/作曲:蘇越/演唱:井崗山
片尾歌「不醒夢」  作詞:姚謙/作曲:王美蓮/演唱:張宇、王美蓮

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